弁ちゃんスカウトされる!
二人は市場の中央まで進んで行き、空き缶を置いた。
「弁天、準備はいいか?」
「おお!いつでもよいぞ」
弁天は勢いよくギターを鳴らした。
アップテンポな曲で周りの人々をまず振り向かせた。
次に恵比寿の歌声に人々の足は完全に止まる。
「誰だ?なんていうバンド?スゲェ!」
あちこちからざわめきが起こり、誰かが手拍子をとりはじめた。
それはさざ波のように拡がりまるでコンサート会場さながらの盛り上がりをみせている。
その中にあの森本楽器店の店主の姿もあった。
「一体あいつら何者なんだ…あの揚羽を鳴らせるなんて」
盛り上がりが最高潮に達したころ、弁天は甘く切なくギターを鳴らし恵比寿は透明感のある歌声で人々の胸を熱くした。
二人は曲を終えギターをおろすと、
弁天は声を張り上げた
「どうであったかの?もっと聞きたくばこのカンカンに愛の寄付を頼むぞ!」
一斉にに投げ込まれる雨のようなお金に二人は
「イタッ!痛い!力いっぱい投げるでない」
と文句を言いながらも満面の笑みだ。
そんな中、人垣を押し退け高級な毛皮のコートをまとった小さなお婆ちゃんが近付いてきた。
おもむろにバーキンのバックから札束を取り出している。
「あなたたちとっても良かったわよ。こんなに興奮したのは久し振りだわ。これは今の私の気持ち、受け取ってちょうだい」
弁天がそれを受け取ろうとすると
「ただし!あなた達が誰なのか知りたいわ」
と弁天をじっと見た。
「なんじゃそんな事か。妾はべ…な、何をする!」
恵比寿が呆れた顔で弁天を制した。
「お…そうであった!俺は町田正吾じゃ」
老婆はうなずいた。
「あなたは?」
恵比寿はニッコリ微笑み
「安西カリンですわ」
と答えた。
「私はこういう者よ」恵比寿は差し出された名刺を受け取った。
「芸能プロダクション?」
「ええ。スターダストという会社よ、私は社長の松下よし子というの。よろしくね」
「もしかしてこれって…スカウトってやつですか?」
恵比寿が聞くと
「そうよ」とハッキリ言った。
「あなた達の音楽は…」
よし子は何か言いかけたが口を閉じた。
「いいえ…今それを言うのはやめておきましょう。今日は九谷焼のお皿を探しに来たんだけど、そんなものよりずっと凄いお宝を発見したわ」よし子はニッコリ笑った。
「また会いましょう。必ず連絡してね! 待っているわ」
よし子はそう言うと去っていった。
「弁天、なんだかへんなことになっちゃったな」
恵比寿がそういうと弁天はニヤリと笑い
「一石二鳥とはこの事じゃ!面白くなってきたぞい」とつぶやいた。
二人は場所を変え、市場の外れの土手に腰をおろすと
「さてと、もとに戻るとするかの」「うっ!つ、疲れた〜」
弁天が抜け出た正吾の体はすっかり消耗してしまっていた。
「ほんとね。もう、動けないわぁ〜!」
カリンもすっかりバテてしまっている。
「まぁ、そういうな。この金をみよ!これなら揚羽を買う事ができようぞ」
「まずは数えてみましょうよ」
カリンは早速数えはじめた。
それを横目に弁天は正吾に話しかけた。
「正吾、これをやる」弁天は正吾に名刺を差し出した。
「なんだい?これ。ええと…なになに、スターダストプロダクション?」
「なにやらスカウトとか言っておった」
正吾は目を丸くした。
「ちょっと待ってよ。そんなの無理に決まってるよ。弾いたのは弁ちゃんで俺じゃないんだ。そうでしょ?」
弁天はニヤリと笑って
「そうじゃな。だが足掛かりにはなった。チャンスはやったぞ!後はお前が実力をつければよいだけじゃ」
「フゥ。全く簡単に言ってくれるよ」
弁天は正吾の頭をナデナデして
「慌てるでない。妾が一年びっちりコーチするんじゃから心配ないわ」と言った。
「一年?それってどういうこと?」
正吾が弁天に問うと、金を数え終えたカリンは意外そうな顔で正吾に言った。
「あら、弁天様から聞いてないの?神様がターゲットの世話をするのは一年間なんですって。来年はまた違う人材を育てなくちゃならないの。だから私達も頑張らないとせっかくのチャンスをものに出来なくなるわよ」
「俺、そんなの聞いてないよ。本当なの?」
弁天はうなずいた。
「本当じゃ。だから時間は無駄に出来ん!これから毎日特訓じゃ。覚悟しておけよ!」
正吾は拳を握りしめた。




