弁ちゃん絶対絶命の大ピンチ!最後の切り札
九尾は敵を捕らえ、その狐火の炎は更に勢いを増した。
「ギャアァァ〜!」
物凄い断末魔の叫びが闇を切り裂いた。
「つ、土蜘蛛!」
狐火で焼かれたのは春日でなく美香であった。
「ど…どうしてなの、美香!」
九尾はこりんの姿に戻り、春日をかばって焼け焦げた美香の体を抱き起こした。
「ウ…アアッ…」
正吾は二人に駆け寄りポケットから大入り袋を取り出した。
「なんであんなヤツ庇ったりしたんだ!美香ちゃんしっかりしろ!今、俺がこのお札で助けてやる。だから頑張るんだ!」
正吾はお札にポケットに差してあるペンでサラサラと願い事を書いた。
「土蜘蛛の怪我を治してください…よし!書いたぞ」
正吾は自分の目を疑った。
札には
「その願い事は受付出来ません」と赤文字が浮かびあがってきたのだ。
「ク、クソ〜!なんでだよ!?」
美香はこりんの手をギュッと握りしめた。「こりんちゃん…私じゃダメだったわ。あの人の魂を救えるのは有明先生しかいない」
美香は一筋涙を流し、そのまま息絶えた。
「美香ちゃん!美香ちゃん死んじゃやだよ〜!ううっ…あああん」正吾は泣き崩れるこりんに言った。
「九ちゃん!有明先生を呼んできてくれ。美香ちゃんの死を無駄にするな」
こりんはその言葉で我にかえり、有明を呼ぼうとドアを開けると、なんとそこには有明が厳しい顔で立っていた。
「あ、有明先生!」
有明の後ろには佐久間右近も控えていた。
「春日先生…いいえ、あなたは私の知ってる春日静馬ではないわね!その体、返してちょうだい」
正吾は右近に話しかけた。
「右近さん…助けにきてくれたんですね!」右近はうなずいた。
「有明優子を幸せに出来るのは春日静馬だけです。ヤツは私が倒します!」
右近はスラリと刀を抜いた。
その霊力で形作られた刀を有明は右近からもぎとった。
「優子!お前じゃ無理だ」
有明は首を横に振った。
「いいえ…あの化け物は私じゃないと倒せない…いいえ、違うわね。私と静馬さんでなくては倒せないわ!」
兼継も妖術で刀を出し、スラリと鞘から刃を抜いた。
「面白い!かかってくるがいい。相手をしてやる」
有明は刀を振り上げ
「やあ〜!」と叫び声をあげ斬りかかっていった。
カシーン!!と乾いた音がして2つの刃がギリギリと交わった。「先生は命懸けで春日先生の魂を呼び戻すつもりだ…俺も命懸けで弁ちゃん達を助けなくちゃ!右近さん、有明先生を頼みます」
正吾はそういうと駆け出していった。
春日はまるで小動物をいたぶる猛獣のように有明を追い詰めていく。
「ウッ…ウウッ静馬さん!静馬さ〜ん!!しっかりしてよ。負けないで。私を幸せにするって約束したじゃないの。あれは嘘だったの?!…アアッ…クッ…兼継の霊に負けないでー!!」その時、有明の刀から明るい光がほとばしり、兼継は目が眩んだ。
「見、見えない!アアッ静馬め!クウッ止めろー!!」
有明は兼継をバッサリと袈裟懸けに切りつけた。
「ギャアア〜!し、静馬め。やりおったな!」
兼継はドサッと前のめりに倒れた。
有明はハァハァと荒く息を吐きながら、倒れた春日に近づいた。
春日の眼鏡はヒビが入り、額からは血が出ていた。
そっと抱きおこし、その頭を抱きしめた。
「静馬さん!静馬さん!」
有明は泣きながら何度も春日を呼び続けた。
「ウッ…優子?」
目を覚ました春日の目は元の優しい糸目に戻っていた。
「し、静馬さん?静馬さんなのね!」
春日は泣きじゃくる有明の涙を拭きながら
「どうしたの?何かあったのかい?」とおっとり話しかけている。
兼継であった時の記憶は無くしているようであった。
そして目の前に立ち並ぶ3つの棺桶にギョッとした表情を浮かべた。「これは一体?」
かりんは春日に詰め寄った。
「先生、覚えてないんですか?先生が兼継に憑依されていた時に神様達を封印してしまったことを」
春日は記憶を手繰ってみたが
「すまない。覚えてないんだ。それが本当なら、今の僕にそんな力はない。だから封印を解くことも出来ないんだよ」と謝った。
こりんはガックリと膝をついた。
「そ…そんな…」
その時、入り口の戸がガラリと開いた。
「春日先生!元に戻ったんですね。よかった…有明先生ならきっとやるだろうと思ってました!」
「正吾様ったら!どこに行ってたんですか?突然走り去ってしまうんですもの、心配しましたわ」
正吾は揚羽を構えて弦を弾いた。
「俺に出来ることと言えばこれだけだからね」
正吾はもう一度ポケットの中を探った。
「でもその前にもう一度だけ確かめたいことがあるんだ」
正吾は大入り袋からお札をとりだした。
先ほどの赤文字はすっかり消えてなくなっていた。
「それはなんですの?」
こりんは不思議そうにその紙を眺めた。
「これはね、弁ちゃんの入った福袋を買った時にオマケでもらった大入り袋さ。その中に入っていたのが、この何でも一つだけ願い事が叶う夢のお札ってわけ」
こりんは正直に言った。
「私にはただの紙切れに見えますけど…」
正吾は哀しげに笑った。
「うん。そうかも?天照のじっちゃんに騙されたかな…。さっき美香ちゃんを助けようとお札にそう書いてお願いしたけど却下されちゃった」
こりんも哀しげに顔を歪ませた。
「美香ちゃん…私のせいで死んじゃった」
正吾はこりんの肩を抱き
「仕方ないよ。どうしようもなかった。今はまだ救えるかもしれない弁ちゃん達の事を考えなくちゃ!」
と励ました。
「でも…そのお札。天照大御神様が嘘をつくとは思えませんわ。もう一度だけ使ってみては頂けませんか?」
正吾はうなずいた。
「うん!もう一度やってみよう」
正吾はお札に
「弁ちゃん達の封印を解いて下さい」と書いた。
するとまた赤い文字が現れた。
「その願い事は受付け出来ません」
「やっぱりダメだ…」
正吾はそのお札を呆然と見つめた。




