弁ちゃん毘沙門を見つける!近くて遠い人
正吾はブッとミカンを吹き出した。
「ちょっと〜何やってんの!」
和美が正吾にティッシュペーパーを渡した。
「ごめんごめん、ちょっと驚いちゃって」
和美はいぶかしげに正吾を見た。
「ああ…うん。なんでもないんだ」
「そう?じゃあ私、宿題してこようっと」
和美は居間から出て行った。
「弁ちゃん、どういうこと?あの高崎の後ろに映ってるのが毘沙門天なの?」
弁天はじっとテレビ画面を見たままうなずいた。
「じゃあ高崎は毘沙門に選ばれた天才なんだね。俺なんてまだまだなのに高崎は成長が早いなぁ」
弁天はチラリと正吾の顔を見て
「あれを見て少しは焦らんか!期限は一年と区切られておる。お前もしっかりせんと中途半端で終わってしまうぞ」
そうなんだよな…。
いつまでも弁ちゃんがそばに居てくれるわけじゃないんだ。チャンスは充分もらってるんだからそろそろ俺も始動しないと…。「そうだね。そろそろ進路も決めなくちゃいけないし、真剣に将来の事を考えてみるよ」
弁天は優しい目で正吾に
「そうじゃな。そろそろ世にでるきっかけを作らなくてはの!」と言い聞かせた。
「弁ちゃん…毘沙門君はどんな神様なの?」弁天は昔を懐かしむように遠い目をして語りだした。
「毘沙門はあの通りスポーツに秀でたものを発掘して天才に育てあげておる。我ら七福神はそれぞれが毎年1人これと思う人物を手助けしておるが、実際神がかり的な才能をみせるのは10人に1人出るかでないかといったところでな。中々に難しいものなのじゃ。我ら七人は天界ではトレジャーシップとしてバンドを組んでおったからいつも一緒におれたが人間界に降りてからはそうそう会えん。まぁ、天照様が我らを召集する大晦日だけは会えるがのぅ」
正吾はフゥンとうなずいた。
なんといっても神様なのだ、逢いたければいつでもあえるのかと勝手に想像していたがどうやら結構難しいらしい。
「じゃあ恵比寿くんにも教えてあげなくちゃ!毘沙門くんが見付かったと知ったら喜ぶんじゃない?」
「そうじゃな。喜ぶかどうかは微妙じゃが教えておいてやろう。正吾、早速じゃが明日カリンの家の倉で練習するとしよう。その時話す事にする」
正吾はウキウキと返事をした。
「了解!カリンさんと会うのも久しぶりだなぁ」
それを聞いた九尾は少しムカついた顔を隣の襖からのぞかせて正吾に釘をさした。
「浮気したらただじゃすみませんことよ!」正吾はギョッとして振り向くと
「一緒に行くんだからそんな心配いらないでしょ?」
と言った。
九尾は嬉しそうに丸くなって白い耳を倒している。
それをみた弁天はヤレヤレといった表情で正吾に言った。
「これではいつまでたっても人間の恋人は出来んのぅ」
正吾は笑って
「ハハハそうだね。まだ誰かに恋した事ってないんだよな。俺は臆病だから傷つくのが怖いのかも?もっと強い人間にならないと恋する資格はないんじゃないか?っていつも考えちゃうんだよ」
弁天はそう話す正吾をじっと見ていた
「正吾よ。恋とは考えてするものじゃないぞよ。知らぬうちに恋していて後からそうなのか!?と気付く。そういうもんじゃ」
弁ちゃんも誰かに恋してるのかな?
「弁ちゃん、今恋してる?」
弁天は唐突にそう聞かれてギクッとした。
「わ、妾は…わからん。ずっとわからんままじゃ」
正吾はその様子をみてどうやら弁ちゃんには片想いの彼がいるらしいと察しをつけた。
「そっか…まぁ弁ちゃんほど可愛い子はそうそういないから大丈夫だよ。本気で口説けば断るやつはいないだろ」
弁天は照れくさそうにモジモジしている。
「そうか?ほんとにそう思うか?」
正吾はニッコリ微笑んだ。
「うん!そう思う」
正吾は力強く断言した。
そして次の日…
「久しぶりね。正吾くん!」
カリンは中学校の校門で正吾を待っていた。
「カリンさん!わざわざ迎えに来てくれたんですか?」
カリンは笑顔で
「そうよ。ずっと連絡ないから心配してたのよ」
と口を尖らせた。
すれ違いざまに生徒たちが意味深な顔で二人を見ているのに気が付いた正吾はバツが悪そうにその場を離れようとカノンの手をとった。
「さあ、早く行きましょう!」
「ねぇ、あれ町田君じゃないの?あの制服は聖アンナ学院よね。チカ、またライバル出現じゃないの?」
教室の窓から身を乗り出して様子を見ていた女子達は興味津々といった様子でチカの様子をうかがった。
「別にたいしたことじゃないわ。町田君のお姉さんも聖アンナ学院に通ってるからきっとお姉さんの友達よ」
チカはもう何度か街でカリンを見かけていたので別段驚かなかった。
ボーカルの子ね…
今日は練習なのかしら?
町田君の練習、今度見せてもらおう。
彼はきっともうすぐマスコミに登場するようになる。手の届かないところに行く前に彼の心をしっかり掴んでおきたい…
チカの想いも知らず正吾はカリンと恵比寿に久々に会えてはしゃいでいた。
「恵比寿君、カリンさんの教育は進んでるの?」
正吾が聞くと
「いんや全然!全く俺の見込み違いだったんじゃないかとすっごく不安だよ」と恵比寿はまんざらウソでもなさそうにぼやいている。
「そうかぁ。実はね、昨日テレビで毘沙門君を見つけたんだ」
それを聞いて恵比寿の顔色が変わった。
「な、なんだって!それで一体誰のトレーナーやってるんだ?」
「高崎伸っていう俺たちと同じ15歳の野球少年だよ。大リーグが注目してるくらいの天才バッターだって」
恵比寿はしばらく考えこんでいて何も話さなくなった。
「どうしたの?恵比寿くん。何か問題でもあるの?」
恵比寿は重い口を開いた。
「ああ…すまん。ちょっと考え事してたよ」弁天は何か言いたそうにしていたが結局口を閉ざしたままだった。正吾は九尾に目くばせして小声でそっとささやいた。
「なんだか聞いちゃまずかったみたいだね。一体何があったんだろう?」
九尾は小さくうなずいて
「きっとそのうち話してくださいますわ」と言って正吾をなぐさめた。




