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雨、雨が降っていた。
都心から少し離れた住宅街。同じような家が何件も並んでいる。
徒歩で三十分圏内にはコンビニやスーパーや小中学校があり利便性がよく、立地条件はさほど悪くない。
ある家に一人の女の子がいた。日曜日の昼間だというのに雨が降って薄暗い中、彼女は居間の窓際でシトシト降る雨を眺めていた。
女の子は引っ込み思案な性格で友達もいなく、いつも家に一人でいた。
母親はいつでも仕事仕事と、忙しそうにしていてあまり家にはいない。父親は何年か前に家を出て行った。
女の子は時折、吐く息で曇る窓ガラスに指で落書きをしていました。そこに描くのは女の子が考えたネコのキャラクターだった。毛並みの整ったネコ。多分種類はロシアンブルー。女の子がテレビで見て可愛いと思った猫の種類だ。目は大きく髭も長い。足には赤い長靴を履いていて、その長靴は以前に女の子が母親に買ってもらったもので、大変お気に入りの長靴である。
落書きに飽きた女の子は、また外を見た。雨は弱くなることもなく強くなることもなくただシトシトと降り続けているばかりだ。
寒くなったのか、身を震わせた女の子は、部屋の中へと戻ると毛布を羽織り、テレビの前へと座った。リモコンを持ったとき、女の子は母親の言葉を思い出す。
「いい。テレビを見ていいのは一日に一時間だけよ。お母さん、言いつけを守らない子は嫌いだからね。あなたの為に言ってるのよ。」
母親がいない中、どれだけテレビを見ていたかなんてわかるはずもない。小学校も中学年の女の子にそんな事は気付いていたはずなのに、律儀にも母親の言葉に従ってテレビをつけるのをやめた。女の子は夜から見たいテレビがあったのだ。
リモコンを机の上に置くと、やる事のなくなった女の子は毛布にくるまって床に寝そべる。雨音と、時計の針の音を聞きながら天井をじっと見ていると、次第に瞼は落ち、いつの間にか眠ってしまっていた。