弁ちゃん強敵出現!仕掛けられた罠
正吾達は練習を終え満足気に座敷わらしの頭を撫でた。
「どうだった?少しは上手くなったかな?」わらし達はダルマのような体を弾ませながら
「チョピッとだけ!チョピッとだけ!」とケタケタ笑っている。
「アハハハわらし達は正直だな〜」
正吾がトホホといった顔でカリンに視線を送ると、カリンは
「上手くなってるんだからいいの!焦らないでいきましょうよ」と正吾を励ました。
「うん。分かったよ。そういえば美香ちゃんなんの用事かな?戻って来ないね」
こりんはウフフと意味深に笑い
「きっと小暮君のところじゃないかしら?」と言った。
「土蜘蛛は昔から男をたぶらかす悪い癖があるでな。小暮とやらが心配じゃ」
弁天の心配をよそにこりんは歓声をあげた。
「出来ましたわ!」
皆こりんの早業に驚いた。
「もう出来たの?見せて!」
カリンは黒いベルベット生地のワンピースを身体に当ててみた。短いすその部分からレースが覗き、カリンの足をさらに細く優雅にみせていた。
「とっても可愛いわ!ありがとう」
こりんはニッコリと微笑んだ。
「どういたしまして。正吾くんのもちゃんと作っておくわね」
正吾は
「あんまり派手にしないでよ」と釘をさした。
「わかってるわよ」
こりんは正吾の寸法を計り
「今日はここまでね」と正吾を解放した。
「さて、もう外も真っ暗じゃ。帰るとするかの」弁天はそう言うと正吾の肩によじ登った。
「ああ、やっぱり緊張するな…でもさ最近はその緊張も楽しめるようになってきたよ」
弁天は嬉しそうに
「それは頼もしい発言じゃな。程よい緊張は良い演奏につながるものじゃからな」
弁天と正吾は本番を前に落ち着かない様子で自宅に帰って行った。
そして卒業生を送る会当日…
「ええっ!?ホントにこれ着るの?」
正吾はこりんの作った衣装を見てギョッとした。
「そうよ。素敵でしょ?カリンさんの衣装にあわせてドラキュラ伯爵イメージでゴージャスに仕上げたわ!何か文句でもあるの?」
文句なんて言わせないって態度ですけど…
「イヤァお疲れ様…。す、凄く凝ったつくりだね〜。でもさ…このマントだけは…無くてもいいんじゃないかな…なんて」
こりんはマントを広げ
「何言ってるの!これは小道具としても絶対必要なの。舞台でトレジャーシップと呼ばれたらゆっくりマントを広げて中からカリンさんが出てくるって演出なんだから。
了解?」
正吾はしぶしぶ
「了解」とつぶやき弁天に話しかけた。
「弁ちゃん、グループ名貰っちゃったけどほんとによかったの?」
弁天はニッコリ笑って
「妾は嬉しいぞ!その名を汚さぬようしっかり頼む」と答えた。
「お待たせ!正吾君。緊張してない?大丈夫?」
カリンが舞台衣装を身につけて現れた。
「俺は…ちょっと緊張してるかも。
でも舞台にあがっちゃえば大丈夫だよ」
舞台袖から小暮がやってきた。
「二人ともきまってるじゃん。こりんちゃんセンスいいね!」
こりんは鼻高々といった表情だ。
「さあ、次が出番だ。頼んだよ!」
正吾はゴクリと唾をのみこんだ。
会場のライトは全て落とされ真っ暗な闇の中、マントでカリンをくるんだ正吾はまるでコウモリのように見えた。
青白いスポットライトがポッと正吾を照らしゆっくりとマントを開いてゆく、すると目を閉じてまるで人形のようなカリンが現れた。正吾はカリンを横抱きにしてキスするふりをする。
するとカリンは人形から少女へと変化を遂げ動き出した。
マイクを持ち夢の階段をアップテンポで歌っていく。正吾は揚羽を掻き鳴らし、生徒達を音楽の渦に惹きこんでいった。
美香は舞台袖にひっそりとたたずみ、その様子を冷たい表情で眺めていた。
「そろそろお前の出番よ」
美香はポケットから人形を取り出すとフゥッと息を吹きかけた。
「毘沙門天、お前の相手は生徒会長の小暮聡だ。まずは弁財天に近づき信用させろ!よし、行け!」操り人形の毘沙門天は司会者席にいる小暮の肩に跳び乗った。
小暮が何か気配を感じて振り返るその首元に毘沙門は小さな指先を押し付けた。
すると一瞬緑色の光が輝き、首元には焼き印のようなアザが出来た。
「聡、俺はお前の守り神だ。これからは俺の言うことを聞け!そうすればお前は歴史に名を残す天才となるだろう」
聡は魂が抜けたような表情でうなずいた。
美香は舞台裏に行きレバーの一つに手をかけた。
「さあ、これからが本番よ」
体育館の後ろの壁際で春日と有明は二人のライブを感慨深げに見ていた。
「あの恥ずかしがりやで引っ込み思案だった町田くんがみんなを前にあんなに弾けてる!成長したわね」
有明の言葉に春日はクスリと笑って
「彼は神に選ばれし者ですからね」と言った。
「えっ?なあに聞こえないわ」
会場全体が地響きするほどの音の波にのみこまれ春日のつぶやきはかき消された。




