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番外編 異空間の女子会

 

「よいしょっ、と!」


 サラは声と同時に真っ暗な穴を抜け出し、着地する。ここはアランが【収納魔法】で作った空間である。サラは周囲を見回し、観察する。


「へぇ……案外広いのね。私の家のリビングよりは少し狭いけれど……」


 広さは大体10×20メートルの200平方メートルくらいだろうか。汚れの1つも無い真っ白な壁がサラを囲んでいる。タンスや戸棚はきちっと壁にくっ付けられており、お洒落な照明やベッドが良い雰囲気を醸し出す。


 しかし、サラはこの空間は居心地が悪かった。その理由はただ1つ、電化製品が一切無いのだ。


 昔に読んだ本に書いてあったのだが、電化製品が普及したのは今から300年前らしく、アランが生きていた500年前にはベッドや椅子、机などの家具はあったものの、電気を通して動かす物は無かったのだそう。

 そんな面を見る度、アランがあの英雄の勇者だったことを再認識させられる。


 ──それにしても、アランと同じ空間で1夜を共に……ね。


 サラは自分の胸の高鳴りを感じる。しかし、サラはその高鳴りに疑問を抱いていた。彼女は自分がアランに好意を抱いていることを気づいてはいなかった。

 その恋心に感づき、またそれの成就を阻止しようとする1人の──1本の剣があった。


「ねぇ、サラって言うんですって?」


「ひゃっ!?」


 サラは突然の背後からの声に驚き、焦った様子で振り向いた。もし誰かが侵入してきたのなら、早急にアランに伝えなければならない。だが、サラがそれをすることは無かった。


「えっと……ディアさんでしたっけ?」


「あなたみたいな小汚い輩に、名前なんて呼ばれたくないですわっ!」


 ──あ、そう言えばこの人、初めて会った私に敵対心剥き出しだったっけ……。


 サラはアランの前とは態度が違いすぎる彼女に少し苦笑いしながらも、揺れる金髪をじっと見ながらふと疑問を感じた。


 一体、どうやって具現化したのだろうか。

 ディアが初めて具現化した時、アランの魔力を強制的に奪い、具現化させたらしい。しかし、普通に考えて、それをするにはアランの魔力が近くに無いと出来ないはずだ。


 アランが居ないのに関わらずディアが具現化出来たのは、アランが遠隔で魔力を送って来たのか。いや、アランが貴重な魔力をそんな無駄なことに使う訳が無い。


 そんなサラの心を読んだディアは、淡々と答えを述べる。


「私はこの【収納魔法】の空間にある魔力を使って具現化しているだけです。それに、アラン様に危害が及ぶ可能性はありません。この空間の魔力が少なくなれば、私の能力でまた魔力を増やせば良い話ですから」


「その……何でそんなにツンツンしているんですか?」


 すると、ディアは露骨に苛立ちを見せる。


「そんなもの、あなたが崇高なるアラン様の隣に近寄って来て、アラン様の優しさにつけ込んで親密な関係になろうとしているからでしょうがっ!」


「そ、そんなことなんて──」


 ──考えてませんよっ!


 何故か、そう声にして言うことは出来なかった。声に出してしまえば、永久に心に刻んでしまう気がしたからだ。声に出すというのはそれ程に重いものであり、それをサラの本能が知っており、抵抗したのだ。


「ほら、私の言った通りです。あなたは本当はアラン様のことが──」


「違います!」


 しかし、サラはその本能に逆らった。

 サラはディアがアランのことが好きなのは知っていた。そして、サラ自身もディアと同じ好意をアランに抱いていることを、今この瞬間気づいてしまった。

 そして、そんなことは心の読めるディアも分かっていた。


 それでも、サラは自分からアランへの好意を断ち切ろうとしたのだ。


「違う! あなたはアラン様のことが──」


「好きじゃない! 好きじゃないです! 今はまだ──好きでは無いです……」


 ──ディアさんはちゃんと自分の心に向き合っている。彼女は500年前からアランを知っているのだ。その心を、たった1日しか共に過ごしていない私が、ディアさんと同じ心だと言える資格なんてない。


 そんな雪のように優しく、悲しげなサラの瞳を見たディアは、次の瞬間誰もが予想しなかった発言を繰り出した。


「……惚れました!」


「……は?」


「あなたのその優しさ、心意気、全てに惚れました! アラン様のことは大好きですが、サラのことも大好きです! いえ、これからはサラ様と呼ばせて下さい! でも、アラン様のことは諦めませんよっ!」


 こうして自己満足したディアは、笑顔で魔剣に戻ってしまった。


 ──一体何なのよ……。


 溜め息をつきながらもサラはふとアランの顔を思い出し、顔を赤く染めてしまう。


「別にっ、好きじゃない……はず……」


 サラは不本意で出現した獣耳と尻尾をピコピコと動かしながら、唸る恋心に悶えるのであった。


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