討伐完了
ザスッ!
俺が胸に剣を刺したことで、視界は何かが断ち切られたように歪み始めた。裸のサラ達はいつの間に消え、俺もその世界から飛ばされてしまう。
突然周囲が暗闇に包まれ、どうにか目を開けると──
「グギッ!?」
「グギャギャッ!?」
「グガギギ!」
いつの間にか地面に倒れて仰向けに寝ていた俺の視界には、明るくこの世界を照らす月と、先の尖った帽子を被った、2頭身の3匹の魔物が映っていた。体勢からして、彼らは倒れていた俺の顔を覗き込んでいたようだ。
魔物達は俺が目を覚ましたのに驚いて、3匹同時に後ろへ跳んで距離を置いた。
魔物ファンデル。スキルを持つ魔物で、【強制夢想】によって敵を眠らせ、【夢操作】で眠らせた敵の夢を操作する。1度でも夢の世界から離れたくないと心に思ってしまえば、2度とその世界から逃れることが出来ず死んでしまうという強力な魔物だ。
ところで、何故俺がこんなにもファンデルについて詳しく知っているのかと言うと、500年前に魔王城を襲撃した時、ファンデルが城の警備に着いていたのだ。
理由は簡単、ファンデルは【魔剣デザビル】によって作り出された魔物だからだ。
物に魔力が宿り、魔物となる事例は珍しくない。物には精神というものがないので、魔力に取り込まれてしまう可能性が高い。
だが、物の影響によって魔物が発生するというのは、通常ならば有り得ない。
そして、そんな芸当は聖剣と魔剣しか行うことが出来ない。聖剣と魔剣は精神が存在し、魔力に取り込まれないからだ。
話を戻すが、ファンデルはスキルは強力だが、攻撃力はそこまで高くない。勝負の鍵となるのは【強制夢想】をどう防ぐかである。本来ならここで色々な方法を試してスキルの欠点や防御方法を探すのだが、それは遥か500年前に実証済みだ。
「ギャギグァッ!」
遂に我慢出来なくなったのか、ファンデルの1体がこちらに走ってくる。そして、そのファンデルは小さい掌を俺を目掛けて向けて来た。
これはファンデルが【強制夢想】を行う時の動作だ。【強制夢想】はファンデルの掌から超音波が放出されるもので、その超音波を聞いた者が強制的に入眠させられてしまう。
この動作を行った数秒後には【強制夢想】が発動され、もう一度夢の世界へと飛ばされてしまうだろう。
だが、対処法はある。
超音波と超音波がぶつかるとどうなるか。より強い方の超音波が弱い方の超音波を打ち消すのだ。
つまり、その超音波を防ぐにはそれよりも強い超音波で書き消せば良い。
「魔法【高質音波】!」
俺はスゥーッと息を肺に取り込み、その全てを超音波に変換して放つ。結果、ファンデルの超音波は見事に打ち消され、まだ余力のある俺の超音波が3体のファンデル達を飲み込み──
「ファンデル、討伐完了だ!」
男らしい声で勝利を宣言した俺だが、喉の異変に気づく。喉が少々傷んでいるようだ。
──【高質音波】のせいか。
【高質音波】は射程も長く複数体を同時に攻撃出来るかなり強力な技だが、それ故に欠点もある。
声を普段出すことの無い超音波に変換するので、喉への負担がとても大きいのだ。それに、大量の超音波を放出するので魔力消費が激しい。
──これ以上は使わないでおくか。この調子ならいつか喉が壊れる。
俺はその場で倒れたファンデル達を放っておき、【幻の森】の捜索を再開した。
■
翌朝。
「おはよう……ってどうしたの!? その顔!」
【収納魔法】から出てきたサラの第一声はそれだった。
「ん? 俺の顔に何か付いてるか?」
「アラン、あなた今日寝てないでしょ! 目の下に隈が出来てるわ」
俺は確認の為に【収納魔法】から手鏡を取り出すが、確かに目の下に横2センチ、縦1センチ程の大きな隈が映っていた。サラの言った通り俺は一晩中捜索をしていた訳で、睡眠など取っていない。転生前では20日間睡眠を取らなくても、巨大グレイズ程度の魔物なら倒すことが出来た。
──体が脆いと色々と面倒だな。
「まぁ、大丈夫だ。心配は要らないさ」
俺はこの返答で休憩云々の話題は終わると思ったのだが──
「いえ、駄目よ! 今日は休んでもらいます!」
「はぁ!?」




