遠い日の思い出
【空先節子】健吾の祖母。
破天荒だが、芯が強く人の心の変化に敏感。
豆知識
【粒あんよりこしあん派】
「ケッコンって言っても、流石に婚姻届は出せないよー?」
器用に箸で焼き鮭をつまみながらヴォルスが言う。
「まぁ、そもそも日本は同性婚無理だからなぁー。そこは雰囲気って事で。」
味噌汁を啜ってそう答えると、彼は最低役所の人の記憶いじる事も出来るケドねー。と、何やら不穏な事をボヤいていた。
「そう言えば、俺やばあちゃんの名前とか知ってたけど、ばあちゃんと知り合いなの?」
初めて会ったとき、に『セツコ』と言っていたが、あれはばあちゃんの名前だ。
「あぁ、セツコは前のご主人サマだよ。セツコには、よく雑用やらされたりしてたなぁ〜」
彼曰く、このランプをとある遺跡から発掘して持ち帰ったのはばあちゃんらしい。
ばあちゃんはよく、海外で現地調達をしてたけどまさかガチの産地直送だったとは。
そして、俺と同じく汚れていたランプを掃除していたらヴォルスが現れたと……
「セツコはああ見えても昔はバリバリのイケイケだったんだよ?」
「それはぁ…………ば、晩年も同じでしたよ。」
なにせ、ばあちゃんが俺に言った最後の言葉は
『健吾、お前そのクソッタレた会社なんてやめて、私の店を継ぎなさい。私ももうくたばるし良い機会じゃない。じゃ、宜しく。』
そしてその翌日。ばあちゃんは旅立った。
今思えば、俺が社畜してたのもそろそろ死ぬのも分かっていたみたいだった。
自分勝手で、無茶振りばっかする人だったけど、ばあちゃんは今も俺の憧れ。
「さて。そろそろ店開けに行くか。」
食器を洗って支度をしてから、家を出る。
本当はここで愛くるしい新妻に行ってきますのチューをして欲しいが、一緒に店の掃除を手伝ってもらおうと思ったので、彼は俺の服装を真似て一般人の格好をしてもらった。
「普通に美人だなぁ。」
「ケンゴはずっと僕の事褒めてる……」
モデル顔負けの格好良さに思わず唾を飲むと、ヴォルスは恥ずかしそうに頬をかいた。
「いや、そんぐらい何着ても似合うんだよ本当。」
「………………こんな人間はじめてダ。」
それでも嬉しそうに眉を下げて笑うヴォルス。
それすらも見惚れるほど美しくて、揺れた睫毛は、瞬きの度に音がしそうなほど綺麗で長かった。
「さぁて、着いた……ッ?!」
いつものように店の前に立つ。
今日も何事もなく店を営業する筈であった。
しかし、目の前に広がっていた光景は……
「店が、セツコの店が………」
シャッターをこじ開けられ、荒らされた店内。
窓ガラスは割れ、踏み倒された商品は、ばあちゃんが大事に飾っていた物。
「誰が、こんな事……」
一晩でぐちゃぐちゃになってしまった店を目の前に、俺らは呆然と立ちすくんでいた。
続く
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ここからまた2章の始まりです。
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