機械と世界
「……俺が転生する前はな、【魔力感知魔法】は1キロメートルまで届いたし、それを四六時中発動しておくのが身を守る為の第1歩だったんだ」
「い、1キロを四六時中!? 考えられないわ……私なんて1分で限界なのに……」
「ん? そうなのか?」
魔法を唱えるには2つのモノが必要で、1つは魔力だ。魔法の難易度が高いほど魔力が多く必要で、使用するのも難しい。
ちなみに、魔法の難易度は転生前では下位魔法、上位魔法、特異魔法の3段階で、【魔力感知魔法】は下位魔法だ。
そして、もう1つは魔法術式だ。これによって消費魔力や魔法の効果が変化するのだが、この時代の人間は食事を摂ることで魔力を簡単に増加させることが可能、問題があるとしたら魔法術式の方だろう。
「サラ、1度【収納魔法】の魔法術式を見せてくれないか?」
「えぇ、いいけど……書くものが無いから1度上に上がりましょう」
──別に空中に映し出させてくれれば良いのだが……まさかそんなことも出来ないなんて言うんじゃないだろうな!?
かといって風通りが悪く空気が重い地下にいる必要は全く無いので、俺達は階段を上り、さっきのように滑ったり等のアクシデントは起きず、無事1階に到着した。
サラは近くの棚に重ねておいてあった紙を1枚引き抜き、ポケットに手を突っ込んで羽根ペンを取り出す。彼女は数10秒程羽根ペンを紙の上で動かすと、「できた!」と言って紙を俺に渡して来た。
「なっ……」
俺は紙に記された黒文字に目を通すが、あまりの拙さに愕然としてしまった。例えば最初の魔法起動の役割を持つ魔法術式を少し改良すれば、使用する魔力が3分の1にまで減少するし、魔法精度に関わる部分をコンパクトにすれば、魔法効果は2倍に……いや、4倍に増幅する。
俺は紙のに指を近づけ、魔法で黒文字の形を変化させる。魔法術式を改良してやったのだ。
「ほら、この魔法術式で1回やってみろ」
「え……うん。【収納魔法】」
サラは新たな魔法術式に向かい合い、魔法を発動する。
すると、サラの目の前には俺程とはいかないが、初めの【収納魔法】の3倍くらいの大きさの穴が出現した。
しかし、サラはそれを自分が出現させたことに自覚が無いらしく、かなり動揺している。
「え……ちょ……これ、どういうこと!?」
「サラが見せてくれた【収納魔法】に改良をしたまでだ」
「それは分かるけど、一体どこを治したの? この【収納魔法】の魔法術式は以前に勇者様が改良を施していたのに……」
「ん? この時代にも勇者がいるのか?」
「ええ。初代勇者様からの子孫が今の勇者様になっているのよ。アランも勇者様なんだから、アランの親戚なんじゃない?」
──おかしいな。
俺は子供など作れずに転生してしまったので、勇者の血はそこで終わっているはず、即ち子孫がいることは有り得ない。若しくは勇者の血を引く者が俺以外に居たのだろうか。
「まぁ、それは置いといて。サラ、この世界の地図は無いか? より詳細に書かれているやつだ」
「あるにはあるけど、私1人じゃ持てないから手伝って」
そう言うと、サラは手をこまねきながら部屋に入っていった。俺はサラの後をついて行き、同じ部屋に入る。
その部屋には物は1つしか無かった。そう、縦2メートル、横1メートル20センチの分厚い本が、部屋の狭い空間を喰らっていたのだ。
「こ、これは?」
「機械と魔法が組み合わされて作られた世界地図よ。国が毎年情報を更新しているの。殆どの場所に説明が加えられているから、とても便利よ。ただ、大掛かりな仕掛けだから大きくなってしまうの、その点は不便だけどね」
──これが機械か。見たところ、このシステムを全て魔法で構築するのも出来そうだし、それならこの大きさよりもコンパクトになると思うが。
「よし、じゃあこれをリビングに持っていくよ。じゃあ、私はこっちを持つからあっち持って」
「いや、それよりもこの方が速い」
俺は【収納魔法】を唱え、巨大な本を収納させた。そしてリビングに移動してから、もう一度取り出す。
歓声を上げながら手を叩くサラは放っておき、俺は巨大な本──世界地図を開いた。




