白狐様、3回目のボス戦
シンをはじめとしたSクラスの5人が真剣な表情で私の手を見つめている。そして一斉に手を伸ばす。
「せーので行くよ。せーの!!」
皆が私がつかんでいた棒を引っ張る。
「うわっ、また外れでござる。」
「よかったよ。やっと戦える。」
「僕は1回休みだね。」
「運が悪いわね、カナタ。」
「じゃあ行きましょ~。」
現在、迷宮探索開始から13日目。最下層のボスに挑むのも3回目だ。ボスの強さはわかっているので5人で戦っては過剰戦力になるということで3人に絞って戦うように決めたのだが全員が戦いたいという希望だったので木の棒に傷をつけて、くじを作り引くことにしたのだ。
その結果、1回目、2回目は両方ともシン、シャロ、リーゼの3人で、今回初めてシンの代わりにミスミが入ることになった。これで戦っていないのはカナタだけだ。
「うぅ。これはハクに勝負してもらうしかないでござる。」
「やだ。」
「ハクが冷たいでござる。」
よよよと私の方にカナタが寄りかかってきたがすっと避けて拒否する。というかそもそも1人でも倒せそうなボスを3人にしているのに3回連続で外れるカナタの運が悪すぎるのだ。私の知ったことではない。
そんなちょっとやさぐれているカナタとは対照的にミスミはとてもやる気だ。ストレッチをして体をほぐした後、アイテムボックスから大盾を取り出す。準備は万端のようだ。
「じゃあ行こうかね。」
「は~い。」
「さっさと終わらせましょう。」
ミスミを先頭に私たち13人は最下層のボス部屋へと突入した。そこにはいつも通りのボストロールがこん棒を構えてよだれを垂らしながら待ち構えていた。
「じゃあ、行くよ。」
ミスミを先頭にシャロとリーゼが続く。それに反応したボストロールがこん棒を振りかぶりながらどたどたと走ってくる。そしてこん棒が振り下ろされる。
こん棒はミスミの盾が前に出されたことで力が十分には乗っておらず、簡単に受け流された。まあボストロールだから力が乗っていないと言っても普通なら吹き飛ばされるはずなんだけれどね。
「軽いねえ。どっかの誰かさんの拳の方がよっぽど重かったよ。」
ヘー、ダレダロウネ。
皆の視線がこちらを向いたような気がするが私は知らないな。そういえばボストロールから初めて打撃を食らったのよね。1回目も2回目もボストロールが近づく前に3人の魔法で殲滅されるというなんとも可哀そうな感じだったし。まあミスミもわざと受けたみたいだけれど。
打点をずらされて体が泳いでいるボストロールにそのままミスミがシールドバッシュを行い、ボストロールの頭が揺らされ千鳥足になっている。そこにミスミの後ろから出てきたリーゼがモーニングスターを振りかぶって顔面に叩きつける。うわっ、これはひどい。顔面に穴が開いている。
それにしてもリーゼは今回は接近戦なのね。まあいろいろな戦い方を試しているんだろう。シャロは時々魔法で援護する感じであまり積極的に戦ってはいない。シャロが本気で魔法を使ったらすぐに終わっちゃうしね。
「うわっ、ひどいね。」
「さすがアンと同じSクラスというところか。」
「2人ともそんな言い方をしてはアンが可哀そうよ。」
「いやっ、あいつも同類だろ。」
Sクラス以外の4人、まあ具体的に言えば罠学クラスの4人がリーゼの所業を見て感想を漏らす。とりあえずスタウト先生は帰ってからお仕置きだ。先生が1番嫌がる質問攻めにしてあげよう。
今ここには私たちのグループの他に罠学の4人、そしてその護衛の3人の冒険者たちがいる。昨日24階の安全部屋で会い、先輩3人がボスを見てみたいと言う事で一緒に来ることになったのだ。まあ最後までスタウト先生は嫌だと抵抗していたけれど。
「くじで3人を決めると聞いたときには何を考えているんだと思ったけど、これなら納得だね。」
「そうね。悔しいけれど私たちでは彼女たちの相手にもならないわ。これだけの才能・・・シャーロット殿下がもう少し穏便に動いてくれればどんなに良かったことか。」
「お疲れだな、生徒会長。」
「ええ、本当に。」
エカテリーナ先輩が疲れたような声を出す。罠学の教室にいる先輩は以前のピンッと張りつめた感じではなく、ちょっと柔らかい自然な感じのような気がする。他の2人の先輩とも仲良く話しているし、なんというか3人の中で連帯感があるのだ。私に倒された者同士だからって言うわけじゃないよね!?
まあそんな私の心の中のもやもやとは関係なく目の前ではミスミがボストロールの体勢を崩してリーゼが攻撃を続けている。時間がかかっているのはボストロール自身の打撃への耐久力が高いこととリーゼの攻撃力がそこまで高くないせいだろう。光景的にはひどいものだけれど。
まあパターンに入っているし、このままでもいいんだけれどちょっと問題が。カナタがうずうずし出しているのだ。1番戦いたかった人間が戦えていないんだもんね。しかもくじ引きで決めようとカナタ自身で言いだした手前これまで我慢していたんだろうけれどそろそろ無理そうね。
「あっ。」
シンのちょっと驚いた声が聞こえる。その声が示す通りカナタが刀に手をかけながらボストロールへ向かって走り始めていた。シャロを追い越し、リーゼの横を抜ける。そこでミスミが気付いた。
「ちょっとカナタ。あんたの番じゃないだろ。」
「うう。後生でござる。せめて一刀だけでも。」
「あんたが攻撃したら一刀で終わるだろうが!」
ミスミの突っ込みもむなしくカナタが鞘から刀を抜きざまにボストロールの右腰から左肩にかけて一閃する。綺麗に斬り裂かれたボストロールは斬られた姿勢のまま仰向けに倒れていった。ボストロールの倒れるドンッと言う音が部屋に響く。
「あんたねぇ、自分で言いだしたんだから順番くらい守りなよ。」
「ずるいでござる。なんで半分以上は当たるはずなのに3回連続で外れるでござるか!」
「カナタの運がわるいのね~。」
「カナタ、あなた次のくじは権利なしよ。」
「そんな~、殺生でござる。」
4人が和やかに会話している。そちらに近づいて行こうとしてはたと気づく。ボスを倒した時に起こるドーンという音と振動が無い。もしかしてまだ生きている!?いや、完全にこと切れている。じゃあいったい何が・・・。
その時4人のいる地面に光の魔方陣が現れる。なんだアレは。今まで見たことが無い。
シャロたちも戸惑っているようだった。
「くそっ!!」
そんな中で唯一動いたのがスタウト先生だった。4人を包むように広がっていく光に向かって走っていく。光が一層強く光り、目を覆わなくてはいけないような閃光を放った後、そこにはシャロたちもスタウト先生も誰もいなかった。




