第1章。孤島で (1)
一日に数十隻の貨物船が行き交う首都島。 古代の神の名を冠した大都市アトラスは、四方が巨大な海に遮られて孤立したが、海という盾を背負って長い歴史の間、大いに栄えてきたという。 都市を包み込む青い海、そしてその向こうにあると言われる金の国の存在は、アトラス人に地平線の向こうへの深い冒険心を刺激させる。長い冒険の試みは、彼らの測量学と航海術の発展に大きく寄与することになる。 彼らが作り上げた地図は巨大な目となり、深い航海の経験からもたらされた気象学の発展もまた巨大な耳となった。 アトラスが自分たちの測量と航海を助けるために作り出した恵まれた発明品は、この世で初めて猛烈な自然に弱い人間が知恵を背負って挑戦できる機会を与えてくれた。
そのように輝く考えと発見がこの都市に強靭な国として活躍できるようにし、大陸とは距離的に離れているにもかかわらず、周辺の大陸へ進出し始め、周辺都市を徐々に植民化し始めた。 周辺の都市たちの行政的中心地の役割を果たすようになったこの巨大な国は、時間が経つにつれ、ここの高度な知恵を学びに来た他国の民たちによって次第に人口が増え、島全体が新しい臣民たちのための真っ白な大理石の建築物で覆われるようになる。 それはまさに水上に浮かび上がってきた巨大な城のような姿をして、海の上の要塞とも呼ばれている。
今から1ヵ月後、1度しかないアトラスのお姫様の15回目の誕生日が訪れる。 大祭を準備するこの期間。 国王に変わらぬ忠誠心を誇示するため、そして経済的な利益のため、そして出世のチャンスを掴むため、各国の貴族や商人たちが世界各地から持ってきた多量の貨物を積んだ数百、数千の船がアトラスを訪れる。 巨大な島を覆うほどの船が港に停泊するその姿は、もしあなたが見たら一生忘れられないほど巨大な壮観を形成していると言っても過言ではないだろう。
この巨大で華麗な要塞アトラスを眺める見窄らしい小さな島がある。本国とは少し離れている無人島のように見えるここは、白い大理石からなるアトラスムードとは全く異なる。 商人たちも、ここに来る客たちも、たまに遠くからその島を眺めながら、その対照的な風景を胸の中に収めるばかり。
そんな小さな島に、一人誰かが座っていた。 白いの要塞アトラスに向かう海辺に腰を掛け、遠くに見える帆船たちをうんざりと眺める人。 ほのかな茶色のおかっぱボブ、こげ茶色の服と黒く垢じみた綿ズボンを穿いた姿を誰が見ると、その声を聞けなかった人に明らかに男の子のように見せていた。
『海よ、海よ』
静かな波音に聞き流すように、私は浜辺に座って静かな声でつぶやいた。 口から出された言葉は、うねる波の音とともに乱れていった。 眼前に見える数えない船たち、そして遠くまで聞こえてくる音と音、いったいどこに向かっているのだろう。
『海よ、海よ。 あそこには何が起こっているの?』
次に来る波の音にリズムを合わせて、私は知らせをを知っているはずの海様にもう一度聞いてみる。 質問を受けた海様は口をつぐんだ。 浜辺に体当たりして水が壊れるような、不規則な音を作るだけだった。 私は、それをぼんやりと眺めている。
そしてしばらくして、私は視界に入る小さな船を見て、うれしさで身を立ち上がらせる。
『姉さん、いらっしゃい』
『あら、ルリエ。 待ってたの?』
私が迎えているのは、この島に住んでいる、私のたった一人だけの家族の姉。真っ白な肌にほのかな青い光の縮れ毛、そして体から発するりんごに嚙みついた時に感じられそうなさわやかな香りとともに、明るい色の端正な装いをして、自然物溢れる島の雰囲気とはかなり異質な、高級な雰囲気を漂わせる。
姉は一定周期で陸地に行ってきた。私は島をむやみに離れるには幼すぎて、陸地の知らせはいつも姉を通じて聞いている。
船から降りて、彼女は船頭に軽くあいさつし、コインを投げ、荷物を下ろす。船頭は長い言葉なく彼女に目礼をしては渡し舟を再び上げては、霧の中に消えていった。
私は彼女にしがみついて、彼女の体臭をかぐ。長い間嗅いできたリンゴの木の香り。でも、少し久しぶりに嗅ぐその香り。それが当分の間不安だった私の心を落ち着かせる。
『私を待っているのかと思ったら、遠くの船を見てたんだ』
『お姉さんも待っていたよ。 でもでも私、こんなのは生まれて初めて見たよ。』
『あそこにいる船はそんなに不思議なの?』
『でも見て』
彼女は私の周りを見渡し、横に座り私の見つめるところをじっと見つめる。目に見える、白い島に向かう船の壮観。
『朝からお姉さんを待っていたら、あの船達が次から次へと押し寄せていた。』
『私もすごく驚いた。』
『お姉さんは何の事か知ってる?』
『もうすぐ陸地で偉い人のお誕生日が来るんだって』
『偉い人誰?』
『この国のお姫様』
『あの有名なお姫様?』
『一ヵ月後には彼女の15番目の誕生日だって。それを祝うために以前になかった大きな祭りを開くなんてこと。』
『お姉さんはすべてを知っているんだよな』
この国のお姫様。この国には王という貴族を超えるとても凄く偉い人がいて、お姫様は彼の娘だと、そして彼女はこの国で最も高貴で美しいと、姉さんは海を眺めながら言った。
『そして知ってる? お祭りのために、今まで顔を見せなかったお姫様が、初めて世間に顔を出すなんてこと』
『そんなにきれいな人がなぜ今まで人に顔を見せなかったの?』
『それは私にも分からない』
『お姉さんはいつも重要な部分はよく知らないんだよな』
『私はお貴族の話はよく分からないから』
世の中はすべてが複雑だから、理由を短く言いにくい部分がある。多分そういうのだろう。と説明を付け加えるお姉さん。なるほどね。
『祭り…行って見たい。』
『そうなの?』
『この島には何もないから、お姉ちゃんがやってくれる誕生日パーティーを除いては祭りということもないから。』
『姉さんの痛い部分を刺すよね。バカリエ』
『いたたっ』
その言葉に少し腹が立ったのか、私の頬をつねる姉、姉は私の頬を捩った指を上下に振る舞う。それから、「いたたっ」うなる私の表情を見て、にっこり笑い、その手を放って、私の頬を撫でてくれる。
『でも、本当じゃない。 私ももうすぐ15歳だよ。この島は私にはとても狭くなった。』
『まだ子馬一匹まともに懐けないくせに』
『それは別の話じゃない!毎日同じ島に、同じ家に、姉さんにつれ農作業や牧場の仕事ばかりしていくのは、もううんざりよ。』
『農作業と牧場の仕事もまだまともにできなくてこのお姉さんが大部分するんじゃないの?』
『それはそうだけど…。』
なぜか頑固なお姉さんだったが、それでも今日はなぜか私は話をやめたくなかった。たった一言、その言葉だけが、姉に伝わってほしくて、私はボリュームを低くして、うつむいて、呟くような調子で、でも、ちゃんと彼女に聞こえるように、ぼそっと口を開いた。
『陸ってどうなのか知りたい。』
『陸地のことか?』
『姉は時々陸にでかけるじゃん。それはとても不公平だよ。私は姉がほかの人たちと会っている間、姉のいない島で一人で言葉も通じない動物たちと過ごすだけの生活は』
『でも、陸は危険だと、お姉さんはいつも言ってるじゃない?』
『そういうことを考えても、あんな大きなお祭りが、人々がいるなら、私も行ってみたい。』
『そう…』
私の話にぼやかすお姉さん。彼女はほろ苦い舌なめずりをしめて、しばらく考えてから話を続ける。
『あなたももう15歳だね。 いつの間にか…』
『そうね。正確には来月。いつも覚えてる。』
『それではその日に合わせて陸に出てみよう。』
『本当?』
『そうね、きっとあなたにも特別な誕生日パーティーになる! 私と一緒に出かけよう。あそこの人たち、そしてあなたが見られなかった多くの話を、私がその時もっと聞かせてあげる。』
『約束だよ?』
『うん。約束』
私たちはお互いの小指を絡みこみ、結局には半分だけ叶える約束をする。私は期待に満ちた表情で陸の世界を想像する。 果てしない海のように、陸地も果てしない地となっている。そこには巨大な家々が、大勢の人々が群集を成して生活すると、彼らはそれぞれに様々な職業を持ち、王のために彼らの義務を持って世の中に奉仕しながら生きていく、と、姉さんは家に帰ってからも、日が暮れるまで、私に陸のいろんなことを言ってくれた。




