謎の薬
男が薬品を口に入れた途端、男の体が不自然に動き出し、男自身は呻き声を上げる。その状態が数秒もの間続き、やがて落ち着いて男は息を吐いた。しかし、男が口から出したものは薄暗い緑色をしていた。
「この薬は魔剣から抽出した成分が入っていてなぁ、摂取すれば一定時間、体が急成長して強くなるってわけさぁ……」
「サラ、下がってろ」
「……うん!」
俺は腰の剣を再び構える。魔法を使わなくても分かる程、この男の気配が段違いに変わっている。出来れば、その薬とやらを【魔法分析】したいのだが、どうやらそんな暇は与えてくれないようだ。
「死ねぇぇぇ!!」
金属音と共に男と俺の剣が交わる。その瞬間、交わった剣から強い風が生じ、周囲の草や木々が揺れる。
この男、威力も速度も桁違いに上がっている。
俺は1歩下がり、もう一度剣を構え直して男の元へ向かう。体勢を低くし、足に剣を向かわせるが、男はその狙いに気づき、あと少しの所で刃を止められてしまう。
男は馬鹿力で俺を押し戻すと、強烈な突きを飛ばす。俺は剣を縦に持ち、男の突きを滑らすように流した。剣と剣の接触部に火花が飛び散る。
──これではキリが無いな。長期戦になると体の小さい俺が不利になる。なら……次の1発で終わらせる!
俺は剣を横の直線を描くように構えると、剣先の延長線上に男の剣を設置する。段違いの速度で剣を動かし、相手の武器を破壊する技の構えだ。
俺は集中して狙いを定めると、剣を延長線上に飛ばす。
「我流・弐の技・雷速針!」
俺の剣は見事に男の剣に当たり、その剣は攻撃を受けた直後に全体にヒビが入り、バラバラに壊れてしまった。
「す、すごいっ……」
俺はサラの感想を耳に収めつつ、手ぶらの男に切りかかる。しかし、男はそれを防ごうともせず、いとも簡単に斬撃を浴びせる事が出来た。
だが、確かに斬りつけた男の体には何も残っておらず、ここぞとばかりに男は大袈裟に笑う。
「フハハハハ、残念だったなぁ。俺の強靭なる体はお前の斬撃をも通さん! さぁ、後は俺の掌でお前の脳みそをぺしゃんこに潰すだけ……あ?」
男が話している途中で俺は斬撃を打ち込み、言い終わった頃には、男の体には大きなクロスが刻み込まれていた。
そこからは大量の血が噴き出しており、男は信じられないといった顔で赤く染まった体を眺める。
「ごめんな、今の俺の強さじゃ手加減出来なかった」
俺が謝罪の言葉を述べるのと男が倒れるのは同時だった。残ったもう一人の男がそれを見て悲鳴を上げる。
「さて、お前達が持ってきたこの紙、魔法がかけられているようだが……どういうことか説明してくれるな?」
男は俺が口を開いた途端、一目散に走り、この場を去っていった。俺に立ち向かい、そして敗北して倒れてしまった、仲間であったはずの男を見捨てて。
「サラ、良かったな。お前の父さんは無実だよ」
「そう……良かった……」
俺が声をかけるとサラは気が抜けたようで、その場にへたり込んで安堵の息を漏らす。
「嘘みたいね。昨日までずっと借金取り達に追われて、希望の無い人生を生きていくんだと思っていたのよ。そんな人生なら死んだ方がマシだって、本気で思っていたわ。でも、あなたが現れて、借金取りも追い払えたし、昨日までの人生観が全て崩れ落ちたわ。全部あなたのお陰よ、ありがとう」
「俺のお陰じゃないさ。サラは俺を見つけた時、借金取りから逃げようとしてたんだろ? じゃないと、幾ら強いスキルがあったってあんな魔物だらけの森になんの目的も無く入る筈がない。森を走っていた君は、偶然にも倒れた俺を見つけてしまった。その時、俺を助ける為にもう一度この街のこの家に戻って来たのはサラの意思だろ?」
ついでに「俺を助けずに見捨てる事も出来たんだぜ?」と言葉を補う。サラは少し前の過去を見ているような顔をして、「見捨てたら後悔すると思ったのよ」と答えた。
サラは本当に良い人なのだろう。彼女が口に出す一言一言が、優しさという重みを抱いて俺に伝わってくるのだ。
彼女なら、信じてくれるだろうか。
ふとそんな疑問が頭をよぎると、俺はサラに質問してしまった。
「なぁ、サラ。俺が500年前、魔王を討ち滅ぼした英雄、勇者アランだって言うと信じるか?」




