弁ちゃん強敵出現!毘沙門天の過ち
美香は舞台の二人がステージのちょうど中央に来たのを見計らいレバーを引き下げた。
トレジャージップの看板はカリンの頭上から真っ逆さまに落ちてくる。
会場から
「危ない!キャアアー!!」と悲鳴があがったがカリンは脚がすくみ、その場に凍りついた。
舞いあがる埃の中からカリンに覆い被さるように倒れている小暮の姿が現れた。
正吾は顔面蒼白になりながら小暮の背中から看板をとりのけた。
「小暮!小暮しっかりしろ!」
舞台に駆けつけた春日は正吾に声をかけた。
「町田、ゆすっちゃダメだ。そっと安西を引き出そう!後は救急車が到着するのを待ったほうがいい」
「わ、わかりました。カリンさん!カリンさんしっかりして!」
「う…一体何がどうしたっていうの?こ、小暮くん?」
カリンは自分に被さる小暮を見てすべてを悟ったようだった。
正吾と春日は生徒達が取り巻く中、そっとカリンを小暮の体の下から引き出した。
あまりの出来事にすっかり放心状態の恵比寿もやっと我に返り、カリンに
「バカバカ!なんでよけないんだ!」と逆ギレ気味だ。
引き出されたカリンの背中に何か貼りついている。
「う…参ったぜ!小暮、大丈夫か?」
ムックリと立ち上がったのはなんと毘沙門天であった。
「び、びび毘沙門!?」
恵比寿が叫ぶと弁天が駆けつけた。
「恵比寿!今…今なんと?」
毘沙門は弁天の顔をみるとニッコリと笑いかけた。
「弁天!久しぶりだな」
弁天はこの状況がのみこめずしばし呆然とした。
「どうした?挨拶も無しか?」
恵比寿は憮然とした顔で突然現れた毘沙門にたずねた。
「おまえ…どうしてここにいるんだ?」
ちょうどその時、救急車が到着し、人混みをかき分けタンカが運びこまれた。
救急隊員が手際よく小暮をタンカに載せると周りを見渡し声をかけた。
「一緒に行かれる方は?」
春日が手をあげた。
「保健医の僕が行きます」
救急隊員はうなずいて
「では行きましょうか」
タンカはゆっくりと静かに持ち上げられ進んで行った。
毘沙門は小暮の上に跳び乗ると見送る弁天と恵比寿に
「また後でな!」と言い残して救急車の中に消えて行った。
「毘沙門のヤツ…また悪いクセが出たようだな」
恵比寿がつぶやくのを弁天は苦々しい思いで聞いた。
「カリンさん、ケガはない?」
正吾はカリンの額から血が出ているのに気付きハンカチを渡した。
「私は大丈夫!かすり傷よ。小暮くんが心配だわ。一体どうしてこんなことに?」
正吾は後ろに片付けてある看板に目をやって
「どうやら重みに耐えられなかったみたいだ…小暮、大丈夫かな?」
正吾が表情を曇らせると弁天が肩をトントン叩いて
「大丈夫じゃ!毘沙門がついておるでの」と正吾を慰めた。
卒業生を送る会はその後続けて行われた。
「残念でしたわね。とっても盛り上がってましたのに」
こりんがそういうのに
「仕方ないさ。それより小暮のケガが大したことなくて良かったよ。春日先生がすぐ連絡してくれたんだけど、どうやら背中の打撲だけで済んだみたいだ」
学校の帰り道、正吾達は小暮の見舞いに病院に寄ることにした。
「弁ちゃん、毘沙門くんの事だけど…どうして小暮についてるの?この前テレビで見かけた時は高崎伸のトレーナーやってるようだったけど?」
弁天は正吾にそうたずねられ困った表情を浮かべた。
見かねた恵比寿が吐き捨てるように言った。
「アイツはそういうヤツなんだよ…作戦なんだ。俺達は1人を選び全力でその人間をサポートしていく。それでも神がかりの天才なんてそうそう出るもんじゃない。そこでヤツは考えた…二人育てて互いに競わせ更に上達を促そうとな!結果1人は天才となり、もう1人は踏み台となって消えていく。俺は嫌だね、そんなやり方認めない!」
弁天は哀しげにうつむいてしまった。
「じゃあ毘沙門くんは高崎伸と小暮聡を競わせるつもりなんだ…高崎伸はもうすでに有名人だろ。わざわざ無名の小暮をぶつけなくてもいいんじゃないかな?」
恵比寿はフフンと鼻を鳴らした。
「だからこそ…だろ?多分高崎は今伸び悩んでるはずだ!当たり前だよな。もうすでに有名人で周りからもチヤホヤされてる。俺は凄いヤツだって自分でも思ってるだろ。そこで突然現れた無名のヤツにコテンパンにされたら…どうだ?目を覚ますだろうよ。自分の未熟さに…さ」
正吾はそれを聞いて思わず唸った。
「ウ〜ンなるほどね!と…いうことは小暮自身も実は秘めた才能の持ち主って事だね。場合によっては高崎が踏み台になる可能性もあるってわけだ!」
恵比寿はフゥとため息をついた。
「まぁな!もしそうなったとしても、それはそれで大変だぜ。実際それで失敗してるわけだしな…アイツ何考えてやがる」
恵比寿は頭を抱えこんでしまった。
「…なんだか色々あったみたいだね」
正吾は恵比寿の様子にただならないものを感じた。
「正吾よ…後で妾が話す。今はそっとしておいてやれ」
弁天の言葉に正吾はうなずくより他なかった。




