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弁ちゃん学校にゆく!

「起きろ!起きろと言うに」正吾はペチペチほっぺたを叩く弁天を振り払った。

「う〜ん。なんだよ煩い虫だなぁ」

「ム、ムシじゃとお〜!?かくなるうえはいたしかたあるまい、見よ神の力を!」弁天は正吾の耳もとでその小さなアコースティックギターをかき鳴らした。

「ベンベケベケベケベン!キュィィィ〜ン」さすがの正吾も跳ね起きた。

「なんだ!何がおきたんだ?」

キョロキョロする正吾に弁天は訴えた。

「腹が減ったぞ!ちゃんと神にお供え物をせんかい」

まだ寝惚けまなこの正吾はつぶやいた。

「ええっ?神様も飯食うのかよ」

「あたり前じゃ!酒と肴でよい」仕方なく正吾はキッチンから料理用の日本酒とおせちの残りのかまぼこを持ってきた。


「おお!来たか来たか」正吾は喜ぶ弁天の顔をマジマジと見た。

お猪口に吸い付きチュウチュウ音をたててうまそうに呑んでいる。「か…可愛い!弁ちゃん、普通サイズならアイドルも夢じゃないかも?」

弁天はかまぼこのピンクの部分にかぶりつきながら

「そうじゃ、妾は天界のアイドルじゃぞ。ようわかったのぅ」と、しれっとしている。

「はぁ〜神様の世界って一体どんなかね?想像つかないや」

弁天はそんな正吾に

「お前もはよう朝げを済ませて来い。学校に遅れるぞ!」と言うとまたかまぼこにかぶりついた。


「弁ちゃん、隠れてたほうがいいんじゃない?」

弁天は正吾の肩に腰掛け、気持ちよさそうに脚をブラブラさせていた。

「どうせ他の人間には見えんのだから気にするな」

「そっちが気にしなくても俺が気になるんだよな…」

弁天は正吾の耳たぶを引っ張り

「何か言ったか?」とにらんでいる。「おはよう町田君、今日は早いのね」

正吾の前の席の佐山チカが話しかけてきた。

「お…おはよう」

正吾が伏し目がちに小声で言うのを見ていた弁天は机の上にどっかり腰をおろし

「もっと大きな声でハキハキと!」とけしかけた。

「あ〜もうひとり母ちゃんが増えた気分だ」と正吾がつぶやくのに

「母ちゃんではない。トレーナーじゃ!トレーナー」と返してきた。

こりゃあ面倒なもんしょいこんだかも?

「今日は授業参観じゃ!お前の秘められた才能がなんなのか見極めるぞい」

正吾の心配をよそに弁天はなにやら楽しそうだ。「きりーつ!礼、着席」

今日の日直が号令をかける。「おはようございます。今日から最後の進路相談が始まりますね。今日の予定になっている人は放課後忘れないで残ってね。はい!では朝礼は以上です」朝礼が終わるといつもの奴らが正吾の机をとりかこんだ。

「よう、正吾。今日もシケたツラしてんなぁ。ほれ、なにやってんの早く出せよアルバイト料」正吾はズボンのポケットから500円玉を取り出すとそいつらに渡した。

「よ〜し!今日は俺らがお前を守る。安心して暮らせ。じゃあな!」

弁天はじっとその様子をみて不思議そうな顔をした。

「あれはなんじゃ?なぜあやつらに金を払う。おや、あっちでも金を払ってるやつがおるのぉ」正吾は小声で

「いわゆるカツアゲってやつだよ。あ〜あ今月のこずかいもうないよ」

それを聞いた弁天の髪はみるみるうちに逆立ち、恐ろしい形相に変わった。

「妾は悔しいぞ!なぜ500円なのだ。妾なぞたった350円だというに。もう許さん!」

そういうと弁天は更に小さくなり、正吾の鼻の穴に飛び込んだ。

「うわぁ!弁ちゃん何すんの!?」

すると正吾はカクンと意識を失い、顔をあげた時には眼光するどくまるで別人のような表情に変わっていた。

「おい!おまえら、さっきの金かえせ!」

不良達が一斉に振り返った。

「あんだとてめぇ、俺たちゃお前を守ってやってんだ報酬もらうのがあたりまえだろ!」正吾はガハハと笑って

「おまえらみたいなへなちょこに守ってもらいたくなんかないね!せめて俺に勝ってからそう言うんだな!」正吾はブレザーを脱ぎ捨て、不良達にとびかかって行った。

「上等だ!やってやろうじゃん」

数分後、正吾はのびている不良たちの襟首をつかんで、廊下に放り出した。

「バカ者めらが!神に逆らうなど百万年早いわ」正吾はガハハと笑うと、そのままばったり倒れてしまった。

弁天は慌てて正吾の鼻の穴から這い出した。

「し、しまった。正吾!こりゃしっかりせんかい…あ〜どうも妾は短気でいかん。つい禁忌を破って憑依してしまったわい」


正吾が目を覚ましたのは保健室のベッドの上だった。

「あれ、俺どうしてここにいるわけ…? もしかして弁ちゃん!?」

正吾の腹の上で弁天が正座してかしこまっていた。

「すまん正吾!つい禁忌を破ってしまった」正吾はガバッと布団をはぐと

「もしかして…俺の身体に憑依した?それで一体何やらかしたんだよ?」「いやあ〜すまん!ついあの不良どもを懲らしめてしまった…ああいう弱いものイジメするやからは神として黙ってみていられんかった」しみじみと語る弁天の様子に正吾もそれ以上責めることはしなかった。「まあ弁ちゃんは神様だからな…仕方ないか。でもさ、こんなに疲れるなんて相当エネルギーがとられちゃうんだな。こんな事たびたびあったら俺早死にしちゃうよ。あんまりやらないでね!」

弁天は目をウルウルさせて

「正吾お前は心が広いのぉ。しかし強い男ではないな…なにも妾は喧嘩が強いとかそういう事を言ってるんではないぞ。負けるとわかってても間違ってると思うなら、立ち向かっていく勇気が欲しぞよ。強い男とは弱者に優しいものじゃ」

正吾はそれを聞くと

「そうだね、俺は弱虫だよ。だけどそんなスーパーヒーロー現代じゃ流行んないんだよな。どうせ誰も守ってなんかくれないぜ?だったたら大人しく目立たないでいたほうが利口な生き方だと思わない?」弁天はそれを聞き、一気に瞳が乾燥した。

「こいつ冷めとる…冷めきっとる。こいつの魂に火をつけるのは並大抵ではないのぅ」

腕組みしてぶつくさつぶやく弁天をよそに

「あ〜良く寝た!」と正吾は大きな欠伸をしながら保健室を出ていった。

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