弁ちゃん猫又退治!
正吾はとりあえず弁天から合格点を貰い、今日の練習を終えた。
「どうじゃ揚羽よ、なかなか仕込みがいがあるじゃろう?」
「まぁ、これからだわね」
「カリンはまだまだ腹筋が足りないな。寝る前に毎日やれよ!」
恵比寿は厳しく言い渡すと、カリンは口を尖らせ
「ハア〜イ」と返事した。
「じゃあまた明日学校帰りに寄らせてもらうよ」
「ええ、待ってるわ」
正吾が帰ろうとすると物陰から九ちゃんが出てきて弁天の前で寝そべった。「ホッ妾に乗れと言っとるの!どうやら我らについて来るつもりのようじゃ」
「すっかりなついちゃったな。仕方ない連れて帰ろうよ。どうせ俺達にしか見えないんだしさ」
それを聞くと弁天は早速九ちゃんにまたがった。
「なかなか良い乗り心地じゃのぅ」
弁天はすっかりご満悦だ。
「今日の練習でなんとなく感覚はつかんだ気がする。やっぱり揚羽との相性はバッチリだよ。ね?揚羽」
「そういうことは一曲弾けるようになってから言ってちょうだい!」
「そうじゃそうじゃ揚羽の言う通りじゃぞ」
「チェッ厳しいなぁ。俺は誉められると伸びるタイプなのに…」
「ん?何か言ったかの」
「アハハなんでもないよ。しかし九ちゃんは幸運を運ぶ聖獣なんだよね。だったらなんだか良いことありそうじゃない?」
「さあ、どうであろうのぅ。そのうちわかるじゃろう」
二人が話しているうちに家の前に到着した。
「ただいま〜!」
二人が家の中にあがると、すでに父の健一が会社から戻っていた。
「正吾、遅かったじゃないか。受験も近いんだから早く帰って勉強しろよ」
「うん。図書館で勉強してきたんだ。家だと集中出来なくてさ」
正吾はそう言って父の方に振り返った。
「!?と、父さん。どうしたの?」
健一は不思議な顔で正吾を見た。
「ん?何が?」
「とと…父さんの首におっきな猫が巻きついてるよ!」
健一は笑って
「何寝ぼけてるんだ?そんなわけないだろう。そういえば最近肩こりがひどくてな。後でもんでくれ」
正吾が弁天の方を見ると弁天は何やら考えているようだった。
九ちゃんは
「フウウ〜!」と唸り、尻尾は扇状に開いている。
「正吾よ、あれは猫又という妖怪じゃ。尻尾が二本あるじゃろう?しかも黒猫とは…猫又の中でも最強の部類じゃ。さてどうしたものかのぅ…」
まず夕食を済ませるとまだビールを飲みながらテレビを見ている健一に、最近変わったことがなかったか聞きただした。
「変わったこと?そうだなぁ…あったあった!でもこれはお前に話すにはちょっと…」
「なんだよ、やっぱり何かあったんだ!俺に話してよ」
健一は難しい顔をして話しだした。
「実は昨日の朝なんだけど…父さん会社に行くとき、そこの公園をいつも通っていくだろ?その時えらいものを見つけちゃってね」
正吾は身を乗り出した。
「なんだよ、そのえらいものって?」
「…うん。お腹を割られて死んでる猫の死体だよ。周りに子猫の死体も何匹か転がってて…酷い有り様だったんだ。父さん、あんまりかわいそうで死体を集めて公園の隅に埋めてやったんだ…まったく酷い人間もいるものだよ」
正吾は深くため息をついた。
「そうか、そんな事があったんだね」
「でもなんでそんな事聞くんだ?」
怪訝そうに健一は正吾の顔をのぞきこんだ。
「ううん。なんでもない、嫌な事思い出させてごめんね!」
正吾はそう言うと自分の部屋に戻って行った。
「フゥ、どうしよう弁ちゃん。だいぶ怨みは深いよ!でもなんで父さんにとり憑いてるんだ?」
「多分、人間すべてを憎んでおるのだろう。たまたま通りかかった父君の不運じゃな」
「そんな…なんとか助けなきゃ」
「そうじゃな。猫又は人間の生気を吸いとる。このままでは命にかかわるでな。まずは夜更けまで待とう、行動はそれからじゃ!」
そして真夜中…
弁天はすっかり寝込んでいる正吾を叩き起こした。
「正吾、起きろ!猫又を呼んでくるでな」
正吾はその言葉でパッチリと目を覚ました。
「そんなに素直に言うことを聞いてくれるの?」
「猫又は元々長い間飼い猫であったものが多いのじゃ。だから人語も解せるし、コミュニケーションはとりやすい。ちょっと待っていろ呼んでくる」
弁天はふわふわと飛んでいった。
しばらくすると真っ黒い巨大な猫又がのっそりと正吾の部屋に入ってきた。
「す、凄い迫力だな…」
正吾は思わず隣の九ちゃんにギュッとしがみついた。
「お主か、私に用があるというのは?」
正吾は恐ろしさで震えながらも返事をした。
「は、はい!そうです。お願いがあります。うちの父にとり憑くのは止めてください」
猫又は金色に光る目を細めた。
「嫌じゃ!と言ったら?」
正吾は拳に力を込めた。
「どうしてです?なんであなたたちを哀れと思って埋葬した父に仇をなすのですか?恨まれるような事はしてないじゃないですか!」
「…確かにな。しかし私は人間すべてに絶望してしまった。人間は勝手だ!自分の都合が悪ければ手のひらをかえすように冷酷になる!我々のことなどおもちゃくらいにしか思っておらんだろう。でなければ妊娠している私の腹を掻き裂き腹の子をむしりとるなどできるわけないわ!私は赦さん、決して人間どもを赦してやらん!」
そう言うと猫又はこちらを睨み付け、全身の毛を逆立てた。
「まずいぞ正吾!猫又め、正気を失っとる」
「フウウー!!」
隣でおとなしくしていた九ちゃんの全身が青白い光で包まれている。
跳びかかる猫又に九ちゃんは体当たりをくらわせた。
二匹はお互いを牽制しあいながら段々距離をつめていく。
そして二匹は取っ組み合いになり一つの塊のようになった。
それを見た正吾はすかさず揚羽を爪弾き始めた。
ポロポロ溢れる音符は不思議なメロディを奏でている。それを聴いた二匹のもののけは力が抜けてしまい、とうとうグッタリと重なりあってしまった。
「不思議じゃ。二匹の顔が穏やかになっておる。どうやら正吾のギターはもののけを癒す効果があるようじゃの」
正吾はやっと鎮まった猫又のそばに行き抱きしめて背中の柔らかい毛を撫でた。
「ごめんよ。ごめん」猫又は一筋涙を流し、一瞬光を放った後スウッと消えていった。
「どうやらあの世に帰って行ったようじゃの…」
正吾は甘えてすりよる九ちゃんを抱き上げて静かに微笑んだ。




