弁ちゃん路上ライブ!
張り切る弁天にのせられてつい
「やってみます!」と返事をしてしまった正吾だったが、さすがに不安になってきた。
「弁ちゃん、何か作戦あるの?」
弁天はムフフと笑って
「あれじゃ、この前正吾がやっておったエアギターとかいうやつ、あれをやればよい」
「ええっ!?俺、人前でなんて出来ないよ」弁天は鼻の穴をふくらませ
「正吾は揚羽が欲しくはないのか?」と聞いた。
「揚羽?」
「あのギターの名じゃ。そう言っておったろう」
正吾は首をかしげた。
「俺には聞こえなかったけど…」
「ごちゃごちゃ煩いのぅ。とにかく100万じゃぞ! やるしかあるまい」
二人は次の日の朝、森本楽器店に出掛けていった。
「正吾、なんじゃそれは?妾が入っていたミカンの空き缶かのぅ?」
「そうだよ。これを道に置いてお金を入れてもらうんだよ」
「なんだか御利益ありそうだから持ってきた」
嬉しそうに話す正吾を横目に弁天は小さく
「ただの空き缶なんじゃが…」
とつぶやいた。
そうこうするうちに森本楽器店の前に着いた。
中に入ると、店主の海坊主が新聞片手にタバコをふかしているのが見えた。
「おはようございます!」
正吾が元気よく挨拶すると店主は驚いて顔をあげた。
「坊主、まさか本当に来るとはな」
「えっ!?あの話、嘘だったんですか?」
店主はギターをケースからとりだして正吾に手渡した。
「男の約束に二言はねぇよ」
店主はケースから揚羽を取りだして正吾に渡した。
「まあ頑張ってみる事だな。そうそう一つ言っておくが、こいつを欲しいという奴は今までもいたが弾きこなした奴は1人もいなかったぜ」
店主はニヤニヤ笑って
「そうだな期限は今夜の10時にしよう。それまでにちゃんと戻って来いよ。それから揚羽を持ってトンズラしやがったら間違いなく酷い目にあうぜ。これは脅しじゃなく警告だ。このギターは揚羽と言ってなその昔有名なギタリストが使っていたものらしい。そいつは原因不明の死を遂げてな、今でもこのギターにその魂は入りこんでるって噂だよ」
正吾の顔はそれを聞いて一気に青ざめたが、正吾自身どうしようもなくこの揚羽というギターに惹かれているのも事実だった。
「そうですか…でも、俺どうやらこいつに惚れちゃったみたいなんです。まずは諦めないでアタックしてみますよ」
店主は嬉しそうに
「なかなか言うじゃないか。じゃあ10時だぞ!時間を無駄にするな早く行け」と正吾の肩をポンと叩いた。
店を出た二人はまず近くの公園に来た。
「正吾、早速じゃが弾いてみよ」
正吾は弦を鳴らしたつもりだったが、ウンともスンともいわない。
「おっかしいなぁ、あれ〜?やっぱりあのオヤジの言う事はほんとなのかぁ?」
弁天はなにを思ったか揚羽に話かけた。
「のう揚羽よ、なぜ鳴らさんのじゃ?やはり正吾ではもの足りんかのぅ」
すると揚羽から声が聞こえてきた。
「今のであなたがどんなに下手かわかっちゃったわ。私…最高の弾き手を探してるの。どうか私の事は諦めてちょうだい」
「揚羽よ、ようく聞け。妾は音楽の神ぞ!その妾が頼んでおるのじゃ。なんとかならんか?」
しばらくして揚羽は答えた。
「…音楽の神であるあなた様にならお仕え致します」
弁天はウ〜ムと唸り、正吾に聞いた。
「かくなる上は妾が正吾に憑依するしかすべはないのぅ。今すぐ正吾に上手くなれといってもそれは無理じゃ。いかがする?」
正吾はキッパリと答えた。
「今はそうするしかなさそうだね。でもいずれきっと揚羽に俺を認めさせてやる!待ってろよ揚羽」
「よし!ぜんは急げじゃ。正吾、いくぞい」
弁天は正吾の鼻の穴からスルスルと入って行った。
正吾は意識を失ったがしばらくするとカッと目を見開いた。
「さぁて揚羽よ、人間どもを驚かせにゆこう!」
正吾に憑依した弁天はあらかじめ計画していた通り、駅前の広場に向かった。
日曜日ということもあって、カップルや家族連れでごったがえしている。
「おおここか、なるほど人間がたんとおるの」
弁天は弦を指で押さえた。




