白狐様、王女探索1日目
一度30階層へ戻って私たちも捜索に加わることを伝え、再び戻ってきたところでシンが口を開いた。
「イブさん。提案なのですが二手に別れませんか?この程度の強さであれば3人ずつで十分間に合うはずです。シャロたちも無事である可能性は高くなりましたが早く見つけた方がいいのは確かでしょう?」
シンの提案にイブが考え込む。敵の強さ、効率、危険性などいろいろと考えているのだろう。しばらくして顎に手を当て考えていたが、スッとこちらを見た。
「10日後、見つけられても見つけられなくても30階層のボス部屋に戻ってください。無理はしないこと。いいですね。」
「「はい。」」
「んっ。」
そうして私たちは二手に別れシャロたちの捜索が始まった。
「それで何か方針はあるの?シンリーさん。」
「さん、なんてつけないでください。エカテリーナ先輩。シンリーで大丈夫です。」
「私もハクでいい。」
私が先頭で罠に警戒しながら進んでいく。いくらエカテリーナ先輩が罠学を習っているといってもそれはここ最近の話だ。今まで誰も入ったことのない場所の探索なら私が確認した方が確実だ。後ろで2人が方針を話し合おうとしていたのでついでに伝えておく。
「では私もエカテリーナと呼んでください。」
「んっ。」
「わかりました。それで方針ですが、おそらくイブさんたちは31階層から順番に階層を探索していくと思うんです。確実な方法ですね。」
その言葉にエカテリーナがうなずいている気配がする。確かに1階ずつ潰していくのが確実だ。すれ違ってしまうかもしれないが後で捜索隊が来た時にその探索でわかった情報や地図を渡すこともできるし。
「なので僕たちは逆に下層を目指します。階段を見つけ次第下層へと降りるつもりです。」
「そんな、だってそれでは・・・」
そこでエカテリーナの言葉は止まってしまったがその続きの予想はつく。それではすれ違う確率が高すぎると言いたいんだろう。まあ普通ならそう思うわね。でも私もシンと同じ考えなのよね。
「僕が今までSクラスで過ごしてきて、そしてこの敵の強さだと4人が知った時の反応の予想ですが・・・シャロたちはもっと下層に向かってボスを倒す選択をするでしょう。」
「なっ!!」
シンの発言にエカテリーナが言葉を詰まらせるが私も同意だ。カナタとミスミとリーゼが下層のボスを倒そうと言い出して、シャロもこの程度の強さなら別に大丈夫でしょ、まあ誰も入ったことのない迷宮に入る機会なんてなかなかないし、と賛成しそうだ。スタウト先生は反対するだろうけれど・・・無理だろうなー。押しに弱いから。というかそもそも押しに弱くなかったらここに来てないだろうしね。
「止めるとしたら罠学の先生ですけれど・・・出来ると思いますか?」
「・・・無理ね。」
エカテリーナでもそう思うんだ。ということは罠学の生徒全員の総意ってことだね。スタウト先生、生徒に理解されていて良かったね。
「まあ同じ方法で捜索しても仕方がないですしとりあえず5日まで下層へ行けるだけ行ってみながら探してみましょう。確率は高い方がいいでしょう?」
「同意。」
「わかりました。2人にお任せします。」
方針は決まった。後は見つけられるように頑張るだけだ。
頑張るだけなんだけれど・・・まあこれだけ匂いがしているんだから当然その元となるものもいるわよね。
前方から3体ゾンビがやってくる。人間型が2体と犬型というか、たぶんフィールドウルフのゾンビが1体だ。その動きは決して速くない。逃げ切ろうと思えば逃げ切ることはできるのだがゾンビについては出会ったら倒すのが冒険者のマナーになっている。
迷宮のゾンビはどうだかわからないが、一般的には死後放置された死体に意思が宿り魔物化した者がゾンビになる。つまり元は普通の人間だったり動物だったりするのだ。ゾンビになった後は元のスキルを引き継ぐようなことは無いが、身体能力は多少引き継ぐらしく個体差が激しい魔物としても知られる。
そして倒す理由だが、結局はもし自分がゾンビになった時に倒してほしいからという理由に他ならない。自分がゾンビになって大切な人を襲うなんてことになってしまったらぞっとしないからだ。
シンとエカテリーナが魔法を放つ体勢に入っているが、シンはともかくエカテリーナがこのままの勢いで魔法を使ってMPが枯渇しないとは思えない。シンだけに魔法を頼むというのも手だけれど、シンのMPも一般人からしたら規格外だからな~。知り合いにあまり知られすぎるのもまずいだろう。
まあ、こういう時にこそ正体不明の冒険者の実力を発揮する時よね。
「いい。」
2人を手で遮って必要ないと伝える。シンはともかくエカテリーナは不思議そうな顔をしている。まあ私は武器を装備せずに素手で戦っているからどうするつもりかわからないんだろうな。ゾンビの体液に触れると病気になることも多いから近接系は接近することも嫌がるしね。
【魔気変換】を使用し、拳の前に3つの小さな石を意識した気弾を作る。久しぶりだが、死ぬような思いをして習得した技だ。早々忘れるはずなどない。
「ハッ!」
振りぬいた拳が何もない空間を引き裂く。少なくともエカテリーナにはそう見えたはずだ。しかしその実、拳の勢いで放たれた気弾が3体のゾンビそれぞれを貫き、そして一瞬遅れてやって来た衝撃に体を吹き飛ばしながら爆散する。前にシンに言われた、ぶつかったら気が破裂するイメージで気弾を作ってみたんだけれどなかなかの威力ね。
「なんですか、これは?魔法を使ったようには・・・」
ああ、エカテリーナが混乱している。まあただ拳を空振りさせたようにしか見えなかっただろうし気弾なんて知られていない攻撃手段だから仕方がない。でもあんまり動揺して変な罠を発動されたりしても困るしちょっと説明しておこう。
「私の奥義。時間無い。内緒ね。」
指を一本口の前で立て、シーっと言うポーズをする。それを見てエカテリーナは攻撃手段はわからないが何か私がしたんだろうと理解し、落ち着いたようだった。シンはといえばエカテリーナの後ろでちょっと笑っている。なんかこの迷宮に来てからちょっと黒いわよ。
まあ知り合いが下手な芝居をしていればちょっと笑いたくなってしまうのもわからなくはないが自分がやられると腹が立つものだ。
エカテリーナにわからないように軽く気弾をシンの足元に向かって指を弾いて飛ばす。ぱらっと地面が多少削れる音がしたがエカテリーナは気にしなかったようだ。シンの笑みが消えたことに満足し歩を進めることにした。主人のおいたを諌めるのもメイドの仕事だ。
エカテリーナのレベルを上げた方が良いかと思ったが、MP切れで倒れられた場合に対処に困ってしまうので1時間に1回程度、MPが自然回復するくらいのペースで戦ってもらうことにした。それ以外は私の気弾で接近前に倒していく。ゴーストという物理攻撃無効の魔物も出てきたが気弾は普通に攻撃出来たのでそこまで進行に変化は無かった。
そして現在は地下33階層、時刻は19時。半日かけて2階層と少し降りた計算だ。そろそろ今日の探索を終えて休憩した方が良い。シンと私は迷宮慣れしているのでそれほどでもないがエカテリーナの消耗が激しい。昨日までは迷宮とは言っても仲間と先生に囲まれ、護衛の冒険者と一緒に、調べが済んだ場所を探索していたのだ。今はそのほとんどが無い。肉体的な疲労だけでなく精神的な疲労がエカテリーナを蝕んでいた。
安全部屋ではないので料理するわけにはいかなかったがシンが『オーブン』を使ってパンだけでもすぐに柔らかくできるので幾分かましだ。あっ、そういえばシャロたちはどうしているんだろう。スタウト先生も料理出来無さそうよね。まあ、気にしても仕方がないか。
それにしてもやはり未踏の階層を探索するのは時間がかかる。迷わないように地図を作りながら探索しなければならないし、罠に対する警戒も気を抜けない。そこまで魔物が強くないことが救いだがその分匂いがひどい。この33階層もかなりの範囲を探索しているはずだがまだ階段は見つからない。進行の予測が立てにくいのが問題よねと考えながら食事を食べ終え、今日は早めに眠ることに決めた。一応見張りも立てることにしたのだが・・・。
「エカテリーナは見張り無しね。」
「んっ。」
「いえ、そういう訳には!」
シンとこっそり決めていた通りに伝えると、予想通りの反応が返ってきた。責任感が強
すぎるのも考え物だな~。
「先は長いですから。今無理して後で迷惑をかけたら意味が無いですよね。僕もハクも慣れてますから、本当に先輩の力が必要になった時のために今は休んでください。」
「そう。」
「・・・わかったわ。ありがとう、2人とも。」
なんとかエカテリーナを説得し、テントに入って休む。今日は先にシンが見張りだ。テントに入って横になるとやはり疲れていたのかエカテリーナはすぐに眠りについた。その静かな寝息を聞きながら私も目を閉じた。こうして捜索1日目の夜は更けていった。




