弁ちゃん絶対絶命の大ピンチ!対決の時
「起きなさい!学校に遅刻するよ!」
正吾は眠い目を擦りながらムックリと起き上がった。
「あれ?母ちゃん…」正吾は弁天がいつも眠っている皿をのぞいたが姿が見えない。
正吾はキョロキョロ辺りを見渡したが影も形も無かった。
「弁ちゃんどこに行ったのかな?こりんちゃん起きてよ!」
正吾は足元ですっかり九尾の姿に戻り丸くなっていたこりんを叩き起こした。
「弁ちゃんがいないんだ。何処に行ったか知らない?」
こりんは伸びをして人間の姿に変化した。
「ア〜よく寝た!さぁ?気付きませんでしたけど…お散歩にでも行ってるんじゃないですか?」
「弁ちゃんが俺を置いてどこかに行くなんて初めての事だよ…なんだか心配だな」
こりんは大きなあくびをして
「正吾さまったら!心配し過ぎですわよ。もしかしたら毘沙門さんのところでは?久しぶりの再会ですもの。きっとそうに違いありません」
「そうかなぁ?だったら言ってくれればいいのにさ。とにかく学校へ急ごう!今日から小暮も登校するはずだから」
まだボウッとしているこりんを急かして、正吾は学校に向かった。
正吾はまっすぐ隣のクラスに行くと、小暮を呼び出した。
「おはよう小暮、毘沙門くん。なぁ、弁ちゃんそっちに行かなかった?」
小暮は毘沙門の顔を見たが毘沙門は首を横に振った。「いいや、来なかったぜ。どうした居ないのか?」
正吾はみるみる青ざめた。
「ああ、そうなんだ。朝起きたらもぬけの殻でさ…もしかしたら君達のとこかと思ったんだけど」
毘沙門は涼しい顔で
「全く、お前は弁天がいないとまるで赤ん坊だな!そんなお前に嫌気がさしたんじゃないのか?」
と呆れた顔で言い捨てた。
こりんは真っ赤な顔で怒りだした。
「ひどい!あんまりですわ!弁天様はあんたなんかと違って真剣に正吾様と向き合っていらっしゃいます。それを…あんな言い方、許しませんわ!」
毘沙門はフフンと鼻で笑い
「ほぅ…許さないか?じゃあどうする、お前ごときに何ができるんだ」
こりんはツカツカと毘沙門に歩み寄ると
「こうしてやりますわ!」と叫び、手をふりあげてバシッ!と毘沙門の頬を打った。
その途端、毘沙門はピタリと動きが止まりその瞳は何も映さなくなった。
正吾は驚いて毘沙門を揺すぶった。
「どうしたんだ!毘沙門くんしっかりしろ!」
毘沙門の体はシュルシュルと小さくなり、ただの人形となってパタリと床に落ちた。
「キャア!これはどういう事なの?」
こりんは小暮にたずねた。
小暮はガックリと膝をつき、首元を苦し気にかきむしった。
「ウ…ウガァッ!」
小暮の首元が緑色に光り、何かアザのようなものがシュウッと消え失せたかとおもうと、ドッと前のめりに倒れてしまった。
「どうしたの!?」
教室の中から異様な気配を感じた美香がとびだしてきた。
「み、美香ちゃん!毘沙門は偽物だったのよ」
倒れた小暮の横には人形が転がっていた。
まずいわ!
一体どうしてバレたの?
美香は心の動揺を気どられぬよう言葉を選んだ。
「と、とにかく今は小暮くんを助けなくちゃ!保健室に運びましょう。話はそれからよ」
正吾は小暮をおぶって廊下を走った。
「春日先生!小暮が倒れたんです。診てやってください」
正吾はベッドに小暮をおろした。
「一体どうしたんだ!?」
春日は美香の方に視線を走らせるとギョッとした表情を浮かべた。
美香があの人形を抱いて蒼白い顔で立っていたのだ。
呪がとけたのか?
一体なぜ!
春日は混乱したがすぐに冷静さをとり戻し正吾達と向き合った。
「何があったか話してみて」
こりんがぶすくれた顔で言った。
「私、毘沙門をぶったんです!だって正吾様にひどいこと言ったから。そしたらなんだかこんな人形になっちゃって…」
春日は目を丸くした。
「神様をぶったって!?アハ… アッハハハ。まさかそんなことするヤツがいたとはな!俺の計算が甘かったか」
正吾が叫んだ。
「それはどういう事ですか!?」
春日はニヤリと笑って美香に言った。
「土蜘蛛、ご苦労だったな。弁天はすでに我々の手におちた!こいつらに教えてやれ。俺達の正体をな…」
美香はうなずいた。
「美香ちゃん!…ど、どうして?」
美香は哀しげな目で語りだした。
「この方は春日兼継様といってかつて強大な力を神からさずかりし偉大な陰陽師。私はその使い魔です」
正吾は愕然とした。
一番信頼していた先生に裏切られたのだ。
「先生!弁ちゃんをどうするつもりです」
春日はフッと笑みをもらすと
「俺は神なんて大嫌いでね、だがその力は利用価値がある。持っていても損はないだろう?ほら、見せてあげるよ。僕のコレクションをね!」
春日は水晶の柱を3本とも放り投げた。
「べ、弁ちゃん!それに毘沙門くん!それから…ん?誰?」
こりんが答えた
「大黒天様ですわ!」
「えっ?じゃあ七福神のうち、もう3人も捕まっちゃったのかよ!まったくもう!何やってるんだ」
正吾は呆れたがそんな事を言っている場合ではないのだと気を持ち直し、どうしたら助けられるか頭を巡らせた。
その時ハッとあの露店商の親父の言葉を思いだした。
「いいかい…この紙に願い事を一つだけ書くんだ。そうすればその願い事は必ず叶う!」
オヤジ…あの言葉信じていいのか?
正吾はポケットの中を確かめた。
大入り袋と書かれたポチ袋が確かにある。
まさかこんなに早くこれを使う日がくるとはな…。
正吾がそんな事を考えているとは知らないこりんは早くも九尾の姿に戻り、戦闘態勢を整えた。
九尾の白い体の周りを蒼白い炎が燃え盛っている。
正吾様…いままで優しくして下さってありがとうございました。
こりんは…こりんは幸せでしたわ。
正吾様は私が命に代えてもお守りいたします!
九尾は蒼白い火の玉となって春日に向かって飛び込んでいった。




