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第三十一話 水あめ

甘味を作ります。

孤児院から戻って、火魔法で調整しながら調理するのは、面倒くさいと感じたので、火力調整機能付きの魔道具を創ってテストしていたら、七輪をあげた錬金術師さんが訪ねてきた。

困ったことに、火力調整機能の確認してるところに来たものだから、見られちゃったよ。

音楽の魔人が効果音鳴らすし、勘弁してよ。


根田 「こ、こんにちわ。ど、どうしました?何か御用ですか?」


焦ったせいで、どもったよ。

何も悪いことしてないのに。

まるで覗きしてたのが、ばれた時みたいな反応みたいになった。

あ、言っておくが、覗きなんてしたことないぞ!

スリリングな体験には興味はあったが、リスクは冒さない主義だからな。

そういうのは妄想だけだ。そんな蛮勇は持ち合わせてない。


錬金術師 「こんにちわ。突然すみません。何か音がしましたが?根田様は、聖光国の国賓だったのですね。食堂では、失礼しました。」


錬金術師さんが、頭を下げた。

別に悪いことしたわけじゃないのに律義な人だ。

気にすることないのに。


根田 「いえいえ、お気になさらず。自分は堅苦しいのは苦手ですから。音などしてませんよ。気のせいです。」


ここで神様スマイルだ。

ごまかさないといかん。

ん?錬金術師さんなんか嬉しそうだぞ。

なんだろう、そっちの趣味じゃないだろうな?

人の趣味はとやかく言わないけど、自身の身に危険があるなら逃げるなりしないと。


錬金術師 「流石、ネタの神様です。温かいお言葉有難うございます。」


えっ、正体知ってるの?

もしかして顕現に立ち会ったの?

違うか。それなら試すようなことしないよね。

顕現した理由知ってるから、こういう言い方しないもんな。

ということは、錬金術師さん上級神官以上ってことか。


根田 「自分の正体を知ってるということは、錬金術師さんは上級神官ですか?」


錬金術師 「はい。根田様の顕現に立ち会えず申し訳ありませんでした。私は、光の大神殿所属の錬金術師で上級神官のアカヤ・ジオウと申します。魔道具の研究部門の責任者をしています。」


なるほど、上級神官で研究部門の責任者か。

自分が神であることの報告聞いたんだな。


根田 「そうでしたか。アカヤさんは、研究部門の責任者ですか。少し時間宜しいですか?」


アカヤ 「はい。大丈夫です。」


根田 「少し話したいことがあるので、座ってください。」


着席を促して、座ってもらった。


根田 「ご存知だと思いますが、自分の正体は他言無用でお願いします。神殿の関係者では、上級神官以上と騎士団長、副騎士団長以外知ることができないようにしていますが、無理に話そうとすると制限を掛ける自分の神力が強く発動されるため、世界そのものに影響が出ますから。」


アカヤ 「わかっております。根田様の正体については話しません。お礼を申し上げたかったのです。片腕の神官を治していただき有難うございます。あのものは、私の同僚で、他の街がワイバーンに襲われた時、共に戦ったものなのです。」


根田 「そうでしたか。彼と義足の神官殿からは、民を守る”義侠心”を強く感じました。肉体を欠損しながらもその心を失わず、強く生きる意志を持っています。彼らが、命を懸け力を尽くし必死で生きている者であるからこそ慈悲をかけたのです。気にすることはありません。ただ、奇跡に頼り堕落するようなものは、見捨てますからね。」


アカヤ 「肝に銘じます。」


根田 「他にも何か用事があったのでは?」


アカヤ 「はい。孤児院に変わった調理器具を授けたようですが、あれは一体?それに地上に介入して良かったのですか?」


根田 「あの程度なら構いません。バッタの肉もそうですが、私が教えなくてもいずれ食べる者が現れるでしょう。あの調理器具は、中華鍋と言います。異世界の調理器具で中華鍋でも北京鍋と言われる種類です。鉄製ですので、使用前に油をなじませる必要があります。こちらの世界の鉄鍋も同様だと思いますが、きちんと手入れすれば、長持ちします。こちらの調理方法は、煮るか焼くかですが、私がしたように油で揚げるという方法もあります。中華鍋は色々な調理ができるので、万能調理器具と言われています。調理方法を多少教えないと旅の最中に調理して騒ぎになると困りますからね。」


アカヤ 「なるほど。根田様が神界に戻られたら、正体を神殿が発表してもよろしいですか?根田様が授けてくださった知識は、神から授かったものであると知らしめたいのです。」


根田 「それは構いませんが、一つだけお願いがあります。神像は祀らなくて良いですから。他の神達と並べられると自分のカッコ悪さが目立ちますから。」


アカヤ 「そんなことはありません。孤児院の子供たちもそうですが、神殿の者は、根田様を尊敬しています。」


そんなこと言うなよ。

これで強く言ったら、みじめじゃんね。

くそー。これは、やるなというフリになった感じか。

コンクリ像化決定かー、参ったな。


根田 「まあ、その辺は私が万年青に戻ってから神殿で相談してください。アカヤさん、私が先ほど使用していた魔道具のことを知りたいのでしょう?」


アカヤ 「やはり、神には隠し事は出来ません。調理用の火の魔道具のようですが、火力が一定では無かったように見えました。それに二種類ありますが。」


根田 「やはり見られていましたね。孤児院で聞いたかと思います。今日、調理で火魔法を使用しましたが、火力を調整する必要があるので、面倒なんです。魔石と魔蟲鋼が大量にありますので、火加減ができる魔道具を創りテストしていたのです。一つは鍋やフライパン用で、もう一つは串焼きや網焼きなどをするものです。」


アカヤ 「火加減ができる魔道具ですか?便利ですね。錬金術で加工だと火魔法と魔力調整で行うので、魔道具で火力調整する発想は無かったです。調理用の火の魔道具は、火力が固定ですからね。魔道具は高価なので、調理は薪で行う方が多いですから、火加減が必要なら薪で行うものという考えにとらわれてました。」


根田 「アカヤさん、調理用魔道具は差し上げます。参考にしてください。4級や5級の魔物の魔石で使用できるようにすれば、価格は抑えられるでしょう。材質は魔蟲鋼で無くて構いませんしね。」


アカヤ 「よろしいのですか?神殿としては、有難いですが。」


根田 「孤児院や詰所の食堂にも設置して貰って良いですか?代金は払いますよ。」


アカヤ 「代金はいりません。中華鍋や魔道具を売り出せば利益は出るはずですし、神殿の備品ですから。」


根田 「そうですか。では、魔石を提供しましょうか?」


アカヤ 「それも大丈夫です。精霊石が取れますので、テスト用の魔石はありますから。」


根田 「わかりました。話は変わりますが、実は、聖都の周りに沢山いるウサギの魔物を獲ろうと思ってるのです。別に許可とかいりませんよね?」


アカヤ 「許可は必要ありません。西側の草原にいますが、素材が必要なのですか?」


根田 「収穫祭が月末にありますね。ちょっとしたことを考えているので、そのために獲ろうかと。そういえば、北に河があって、東に川があるんですよね?魚とか獲っても大丈夫ですか?」


アカヤ 「ええ、街からは少し離れていますけど。それに薬草や魚などは、獲っても大丈夫ですが魔物もいますよ?普通の者には危険なので、許可は必要ありません。我々も水辺の素材が必要な場合は行きますが、根田様が力を使用するのを冒険者などに見られてもよろしいのですか?」


根田 「それは、対策しますから大丈夫です。認識できないようにも出来ますし、見えなくも出来ますから。」


アカヤ 「そうでした。神様が対策しないわけありませんでした。」


根田 「そうだ、孤児院の院長や子供達には、作業をお願いすると話しているのですが、見に来ますか?食堂で一緒にいた植物の研究をしていた神官殿も一緒に。でんぷんと水あめを作ろうと思いまして。」


アカヤ 「でんぷんと水あめ?それは、何ですか?」


根田 「でんぷんというのは、ジャガイモなどを切った時、洗わないとナイフなどに白いものがつくと思いますが、あれです。水あめというのは、でんぷんを加工して、甘くしたものです。その加工を子供たちに手伝ってもらおうかと。今回はサツマイモを使います。」


アカヤ 「でんぷんは説明でわかりましたが、あれを加工すると甘くなるのですか?」


根田 「ええ。砂糖などは、存在は知られていても魔物のせいで、流通しませんから甘味の作成方法を授けようかと思いまして。」


アカヤ 「そういうことなら是非!植物の研究担当も呼びますよ。聖女様たちが来たがるかもしれませんね。」


根田 「まあ、仕事の都合がつけばいいですけど。時間がかかる部分は、魔法で処理します。味見をしてもらう分ですが。」


アカヤ 「わかりました。楽しみです。」


調理用の火力調節可能な魔道具を作って、使用方法を説明し渡して別れた。

……ここまで介入するつもりは無かったんだけどな。



◇◆◇◆◇◆



アカヤさんに魔道具を渡した翌日、拝殿で祈りを受けてから、朝食をとって孤児院へ。


……聖女さんと巫女さんがいる。

仕事いいのかな?

アカヤさん達は研究やってる人だから、覚えてもらうのに呼んだんだけどね。


根田 「お早うございます。聖女さん仕事は良いのですか?」


ベラ 「お早うございます、根田様。仕事なら大丈夫です!今日は予定無いですから。」


聖女さんと巫女さんが、すごい笑顔だよ。

大した作業じゃないし、がっかりしないでね。


アカヤ 「根田様、お早うございます。植物の研究担当も連れてきました。」


植物の研究担当 「根田様、お早うございます。自己紹介していませんでした。私は、植物研究責任者の上級神官トチバ・ニンジンと申します。」


根田 「トチバさんですか。よろしくお願いします。自分の正体は、子供たちに内緒ですよ。」


トチバ 「わかっております。」


挨拶が済んだところで、孤児院の中で作業だ。

孤児たちは、街で手伝いなどをしているので、いるのは今日仕事のない子たちだ。

30人ぐらいいるかな?小さい子は、年長の子に遊んでもらってる。


根田 「院長さん、作業はこちらでやってよろしいですか?」


院長 「はい。こちらでお願いします。」


場所は、孤児院の食堂だ。

ここなら広いし丁度いい。

さて、準備しますか。

まあ、必要なものは、そんなにないけど。

取り合えず道具の準備だ。


根田 「皆さん、まずはサツマイモを洗って貰います。そうしたら、灰汁抜きするので、皮をむいて厚切りし、酢水にさらします。酢は入れすぎないように!2、3回水を取り換えて、白く濁らなくなったら灰汁抜き完了です。灰汁抜きが終わったら水でよく洗います。」


皮をむくのは、ピーラーだ。

子供でもできるようにね。

大工道具の鉋はあるから似た感じの道具だと思うだろう。

使い方も教えた。

サツマイモを切るのは大人だ。

危ないからね。


根田 「手を怪我しないように注意してください。怪我したら言ってください、すぐ治します。回復魔法使えますから。」


まあ、聖女さんや巫女さんもいるし、光華さん、黒乃さん、玉樹さんもいるしね。

灰汁抜き完了、次の工程だ。


根田 「灰汁抜きが終わったら、沸騰前まで沸かした湯におろし金でサツマイモを擦りこみます。湯は沸騰させないよう注意してください。おろし金で怪我しないようにしてください。」


こちらでもチーズはあり、固くなったものを削るおろし金はある。

チーズグレーターって奴だな。

ただ、調理では使わない。

風邪ひいたときに、生姜を擦って湯に溶いて飲む程度だそう。


根田 「次は、処理したものを弱火で粥のようになるまで煮ます。とろみが出てくるはずです。白っぽかったのが黄色に変わってきます。」


穀物でグリュエル、ポリッジのような粥を食べているので分かるだろう。


根田 「粥状になったものをすすって飲める程度より、少し熱めで8時間程度保温します。保温用魔道具を創ってきましたので使用します。今回は、時間短縮の為、私が魔法で処理します。」


細かい温度を言っても理解できないだろうからね。

ちなみにすすって飲める温度は摂氏50~60度だ。

本当は、60~80℃前後で7時間程度保温して糖化させるんだけどね。


根田 「次は、濾し布でサツマイモを濾します。目が詰まりやすいので、少しずつ底の方を握る感じで絞って濾します。こんな感じです。」


手本を見せてるから分かるだろう。

濾し布は亜麻布だ。

この世界では、入手しやすいし安価だ。

植物の成長早いから沢山作られてる。


根田 「次は、濾した汁を煮詰めます。灰汁が出てきますので丁寧に取ります。煮詰まって全体が泡立ったら火を止めて、熱いうちに保存する容器に入れて完成です。冷えると固まりますのでね。」


容器はクリスタル系の魔物の素材で創った。

冒険者ギルドの身分証で材質がわかったから、自分で創りだした。

実際加工できるようだし問題ない。


根田 「舐めてみてください。どうでしょう?結構、甘いと思います。手間がかかるのと材料を濃縮するようなものですので、量がだいぶ減りますけどね。これなら入手できる材料で作れますから。」


なんか皆、説明してるのに聞いてないね。

まあ、仕方ないか。


根田 「アカヤさん、トチバさん作り方はわかりましたか?」


アカヤ 「このような方法で甘味が作れるとは驚きです。」


トチバ 「根田様が説明して下さったように、材料を濃縮するようなものですから量が減るのは当然です。甘さも十分あります。私は仕事柄、サトウキビやサトウダイコンなどを知ってますし、甘さも知っています。どちらも魔物のせいで十分な量栽培できません。蟲の魔物も危険ですが、蟲を食べる魔物が寄ってきたりしますので、危険です。蟲を食べる魔物は人を襲いますから。果樹栽培も同様です。しかし、魔物も植物が無くなると困るので、植物が枯れるほどは食べませんが、魔物の食べ残しを獣が狙ったりするので、魔物が種を運んだりして共生もしています。そんな状況ですので、入手できる材料で作ることができるのは、有難いです。根田様ありがとうございます。」


トチバさんが、頭を下げた。

蟲を食べる動物が基になった魔物は、蟲の魔物も食べるそうだ。

肉食なので人や獣も襲う。

食事が必要ないのに厄介な存在だ。


根田 「いえいえ、自分が教えるのは、ここまでです。後は皆さんで研究してください。」


神様スマイルだ。

みんな笑顔だ。

後は、ジャガイモで”でんぷん”を作った。

大根を使った水あめの作り方と麦芽を使った方法は、アカヤさんとトチバさんに作り方を説明した。

熱心にメモを取ってたよ。

酵素と糖化の知識も授けたよ。簡単にだけど。

原理は研究するように言っておいた。

違う作成方法を教えたんだから、違いを比べてみてよ。

麦芽を使った方法は、米が無いから、でんぷんを糖化させるものだ。

同じ事だからね。


根田 「院長さん、また子供たちに作業を頼むことがあるかもしれません。その時は協力お願いします。」


院長 「勿論、喜んで協力します。ねっ、皆?」


子供たち 「うん!まかせてよ!」


笑顔が眩しいね。

教えて良かったよ。

おろし金とか道具はあげた。

自分は必要ないからね。



◇◆◇◆◇◆



暫くして、属性の大神殿へ光の大神殿に派遣されている属性の巫女から、水あめの作り方が伝えられた。

甘味の入手が難しいこの世界で大変喜ばれた。

蜂蜜よりは安価で入手できるので、作り方が広まった。

そして作り方を教えたのが、根田だということも広く知られた。

根田が万年青に戻り、神殿から正体が明かされ、一部の者に調理の神と信仰される理由の一つである。

料理店に中華鍋を持った根田の神像が祀られているときがある。

作業着に前掛けを身に着け、大福帳と瓢箪の魔道具を腰に下げ中華鍋を持った姿は滑稽である。

根田が『美味しいものを食べれば笑顔になる。貧しくとも食事ができることは幸福である。強く生きよ。』と言葉を残したことからだ。

調理人は根田の言葉に従い、努力を怠らない。皆の笑顔を作るために。

根田の滑稽な姿を笑うものは”エンゲーイ”にはいない。

人々が根田に祈るとき、笑顔を供えるのだ。

地上を見守る根田の為に。

根田の神像の股間を女性が撫でて、テカテカしてるのは、光華たち大精霊達が誤解を招くようなことを伝えたからだ。

撫でるのがお約束で根田が喜ぶから、金運アップになるかも?と伝えたのである。(女性限定で)

勿論、神殿はそんなことは無いと発表しているが、間違った情報が浸透してしまっている。

神殿の神像は流石にそのようなことはされないが、根田は広く信仰されているので、家で祀る小さい神像が多く作られている。

根田は、自身がネタの神で縁起神だが、股間を撫でてもそのような加護は与えないと神託したのだが、止めてくれない。

根田は、地上の者に敬われているのだが、本人は、”いじられる”というネタがおかしな形で伝わったことを知らない。

そう、地上の者は、”股間をいじる=ゴールデンボールを触って金運アップ”というネタの一つだと思っているのだ!

これがばれると根田が怒るだろうから、万年青の神々は笑ってとぼけている。

根田は笑顔を作る神だから。

世界が違っても下ネタは共通なのだった。

「芋類加工の理論と實際」(昭和22年 尾崎準一編)を参考にしました。


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