魔物"サラ"
リーリスのお陰で【幻の森】に魔剣が存在することが分かった。次いでは【幻の森】がどこにあるか情報収集したいところだが、それについて1番詳しそうなリーリスが知らないということは、他の村人も知らないのだろう。それに、誰かが知っていればこの500年の間に【幻の森】に潜入し、魔剣を売るなり家宝にしたりされたはずだ。
リーリスの家を出た俺は、外の景色に少し戸惑う。
外は暗闇によって埋め尽くされ、空の星々と大部分が欠けた月、ポツポツと見える村人の家から漏れ出る暖かい光が、本当の暗闇にさせるまいと抵抗している。
俺がリーリスに一太刀を浴びせられて気絶している間に、一体どれだけの時間が流れたのだろうか。涼しい夜風が俺とサラの間をすり抜けた。
「サラ、俺が気絶してからどれだけ経った?」
「ほんの5、6時間だけど……どうして?」
「いや、本当は色々と調べてみようと思ったんだが……今日はもう遅い。【幻の森】を探すのは明日にしよう」
サラが頷いたのを合図に、俺は【収納魔法】を唱える。
「俺はもう少しだけ調べてみるから、先に寝ておいてくれ」
「わかったわ、おやすみなさい」
サラは俺に手を振った後、入口の穴の中に入っていった。俺も手を振ってサラが【収納魔法】に完全に入ったのを確認すると、穴を閉じた。
サラには非常事態時に助けを求められるよう【異空間伝心魔法】を教えたので、何かあればすぐに伝えてくれる。広くて安全、【収納魔法】はやはり便利だ。
──さて、と。
【幻の森】の仕掛けは大体目星がついている。今日はそれの確認を行う予定だったのだが、暗くなってしまうと奴らが活動を始めてしまうので、サラには先に寝てもらったのだ。
方角は【バージ村】の南側、そこから巨大な魔力を感じる。きっと【幻の森】があるのだろう。
俺は【脚力強化】を使い、目的地に到着した。周囲は村人の家や街灯は見当たらず、それどころか道さえも腰付近まである雑草によって隠されてしまっている。
と、一瞬意識が離れそうになる。脳みそだけが頭蓋骨やら色々なものを通り越して、どこかへ行ってしまうような気がした。
俺は気を張るため、2度頬を叩く。すると、手と頬が当たった音とは違う、何かの鳴き声がした。
「来たか……」
「「「……ガァー……ガァルル」」」
俺は腰の剣を抜くと、標的に向ける。剣先には、体の腐った人型の魔物達が遠くからこちらにゆっくりと歩いて来ていた。数は大体10体前後だ。俺は予想と違う魔物だったことに少し驚く。
「ま、取り敢えずさっさと終わらせ……ん?」
その魔物達は俺と10メートルの位置に着くと、一斉に足を止めた。
──一体何を……!
すると、魔物達の体が白い霧状の物質に包まれ、霧が晴れた頃には──全ての魔物達がサラの体をしていた。
栗色の長い髪も大きくクリっとした眼も、ナイスバディも白い肌も全てサラのものだった。
こんなスキル、見たことがない。体を変色させるスキルは見たことがあるし、魔法なら容姿を変更するものは豊富にある。しかし、魔物が魔法など使えるはずがない。それに、この魔物達、サラと魔力の質が全く同じなのだ。
──こんなスキル、存在するのか!?
それに、困った問題がもう1つある。
彼女達は何故か、服を着ていないのだ。上半身も下半身も、靴さえも履いておらず、そのツルツルで張りのある肌が、俺をとてつもない罪悪感に陥らせる。
しかし、彼女達はそんな俺の気持ちなど関係無く、足を再度動かし始める。一体何故、直接会ってもいないのにこんなに正確に変身できるのだろうか。そこで、俺はあることに気づいた。
「成程、そういう事かっ」
俺は裸のサラ達に向いていた剣先を俺の胸元に向け直した。
俺の予感が正しければ、これでタネが明らかになる。ただ、外れていれば……俺はここで命を落とす。
だが、俺は1ミリの躊躇もなく──心臓辺りに剣を深く差し込んだ。




