奇妙な勇者
勇者のその一言で、俺の表情はより険しくなる。
ただの出来心で俺とコンタクトを取ろうとしただけなのならわざわざ顔を拝む必要は無いと思っていたが、魔剣を狙っているのなら話は別だ。
俺はゆっくりと後ろに体を方向転換し、勇者の姿を拝んだ。
が、勇者は奇妙な仮面を被っていて、顔が見えないようになっていた。その仮面を被った状態で分かったのは、俺と同じ黒色の髪に、俺と同じくらいの身長だということだった。
そのところはやはり血筋というものがあるのだろうか。
「残念ながら、素顔をお見せすることは出来ません。色々と迷惑なので……ね。あ、ちなみに【魔力感知魔法】を使っても無駄ですよ。妨害魔法を10重にかけていますので」
俺は勇者に向かって舌打ちを飛ばすと、次いでの質問に切り替えた。
「お前、【魔剣教会】に関係しているのか?」
「【魔剣教会】? あぁ、魔剣を集めていると最近噂の集団のことですね。残念ながら彼らと僕は何の関係もありません」
勇者は「まぁ、彼らもすぐに消しますけどね」と軽やかな声で放った。消す、と勇者は簡単に言ったが、その言葉にはしっかりと重みがある。
──こいつは危険人物だな。
俺は自分の情報を最低限明かさぬよう気をつけながら、会話を続ける。
「何の為に魔剣を使う?」
「ふふ……そんなの決まっているじゃないですか、勇者になる為ですよ!」
「何言ってんだ、お前はもう勇者じゃないか」
俺がそう当たり前の返答をすると、勇者は落胆したように溜め息をつく。
「分かってないですね。勇者というものは戦場に赴き、命懸けで皆を先導し、勝利を勝ち取ること! 今の政治やら式辞やら国の文化やら国交やら……どうっでもいい! こんなものは勇者のすることでは無いのですよ!」
今の発言からして、勇者はそのような政治的な事を主体として行っているらしい。かといって勇者のようにそれを否定する訳では無いが、500年前とは随分待遇が変わっているようだ。
俺達が沈黙状態のまま向き合っていると、突然空間が歪み始めた。ぐにゃぐにゃと波のように空間が蠢いている。勿論、その空間に存在している俺や勇者もぐにゃぐにゃと畝り動いていた。
「……そろそろ時間ですね。勇者の存在意義については次に現実で会った時に致しましょう。そして、魔剣を引き渡す件については?」
「……良いわけねぇだろッ!」
「まぁ、そう言うと思っていましたよ。交渉で得られないのなら、武力を行使するまでです。それでは、ごきげんよう──」
勇者がそう言い終えた瞬間、空間は真っ白な光で覆われ、俺は耐えられず目を閉じる。
数秒後に光が落ち着いたようなので、目を開けてみると──そこには眼の周りが赤く腫れたサラと、どこか寂しげな表情をした老人が、ベッドに仰向けになった俺を覗き込んでいた。
──チッ、逃げられたか。
相手に俺の顔を知られた上に、俺の方は相手の情報を殆ど奪い取ることが出来なかった。心の底から悔しさが湧き出るのを感じる──と、今はサラ達に現況を聞かなければならない。
俺は起き上がり、周囲を見渡す。俺達がいる空間は木造建築の家の小部屋らしい。部屋の隅にある小棚に老人が映った写真が飾られているので、ここは老人の家なのだろう。
「……サラ、大丈夫か?」
俺は声を出した時、2つのことに驚いた。
1つは思ったより声が出なかったこと。そして、もう1つは体に激痛が走ったこと。俺が自分の体を見下ろすと、胸部に何重もの包帯が巻かれていた。
老人がいくら手加減して斬ったとしても、この成長過程の体では軽傷では済まないということだ。
「大丈夫は、こっちのセリフでしょっ!」
そういうなり、サラは涙を零して俺に強く抱きついてくる。その衝撃でまたも激痛が走ったが、この感動的な空気を壊さない為にも、悲鳴をあげるのを必死に堪える。
「これこれ、そうイチャイチャするのは2人きりの時にしておくれ」
サラはふと我に返ったようで、顔を真っ赤に染めながら俺と適切な距離を取る。
──じいさん、感謝の限りだ……!
俺は老人が胸元の太刀傷を作ったことをしばし忘れて、老人に心の中で感謝の言葉を述べた。




