白狐様、ミムを紹介する
ミムに夢中になっているシンの頭を後ろからチョップする。うぐっと言って痛そうにしているがちゃんとこちらを向いたので作戦は成功だ。
「最近、俺に対する扱いがひどくなってきたような気がするんだが。」
「気のせいではないですか、ご主人様。」
「だからそういうところが、うっ、あっまあいいや。」
何でだろう、にっこりと微笑んでいただけなのに、ちょっと手刀の形にした手を胸の前に持ってきただけなのにシンが怯えたような顔をしだしたわ。やはり慣れているといっても迷宮の探索は神経を使うものね。
「私としてはミムを連れて歩きたいんだけど、どういう立場が1番いいのかな。一緒に居ても不自然じゃないとすると、やっぱり冒険者仲間って感じかな?」
私自身いろいろ考えてみたんだけれど一番無理のない案がこれだと思う。学園にいる間はあんまり外に出られないので我慢してもらうことになるが、学園内に部外者が入るわけにもいかないし。シンが冒険者になった時にパーティメンバーとしてというのが自然だと思うのだ。
しかしそんな私の考えにシンが待ったをかける。
「さすがにこれから2年以上放置って言うのは可哀そうだろ。そうだな、あっ、そうだ。ちょうどアンは実家に行っているという設定なんだから、メイド長が監視に来たとかにすればいいんじゃないか?実際にメイドや執事を入れている貴族なんかはいるんだし。」
シンがさも名案を思いついたとでも言うように指を鳴らす。何か問題があるかなと思ったけれど、シンや私のような鑑定を誤魔化す装備さえあれば何とかなりそうな気がするわね。
「そうね、Sクラスの部屋は広いし、私の部屋にベッドを1つ追加すれば問題はない、かな?鑑定を誤魔化す道具は必要だけど。」
「それは俺の予備の物があるから大丈夫だ。」
「あれっ、そうなの?」
シンに当てが無かったら、この迷宮のボス討伐を繰り返そうかと思っていたんだけれど。ちなみにシャロたちが倒した討伐後の宝箱はエブリンたちの時と同じような少しだけ能力が上がる腕輪だった。もしかしたら初回だけ宝箱の中身が良いのかもしれないな。
「ああ。こんなばれたら終わりの任務なのに偽装する装備を予備も全く用意しないままつくなんてことを、俺も俺の実家もしないぞ。実家と同じ考えなのは嫌だがな。」
ぺっと唾でも吐きそうな顔でシンが言う。私は行ったことは無いが、シンは本当に実家が嫌いみたいだ。話すと機嫌が悪くなるからなるべく私も話題にならないように注意しているんだけれどね。
「わかったわ。ミム。迷宮から帰ったら私の上司のメイド長として学園に入ってもらうわよ。いいわね?」
「申し訳ありませんがその要求は却下されます。魔導人形としてマスターを下に置くような設定は出来ません。」
「ええ?!?お芝居だよ。」
「却下です。」
思わぬところから却下されてしまった。こういう時のミムには説得が無駄ということはミムのマスターになってから数日話してみてわかっていた。良くわからないがミムの中で明確な基準があってそれを超えることは出来ないようなのだ。
どうしようとシンの方を見ると、シンがとても面白いことを思いついたかのような楽しげな顔をしていた。嫌な予感がする。
「ミム。俺はアンジェラのご主人様のシンだ。」
「よろしくお願いします。シン様。」
「アンの上司にはなれないと言う事だけれどアンが上司ならいいんだよな。」
「はい、問題ありません。」
「よし、今後アンジェラの事をメイド長と呼べ。そして俺のことは・・・そうだな、シンリー様と呼んでくれ。」
「いやいやいや、何言っているんですか!!」
冗談で言っているのかと思ったが、確かにふざけている部分はあるのだがその言葉は本音のようだ。そしてミムからの拒否の言葉は無い。ミムは私を見つめそれでいいのですかと言うような表情をしている。
改めてその案を考えてみる。確かに問題は無い。あるとすればこの年齢でメイド長などという役職につく非常識さとその部下が年上のエルフの美人のメイドになると言う事だ。問題ありすぎじゃない?
「さすがにこの年齢でメイド長はないでしょ。皆おかしいと思うわよ。」
「大丈夫だ、アンの事は既に皆おかしいと思っている。」
その一言にがーんと頭を殴られたようにショックを受ける。なんでだ、私は普通に教えられた通りの事を一生懸命覚えてきただけなのに。私の姿があまりに哀れだったのだろうか慌ててシンがフォローを入れてくる。
「いや、悪い意味じゃなくてな。ほら、天才というか手の届かない存在というか・・・何と言っていいのかわからんがさっきの言い方は悪かった。すまん。でもアンがメイド長になったと言っても学園の生徒なら過剰に反応はしないと思うぞ。それだけの活躍をしているからな。」
フォローにはなっていないような気もするが、シンの思いは伝わった。そうよね、ご主人様が出来ると言ってくれているのだからそれに応えるのがメイドの仕事よね。
「わかったわ。ミム。さっきシンが言ったように私の事はメイド長、シンの事はシンリー様と呼んでくれる?」
「はい、わかりました。メイド長。」
「じゃあ俺はシャロの捜索が終わったらメイド服の用意をしておく。確かデザインを描いたときの試作品が残っていたはずだ。」
「よろしくお願いします、シンリー様。」
心なしかミムの顔色が良くなっているような気がする。魔導人形もメイドと同じで人に尽くすことに喜びを感じるんだろうか?
とりあえずの方針が決まったのでミムにはマジックバッグに戻ってもらってシンはテントへと入っていった。結局交代時間から30分ほど過ぎてしまったので1時間近く話していたことになる。
ミムについては一応どうするか今後の目途は立ったが、それもシャロの捜索がうまくいけばという前提があっての話だ。私もシンも言わなかったが、迷宮に絶対はない。そして何が起こるのかもわからない。
しかし出来ることは限られている。私たちに今出来るのは、自分たちの考えがあっていると信じて一刻も早くシャロたちを発見することだ。
必ず見つけてみせるから無事でいてよ、皆。




