弁ちゃん生き霊の正体を暴く!完結編
生き霊編はずいぶん長いお話になってしまいましたが最後まで読んでくださりありがとうございました。反響が大きく作者としては次はより楽しい話を書こうと張り切っております。次回は毘沙門天が登場予定ですお楽しみに!
有明は真鍋から住所を聞き出すと早速駅に向かった。
「春日先生、さっきはかばってくれてありがとう」
有明はペコリと頭を下げた。
春日は少し歪んでしまった眼鏡をずりあげながらニッコリ笑いかけた。
「これしきなんともありませんよ」
「先生、陰陽師なんだし術でなんとかならなかったんですか?」
正吾は真顔でそう聞いた。
「おいおい、僕は魔法使いじゃないんだからね。しかも喧嘩も弱いときてる…大人しく殴られとくのが一番の良策さ」
九尾は正吾の不満そうな顔をみて
「あら、でも春日先生素敵でしたわよ!ねぇ?有明先生」
有明はポッと頬をピンクに染め、コクリと小さくうなずいた。
弁天はそんな有明の様子をみて
「乙女心にビビッときたかのぅ?」とニヤニヤしている。
「さあ、次の駅で降りますよ」
春日がそう告げると、みんなの表情はにわかに緊張した。
駅の構内を抜けると、空は薄曇りで今にも雨が落ちてきそうな気配であった。
「なんだか怪しい天気になりましたね。あそこに見える住宅街みたいですよ。行ってみましょう」
春日はそういうと早足でスタスタと歩き始めた。
「せ、先生おいてかないで下さいよ!」
有明たちも急いで後を追った。
住宅街はみな新しい家ばかりで、小さいながらも庭つきで中々に裕福な暮らしをしている様子がうかがわれた。「MANABEって表札出てる、ここですね!」
正吾がそういうと春日は
「シイッ」と唇に指を当てた。
カーテンは下ろされ、中から人の気配は感じられない。
「留守なのかしら?」有明がそう言うと、家の中からカーテンを少し持ち上げこちらを見ている目があることを九尾が告げた。
春日はインターホンを押した。
しばらく待ったが人が出てくる様子はない。春日はもう一度押して
「すみません。我々は真鍋進さんの知り合いです。どうか話を聞いてもらえませんか?」
と声をかけた。
すると、奥の方からパタパタと小走りに駆けてくる音がして、ドアがガチャリと小さく開けられた。
「あなたたち、主人の居どころ知ってるの?」
春日は笑顔で
「はい、たった今ご主人とお会いしてきました」
と言うと、ドアは大きく開かれた。
「なんですって!?とにかく中に入ってください。詳しく聞かせて」
有明は玄関を上がるなり、土下座して謝った。
「すみません!私のせいなんです…私のせいで真鍋さんがこんなことに…」
真鍋の妻はそれを見て、かなり動揺していた。
「ちょっと待って!真鍋の失踪にあなたが関わってるというの?」有明はさらに頭を床にすり付け
「はい!私が真鍋さんを痴漢と勘違いしたばっかりにこんなことに…すみません」と、平身低頭謝り、これまでの経緯をすべて話した。
「そうだったの…あの人、何も言わずいなくなったの。会社にも辞表を出してそのまま失踪よ。もしかしたら主人に好きな人が出来て私達を捨てたのかと思ってた」
真鍋の妻はホッとした表情を見せた。
「それで主人は今どこに?」
春日は言っていいものかどうか迷ったがやはり言うことにした。
「二駅先の河川敷で雨露をしのいでます。
これからご主人に会いに行きませんか?」
真鍋の妻は何度もうなずき、
「ええ、すぐに行きましょう。着替えを持っていきますわ。ちょっと待っててくださいね」
そう言うと妻は居間をいそいそと出ていった。
「良かったですね、有明先生!真鍋さんもこれで元通りですよ」
「ええ、きっと喜ぶわね!問題は会社だわ。自分から辞表を出したとなると、取り消すのは難しいわ」
春日もそれには同意見だった。
「多分とり消すのは無理でしょう…すでに違う人がそのポジションについているでしょうしね」
みな明るい表情から一転、難しい顔になった。
「お待ちどうさま」
そのとき、真鍋の妻が居間に戻ってきた。
「では行きましょう!真鍋さんが首を長くして待っていますよ」
春日はそう言うと、駅に向かうため真鍋家を出た。
電車の中ではみな無言のままだった。
「着きましたよ。あの川沿いです」
薄曇りだった空はどんよりと重い雲が垂れ込め、雨粒がパラパラと落ち始めた。
川沿いのテントに行くとリーダーがすぐに出てきて奥にいる真鍋を呼んだ。
「真鍋ちゃん!奥さんが迎えに来たぞ」
真鍋はバツが悪いのか少し不貞腐れた中学生のようにのっそりと現れた。
「あなた!何もいわず居なくなるなんて…ミクも私もどんなに心配したか…」
妻は両手で顔を覆い、声を出して泣き出してしまった。
それを見た真鍋は妻に近寄り背中を撫でた。
「良かったですね!有明先生。これでとりあえず真鍋さんは家に帰れますよ」
有明は涙を滲ませながらうなずいた。
妻が落ちつくのを待って、真鍋が口を開いた。
「すまなかったな…心配かけて。でも見ての通り俺は元気だ。ここの人達もみんないい人ばっかりでな…」
真鍋の妻はリーダーに向かって頭を下げた。
「主人がお世話になりました。おかげ様でこうして無事に迎えに来ることができました。ありがとうございます」
リーダーは照れくさそうに
「いやぁとんでもねぇ。こっちこそ真鍋ちゃんにはお世話になってばっかりで…株も教えてもらってだいぶ儲けさせてもらいました」
妻はキョトンとしている。
「株…ですか?」
リーダーはガハハと笑った。
「意外でしょ?こんなホームレスがってね。でもね、結構金持ちのホームレスもいるんですよ。ここにいるのは自ら選んでホームレスになったヤツも結構います。ここから会社に通ってる人もいるんですよ」
そんな話をしていると、スーツを来て黒いカバンを下げたサラリーマンがやってきた。
「こんにちは吉田様」
「ああ、四菱銀行さん。こっちにどうぞ…すみません、ちょっと失礼します」
リーダーはペコリとお辞儀するとテントの中に銀行員とともに入っていった。
「ハハハ吉田さんも忙しそうだな。洋子…俺はもう少しここにいるよ。会社は辞めてしまったしな。今考えると俺は逃げたかったのかもしれない…課長としての責任からも、一家の大黒柱としての責任からも…。少し時間をくれないか、俺は新しく生まれ変わりたいんだ。職が決まったら家に戻るよ…それまでは株で儲けた金を使ってくれ。お前の口座に振り込んである」
妻は思いがけない返事に愕然としていた。
「あなたにとって私達家族は重荷だったの?」
真鍋は苦し気に
「お前達のことは愛している。とても大事な存在だよ。ただ少し俺に休暇をくれないか…すまん」
妻はしばらく考え
「分かったわ…待ってる。あなたが自分で帰ってくるまであなたを信じて待ってるから」
妻はニッコリ真鍋に微笑んだ。
「ありがとう…ありがとう」
真鍋は妻を抱き締めた。
一行は真鍋を残して帰路についた。
有明は複雑な気持ちだった。
妻が迎えに行けばきっと一緒に帰ってくるだろうと思っていたのにここに真鍋は居ない。
「洋子さん、すみません…」
妻はフフフと笑った。
「いいのよ、あなたのせいじゃないわ。あなたのことはただのきっかけにすぎない…遅かれ早かれいずれこうなってたわ」
春日は言った
「きっと帰ってきますよ。真鍋さんは真面目な人ですから」
妻はうなずいた
「ええ…私もそう思うわ。真面目だからこそ思い詰めちゃったのよね…でもね、私はそんな不器用なあの人が好きなの。気長に待つわ…私も働こうと思ってるの。今度は私が家族を養ってもいいんだし。とにかくあの人と生きていきたいわ」
九尾はそれを聞いて
「素敵ですね。そういうご夫婦…羨ましいです」
妻はクスリと笑い
「人生山あり谷ありよ!だから面白いの」
と笑顔で答えた。
洋子を家に送り正吾達が学校に戻った時にはすでに雨は本降りになっていた。
「有明先生、お疲れ様でした。かっこよかったですよ!先生は全然言い訳しなかった。尊敬します」有明は照れて顔が真っ赤になった。
「町田くんたら、恥ずかしいじゃないの!」
「そういうところも可愛いですよ」
春日はサラリとそう言って有明の肩をポンポン叩いた。
「とりあえず一件落着ですね?」
正吾は春日にそう言った。
「ああ…でも真鍋一家はこれからが始まりだ」
みなあの家族に想いを馳せた。
「どうか幸せに…」




