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弁ちゃん恋のキューピッドその3!

その日の夜、夕飯が済んでから正吾と九尾、弁天はそっと家を抜け出し学校に向かった。

「さてと、いよいよじゃな!」

弁天のことばに二人はうなずいた。

「前世の恋人なんて、僕も会ってみたいよ。どんな人だったんだろう…」

それを聞いた九尾は口を尖らせて正吾をにらんだ。

「まあ!正吾様がそんなに未練たらしい男だとは思いませんでしたわ」

正吾は慌てて弁解した。

「いやぁそんなんじゃなくてさ。ただの好奇心なんだけど…俺はやっぱり前世で縁があった人はこの世でも縁があるんじゃないかって信じてるからさ。忘れてるだけでもうすでに出逢っているのかもしれないな」

「その通りじゃ正吾、よく会った瞬間ビビッときたとかいうじゃろう?あれは前世での縁を直感的に感じておるのだろうよ。お前はまだそんな経験はないのか?」

正吾は思い巡らせてみたがやっぱり思い浮かばなかった。

「う〜ん。まだそんな経験はないなぁ」

弁天はニヤニヤしながら正吾の顔をのぞきこみ

「どこにいるのかのぅ?正吾の運命の相手は…」と言うと、九尾の頭から真っ白い耳がニュッと出てきた。目は金色に光っている。

「そんなのこの九尾が許しませんわ!正吾様には私がいるのですから変な事ばかり吹き込まないでくださいまし」

弁天は

「おお怖い〜!九尾よ、冗談じゃ冗談!」と九尾をからかって遊んでいる。

正吾は呆れて

「二人共、いい加減にしなよ。もう学校に着いたんだから気を引き締めてよ、頼むからね!」とカツをいれた。

夜の学校はしんと静まりかえっており暗闇の中、足音だけがカツンカツンと響いていた。

音楽室の灯りだけが廊下を煌々と明るく照らしている。

「良かった。もう先生来てるみたいだね」

正吾がガラリと戸を開けると、神妙な顔で座っている有明の姿があった。

「先生今晩は!」

二人が挨拶すると有明は立ち上がった。

「二人共来てくれてありがとう。先生、緊張しちゃって早く来ちゃったわ」

二人は有明の前に座り微笑んだ。

「そうでしょうね。先生、やっぱり怖いですか?」

有明は小さくうなずいて

「うん、いくら恋人だった人でも幽霊だからね。怖くないと言ったらウソになるわ…」有明がそう言うと後ろの侍は少し寂しそうな顔になった。

「さあ、こうしていても始まりませんわ。早速彼を呼び出してみましょう!」

九尾と弁天は目配せして開始の合図をした。

「先生、まずは目を閉じて下さい。肩の力を抜いて…そうです、ではそのままで」

九尾はそう言うと呪文を唱えだした。

「おん、まからぎゃ、ばぞろうしゅにしゃ、ばざらさとば、うん、ばく…」

すると、霧のようにうっすらと見えていた侍がにわかに実体を現してきた。

「…先生、目を開けてください」

九尾の声で有明はゆっくりとまぶたを開けた。

すると有明の頬はポッと紅く染まった。なんて…なんて素敵な人かしら!

ちょっと、ちょっと待って…何かしらこのトキメキは。

「わたしは佐久間右近と申す者、ずっとあなた様をお慕い申し上げやっと…やっとこうしておめもじ叶い…感無量でござる」

有明は目の前にいる美しい元恋人にすっかり魅了されていた。

切れ長の涼しい目もと、繊細なあごのライン!私ったら昔から面食いだったのね…

「あのぅ…私達、昔付き合っていたそうですね。どうして結ばれなかったのかしら?そのいきさつを教えてもらえませんか?」

右近の顔は苦し気に歪んだ。


「はい…正直にお話ししましょう。織田信長様が亡くなり、豊臣が実権を掴んでからというもの我らキリシタンはそれと気付かれないよう。山の中に秘密の教会をつくり、そこで拝礼していたのです。私達はそこで出逢いました。私は豊臣に仕える武士の家柄、あなたは町の商家の娘しかもお互いに親の決めた許嫁のいる身分でした」

「私達、身分の違いで親達に引き離されたというわけなのね?」

有明は右近の顔を悲しげに見つめた。

「いいえ…そうではありません。親達はまだ我々の関係に気付いていませんでしたから」

有明は首をかしげた。

「では、一体なぜ?」

右近は首をうなだれ顔を両手で覆った。

「私は…私あなたを裏切ったのです!」

苦し気にそう叫ぶ右近に弁天は優しく声をかけた。

「右近とやら、自分を責めるな!昔はどうあれ現在はこうして有明は元気で暮らしておる。気を鎮めて正直に真実を話し、楽になるがよい」

右近は顔をあげ有明と正面から向かいあった。

「あの日、私達はいつものように夜の礼拝に参列しておりました。つけられていたとは露とも知らず…。教会に攻めいられた時、私はあなたを置いて一人その場から逃げ出したのです。もし、私がキリシタンと知れればお家は断絶たくさんの者が路頭に迷う事になる…でもそれは言い訳にすぎないのかもしれません。そんな卑怯者とは違い、あなたはキリシタンとして極刑されむごたらしく死んでいきました。この罪は決して消えません…ただどうしてもあなたに謝りたかった」

右近の両目からは留めなく涙があふれた。

「…赦します!あなたを赦します。イエス様はどんな罪も赦してくださるのです。きっと昔の私もあなたを恨んでいなかったと思いますよ。あなたは他の 者達を救ったのですもの…きっと間違っていなかったわ」

そう言うと有明は胸元に手を入れてロザリオを見せた。

「私もキリスト教会の洗礼を受けています。これに見覚えはありませんか?先祖から受け継がれて今は私が身に着けています」

右近は目を見開いた。

「そ、それは私がお菊さんに差し上げたものです」

右近は感無量といった表情で有明を見た。「右近さん…お礼を言います。長い間私を見守ってくれてありがとうございました。こうしてお会いできて良かった。そして先祖のお菊に代わり言わせて下さい。どうか…あなたも成仏してください。そしてきっと次の世でもう一度出逢いましょう。その時を待っています」

右近はうなずき立ち上がった。

すると右近の周りを白い光が包みこみ、ゆっくりと空に昇っていった。

「先生…良かったですね。きっとまた逢えますよ」

正吾はそう言って有明の方を見ると、有明の頬を一筋の涙が伝っていた。

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