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 テレビから流れるニュースキャスターの声で目が覚めた。と言っても遠くから聞こえる男性の声は、何を言っているのかまでは聞き取れない。

 日差しを浴びて七海は身体を起こす。白いシーツの敷かれた二人用の大きなベッド。肌触りはすべすべで頬を擦るととても心地が良い。同じ家なのに、親の部屋と言うだけで全然別の空間に感じられる。

 眠たい目を擦りながら、部屋を出た七海は階段を昇ってすぐの自分の部屋を覗き見る。何ら変わりなく子供らしいカラフル色合いの部屋だ。特別な理由はないが、見慣れたものを見たことに安心した。

 そのまま階段を降りた七海はリビングへと顔を出す。

「おかあさん……。」

 キッチンでは母親が朝食をとっていた。イチゴジャムの塗られたトースト。

「あら、七海。おはよう。」

「うん。」

「うんじゃないでしょ?」

「はい。おはよう、おかあさん。」

「そうね。よくできました。」

 と言うとトーストを一口かじる。

「七海も食べたいの?」

「うん。」

 何枚食べるのと言う問いに一枚と七海が答えると、トースターのレバーを押して、スリットにパンを二枚押し込む。七海は一枚でいいと言ったのに二枚焼くのは、母親がもう一枚食べるからだろう。

 七海は母親の向かいに座る。母親はじっとテレビを見ていた。数分経つと、焼けたパンはトースターから飛び出した。イチゴのジャムを母親と同じようにパンの片面に塗りたくると、七海も同じようにかじる。それにしても会話のない親子だ。と思いきや母親が口を開いた。

「七海、昨日はなんであんなところで寝ていたの?」

 あんなところとは押入れの中の事だ。七海はキリトとかくれんぼをしている最中、母親の部屋の押し入れの中に入り込みそのまま寝てしまっていた。七海がいないことと、物音に気がついた母親が、押入れの中からだし、ベッドに寝かせその夜は一緒に寝たのだった。

 七海はキリトとかくれんぼしていたと、正直に言うことはできない。だから口に出すのは嘘である。

「ごめんなさい。」

「私は謝罪を求めているのではないのよ。理由を聞いているの。」

「あの……遊んでて。」

「一人で。」

「うん。」

 七海は目を逸らす。

「なにして。」

「かくれんぼ……ごっこ……。」

 七海と母親の目は合わない。

 母親もそれ以上は七海に何も聞かず、何も言わず、視線をテレビに戻してトーストをかじった。

 その日、七海の母親は仕事の無い日だったようで、一日中家にいた。それでも七海にあまり干渉することなく、テレビを見ながら自分の好きな事をした。七海にはテレビは一時間と言っておきながら自分は好きなだけ見るのである。と思ったら、母親が休みの日であれば一緒にテレビを見てもいいというのが暗黙のルールとしてあったようで、七海も母親の横に座ってテレビを見ていた。

  七海の母親の仕事は弁護士だ。それも敏腕の弁護士らしく仕事の依頼が後を絶たないので朝は早くから夜は遅くまで仕事漬けだった。それゆえ七海の事を少々ほったらかしになることが多いのだが、母親曰くしっかりした子供だから大丈夫でしょうと言う。

 休日だって、七海としては母親と何かして遊びたいと思っていたが、同時に仕事が忙しいことも知っていたのであまりわがままは言わないようにしている。

 傍から見れば会話もなく、退屈なように見えるが、大好きな母親が隣に居るだけで七海の心は満たされた。

 昼になって、夜になって、母親の休日と言う一日が終わる。母親がいたからなのか、この日、一度も七海の前にキリトが姿を現すことはなかった。もちろん、寝る時に自分の部屋に一人になってもだ。

 寂しい気持ちになりながら七海はいつの間にか寝てしまっていた。


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