弁ちゃん自縛霊を退治する!
小暮が入院したのは町で一番大きな総合病院だった。
受付で部屋を聞き、エスカレーターを上がり一番端の部屋のドアをノックした。
中からは話し声が聞こえてくる。
「誰か先客がいるみたいだね」
「ええ、女の方がいらしてるようですわ」
正吾とこりんは顔を見合せた。
「お邪魔しま〜す。具合はどうだい?」
正吾の問いかけに照れた様子で小暮が答えた。
「大丈夫だよ。悪かったね。心配かけて」
カリンはすまなそうに
「私の代わりにケガさせちゃったわね。ごめんなさい」
と頭を下げた。
「気にしないで!君にケガなんてさせちゃったら正吾に殺されてたよ。君たち付き合ってるんだろ?ライブ最高だったもんな…息もピッタリ、最高のコンビだね!」
こりんはその言葉を聞き膨れっ面になった。
「正吾様ったら、それは間違いだって説明してください!」
正吾はほっぺたをポリポリ掻いて苦笑いを浮かべた。「それは誤解だよ。小暮こそこんなに可愛い彼女がいるなんて知らなかったよ」
正吾は、ベッドの端にひっそりとたたずんでいるショートカットの女の子に会釈した。
「ああ、彼女とはまだ知り合ったばかりなんだ。この病院に入院してる。遥さんだ」
遥はうっすらと微笑んだ。
「おい!お前、いい加減にこの部屋から出ていけ。目障りなんだよ!」
小暮の頭の上で毘沙門が怒鳴った。
「毘沙門!いいじゃないか。遥さんはただ遊びに来てるだけだよ。そんなに邪険にしたら可哀想だろ!」
小暮は遥の悲しそうな顔を見るのが嫌だったが毘沙門はお構い無しに悪態をついている。
「それがコイツのためでもあるんだよ!この世の未練を増やすような真似はやめてくれよな …じゃないとこいつ、いつまでたっても昇天出来ないぜ!」
正吾はその言葉にギョッとした。
「えっ?じゃあ君ってもしかして?」
弁天が呆れた声で正吾に言った
「わからんかったか?この者はとうの昔に死んでおる」
正吾は口をあんぐりあけたままうなずいた。
「す、凄いな全然わからなかったよ。でもおかしいなぁ…霊と人間の見分けはつくと自信持ってたんだけどね」首を捻る正吾にカリンが言った。
「それだけ霊力が強いってことじゃないかしら?」
毘沙門はニヤリと笑い
「察しがいいな。その通りだ!恵比寿、今回の見立てはなかなかだ。今度こそ天才をつくれるんじゃないか?」恵比寿はその言葉にキレた。
「うるせぇ!てめぇに言われたかねぇぜ!二兎追うものは一兎をも得ずを地で行くようなヤツだからなお前は」
こりんは見かねて
「ちょっと怪我人を前に仲間割れは辞めてよ!続きをやりたければここから出て行ってよ二人とも!」と声をあげた。
「そうですよ!小暮くんは私が看てますから皆さんはロビーででもお話してきてはどうですか?」
遥がそう言うと皆、ダメだこりゃあ…と肩を落とした。
弁天は
「とにかく早く退院した方が良さそうじゃな。このままでは小暮はここから出られなくなる」と皆に伝えた。
小暮は不安そうにたずねた。
「それはどうして?」毘沙門が答えた。
「遥はお前にここにいて欲しいからな。その為ならなんだってやるということさ。なんせそいつは自縛霊だ。自分は動けないから相手をひきとめる。これ以上ケガを増やしたくないなら今すぐここを出ていくべきだ!」
カリンはうなずいた。
「賛成よ!そうしましょう小暮くん」
小暮は遥をじっとみると
「ごめんよ。遥さん」
と謝った。
遥の表情は凄い形相に変わっていった。
「イヤよ…絶対イヤ!あなたは私とここにいるの!約束したじゃない。ずっと一緒にいてくれるって。聡君…逃がさない…逃がさないわ!でないとあなた、二度とここには戻って来ないでしょ?」「まずい!周りの浮遊霊もとりこんで、よりパワーアップしておるぞ!」
小暮は化け物の姿となった遥の怨霊に飲み込まれそうになっている。
「ど、どうすればいいの?弁ちゃん!」
弁天は毘沙門に叫んだ
「毘沙門!霊魂鎮めの曲じゃ。それしかあるまい」
毘沙門はグッと言葉につまり、返事はなかった。
「弁天、無駄だ。そんなヤツあてにするな!俺とお前、それに正吾でやろう!」
正吾は慌てた
「お、俺!?どうすればいいの?」
弁天は正吾の肩から跳びおりて雷電をかまえた。
「正吾!あの悪霊を鎮めるぞ。恵比寿の声に集中しろ!そして祈ってやれ、遥の魂が本来の優しさを取り戻すように。さすれば揚羽は応えてくれるはずじゃ。よいの?」
正吾は揚羽をかまえた。
「揚羽!頼むぞ。遥さんを助けてやってくれ」
恵比寿の声はまさに天使の歌声であった。どこまでも透明で切なくそして優しさに溢れていた。
雷電と揚羽の音は絡み合い、そして重なり見事なハーモニーを奏でた。
「見てください!遥さんから次々に浮遊霊たちが離れていきますわ」
浮遊霊たちは次々に天に昇っていき、遥は元の姿に戻っていった。小暮はうなだれる遥に声をかけた。
「遥さん…淋しかったんだね。でもここにいてはダメだよ。神様が待ってる、天にかえらなくちゃ。そして次の人生を生きるんだ!また生まれてくるんだよ。だから怖がっちゃいけない。一つのことが終わるってことはまた何かが始まるってことなんだ。そうだろう?」
遥の大きな瞳から涙が一筋落ちてきた。
「そうでした…私、間違っていましたね。天界に参ります。そして次の人生を生きる準備をしてきますわ」
小暮は嬉しそうに何度もうなずいた。
「遥さん、また逢おう!」
遥は清々しい顔で返事をした。
「ええ…ええ待っています!みなさんまた逢いましょう」
遥の体は一瞬白く輝き天に昇っていったのだった。
皆、その姿を眩しく見送った。




