優しい少女
サラの「覚悟は良いのね?」宣言から30分後、俺はリビングで食卓の椅子に座っていた。壁に掛けられた時計は午前10時を指していた。
調理器具や調味料が陳列している、恐らく台所であろう所からサラが大きな鍋を抱えて出て来た。鍋が重いようで、彼女は苦しそうな顔を浮かべながらこちらにゆっくりと近づいて来て、食卓の上に鍋を勢い良く置き、大きな音を立たせる。
「おまちどうさまっ!」
サラの言葉と同時に鍋の中から匂いが湧き出る。それを何気なく吸った俺は、想像を絶する匂いに思わずむせてしまった。
慌てて鍋の中を覗くと、そこには何か判別出来ない草やドロドロの物体や太い魚の骨が浮かんだ紫色の液体が満たされていた。
「えーと……この産業廃棄物は何に使うのかな?」
「勿論、食べる為よ! さあ!」
──さあ! って……
俺はサラのキラキラと輝く期待した眼に、仕方が無く付属のスプーンで紫色の液体を抉りとる。数回深呼吸を行った後、紫色の液体をパクッと口に含み、味を確かめずに飲み込む。
「ちょっとー、しっかりと味見してよー!」
「何を言っている、しっかりと味見したさ……ん?」
突然、腹が大きく音を鳴らす。と、その瞬間、急激に腹が痛くなり、俺はサラにトイレの場所を聞くと急いで駆け込んだ。
──これはヤバイ!
その後も俺はトイレに篭もり、20分の死闘の末、サラの元へ生還する。
俺はすぐに空気がおかしいことに気づく。鍋は片付けられており、サラは体育座りをして俯いていた。何故か彼女の周囲の空気が非常に重たく感じる。
「サラ、どうかしたか?」
俺が声をかけると、サラは俯けていた顔を持ち上げた。俺は彼女の顔に驚く。
サラは泣いていたのだ。
「だってぇー、食べた瞬間からトイレに行っちゃうし。意外と自信あったから。ねぇ……そんなに私の料理……不味い?」
──あの産業廃棄物に自信がある時点で、どれだけ不器用なのか考えものだな。
とは言わず、ここは優しい言葉でサラのご機嫌伺いをする。
「な、何言ってんだよ! 俺の体を考えて作ってくれたんだろ? 真心を込めて作ったものには何かが宿るんだ。それさえあれば味なんて二の次さ」
「ホント?」
「ああ」
これは嘘ではない。俺はサラの料理を予め【魔力分析】していたのだが、『マロクピックス』という栄養素が含まれていた。この栄養素は摂取すると魔力の回復量が増加するのだ。
まあ、これも書斎にあった本から手に入れた知識なのだが。
ちなみに、【魔力分析】は消費する魔力量によって分析結果が違い、消費する魔力が多いほど詳しく分析されるのだ。
「それにしても、済まないな。フカフカのベッドで保護され、料理まで振舞ってもらって」
「いいわよ、どうせこの家も今日で最後なんだから……」
サラはそう言うと浮かない顔をする。「どういうことだ?」と俺が聞くと、サラは躊躇いながらも事情を話してくれた。
「先月に両親が亡くなって、私は祖父母も亡くなっていたから、1人になっちゃって……この家は両親と一緒に暮らしていた家で、少しお金も残しておいてくれてたから、それで暮らしていたの」
サラは両親を思い出すように部屋を見回す。
「でも、1週間前に借金取りが来て、両親の借金が残ってるから、この家を売って金にして借金を返せって……でも、両親は借金なんて作ってなかった! きっとあの人達のデタラメなのよ」
サラは感情が高ぶったせいか、段々と声量が大きくなる。サラの両親が借金を作っていたかは分からないが、サラがそれを信じていないのは本当なのだろう。
「そのあの人達っていうのは、借金取りのことか?」
「うん、あの人達は1つの団体に入っているの。その団体の名は【魔剣教会】」
「魔剣……教会……」
──名前に魔剣と付くということは、何か関係があるはずだ。もしかしたら魔剣の居場所も分かるかもしれない。
俺はその話を詳しく伺うことにした。




