メイド様、専門授業を決める
机と椅子だけが四角を描くように並べられた会議室に22名の男女が集まっていた。その服装は様々できっちりとしたネクタイを締めている者もいればジャージのままの男もいる。まあスライムを頭に乗せている者以上に奇抜な格好の者はいなかったが。
「まずは武闘系からの総評ですね。」
「ああ、全体的に今年は質が高いな。まあ殿下が入園されるからそれに合わせて各家が訓練したんだろうが。」
「とはいってもやはりSクラスの2人。ミスミとカナタでしたかな。あの2人が現状は突出しておりますな。我が国出身者がいないのが残念ですがな。」
「順位は想定外でしたね。まさかBとCクラスが途中で退場するとは。私的には波乱が起きて満足ですが。」
「おいおい、生徒に面白さを求めるなよ。」
ざっくばらんに意見が出されていく。その意見をガンドールが目をつぶりながら聞いている。しばらく各クラスの生徒について話された後、落ち着いたのを見て理事長の隣で司会をしていた中年の女性が手をたたく。
「それでは次は生産系の総評です。」
「そうだな。今年は鍛冶と調薬に偏っているな。」
「そうね。料理に関しては才能のある子は少なさそう。残念だわ。」
「いいじゃないか、料理は2年に天才がいるだろ。いや天災か?」
「あの子と一緒に料理すると他の子のモチベーションが下がって仕方がないのよ。才能の差を感じてしまうみたいね。」
「それは仕方がないな。順位は例年とほぼ同じでクラス順だな。違うのはBクラスとCクラスが逆になったくらいか。」
「そうだわね。Sクラスが強いわ。エブリン、イフルゼーア、メーブルの3人ね。入園時よりも明らかに良いものを作るようになっている。殿下は何をしたのかしら。」
「さあな、あまり過度の接触は禁止されているからな。わからん。」
「どうでもいい。職人はいい作品を作れればそれでいいのだ。」
「あなたはまたそんなことを言って。だからあなたの授業は人気がないのよ。」
しばらくは生産系の教師たちの授業内容について盛り上がり、横道がそれてしまっていったが、司会の女性の拍手で会議室内は静かになる。
「そこまで、時間もありますし次は魔法系の総評です。」
「ああ、ここは段違いだったな。」
「仕方がありません。殿下に聖女、それに複数の魔法を使えるシンリーという3人でしたから。」
「威力も操作も精密性も他の生徒とは比べ物にならなかったからのう。」
杖を持ったひげの男性がため息をつく。それを契機に誰も話さなくなってしまった。意見が出なくなってしまったその空気を拍手が破る。
「順位はクラス順でしたね。意見があまり出ないようですので最後のその他に行きましょう。」
「ああ、まあここだけか。Sクラスが2位になったのは。僅差とはいえAクラスに負けたんだよな。」
「そうですね。課題を一つ落としたのが大きいです。私の所に来たときは早くてビックリしたんですが。アンジェラでしたっけ。あの子が課題を落とすとは思えなかったんですが。」
「ああ、俺もすぐに見つかったしな。」
「まあ運が悪そうだったし、何かあったんじゃねえの。まあ俺にとってはどうでもいいけど。」
「あんたはもうちょっとやる気を出しなさい!」
「へいへい。」
「随伴の職員からの報告は?」
「報告には禁止事項をしなかったかの項目しかないからな。まあアンジェラの場合、他のSクラスの面々と違って、他クラスを妨害したってこともマイナスになったしな。」
「ああー、そういえばこの子がBとCクラスの武闘系を退場させたのよね。」
「やはり殿下が選んだだけのことはあるってことだな。」
再び話題がそれて、殿下の話に及びそうになったところを司会の女性の拍手がそれを再び遮る。
「それでは最終順位の確認です。1位Sクラス、2位Aクラス、3位Dクラス、4位Bクラス、5位Cクラス、6位Eクラス、7位Fクラス、8位Gクラス。異議はありませんか。」
「「「異議なし。」」」
その会議室にいた全員が同意した。そこで初めてガンドールが目を開けた。
「殿下と同じ時期だけあって今年は才能の宝庫じゃ。この宝を腐らせるのもさらに輝かせるのもお主ら次第。任せたぞ。」
「「「はい。」」」
会議室にいた全ての教師がやる気に満ちた顔でガンドールに対して返事をする。ただ一人を除いて。
(ふぁ~、みんな熱心なことで。まっ、どうせ俺の講義に生徒はこねぇし別にいいか。)
第二体育館の課題の監督官、そして罠学講師のやる気のないその男、スタウトはあくびを噛み殺しながら自分の教室へと戻っていくのだった。会議が延びて昼ごはんを食べそびれそうだがまあ生徒などいないだろうし教室で食べればいいかと考えながら。
「ってなんでお前がここにいるんだよ!」
今日の正午、掲示板に無事にオリエンテーリングでSクラスが1位になったことが貼り出された。個別の順位はわからないが皆が頑張ってくれたおかげだ。私の失敗で負けたりしないで本当に良かった。掲示板には他にも生徒が作成した学校新聞が張り出されており、今回は生徒会のメンバーの特集らしい。順位を見に来た生徒がその記事を見つけてキャーキャーとはしゃいでいた。相変わらずの人気ね。
そして初めて午後の選択授業に来たのだが、男性教諭が入ってきた瞬間に私を見ていきなり叫び始めたのだ。あれっ、教室を間違えたわけじゃないわよね。
「ここは罠学の教室では?」
「ああ、そうだが。ってお前、俺の講義を受けに来たのか?」
教室は間違っていなかったらしい。それにしてもお前、お前って失礼な先生だ。あれっ、良く見たら課題の時にいたやる気の無さそうな職員の人だ。それにしてももう授業が始まる時間なのに他の生徒が1人もいないんだけど。
この学園では午前がクラス共通の教養等の授業で、午後は自分が受けたい専門科目を選ぶことが出来る。とは言っても午前の教養の授業は担当教諭の合格がもらえれば授業へ出席しなくても良くなる。ちなみにシャロ、シン、ゼーア、私の4人は既に教養の授業に関しては全教科出る必要は無い。
シャロとシンは魔法の訓練を一緒にしているようだし、ゼーアは調薬関係の研究をしているらしい。私は他のクラスの見学が一通り終わってからは図書館で借りてきた本を教室で読んでいる。読むべき本はたくさんあるし、先生だけではエブリンたちをフォローし切れないときがあるからだ。なんとなく孤児院を思い出して懐かしい。
午後の選択授業は基本的にどこを選んでもいいし、逆にどこも選ばずに自分だけで研究してもいい。「知こそ全て」の言葉通り卒業するまでに学園を納得させられるような研究や成果を出せばいいのだ。まあほとんどの生徒はどこかの教室に入っているが。この午後の専門教室は1年から3年まで合同で行われ、その教室ごとに独特の授業をしているそうだ。
私はといえばその時間を使ってこの学園内のチェック、ハクとして冒険者の活動などなかなかに忙しかったのだが、それも一段落したのでこうしてこれから必要だと思われる罠学の教室に来たのだが、肝心の教師がなぜか口を開けたまま固まっているのでどうしたものやら。
「そうですよ。それにしても人がいませんね。今日はお休みでしたか?」
専門教室では休みの日を決めている所もあるとは聞いていた。運悪くそれに当たっちゃったかな?そう考えていると先生の目に光が戻ってくる。そしておもむろに持っていた何かを机に置くと面倒くさそうに頭をかき始めた。
「違う、お前1人だ。」
「はい?」
言っていることが理解できない。うん、確かに今教室には私1人しかいない。でも休みじゃないって言うことはもしかして・・・。
「今この学校で俺の罠学の生徒はお前だけだ。くそ~、俺の自由時間が~。」
「えっ、本当ですか?」
私の質問に答えず先生は机に置いた白い包みを破りだしその中身をおもむろに口に入れ始めた。って食事してんじゃないわよ!!
「ちょっと真面目に答えてください!!」
「うわぁ~、お前って俺の苦手なタイプだ。むぐっ。そうだ、お前、騎士学とか魔法学とかに行けよ。あっちでもむぐっ。基本的な罠とかは教えてくれるはずだぞ。」
先生がさも名案を思いついたとでも言うように食事を取りながら別の教室を案内してくる。なんかここまで馬鹿にされると意地でも受けてやりたくなるわね。
「お断りします。私は罠学が受けたいですから。それと私の名前はアンジェラです。お前じゃありません。」
「そんなこと言ったって、お前・・・」
「アンジェラです。」
「オーケー、アンジェラ。落ち着こう。とりあえずその手に持っている分厚い本を置いてくれ。」
両手を挙げながら先生が告げる。厚さが20センチを超えているこの本は「エルフ語大全」と言う翻訳書だ。貴重な物だからそんなことに使うわけ無いでしょ。ただちょっと突発的に読んでみたくなっただけなのに。
「わかったよ。とりあえず自己紹介だ。罠学教師、スタウトだ。何とでも呼んでくれ。」
「わかりました。アンジェラです。アンと呼んでください。これからよろしくお願いします。スタウト先生。」
先生が右手を差し出してきたので、そのまま握手する。まあため息をついているが気にしないでおこう。
こうして私の専門授業が決まった。
とりあえず第二章終わりです。
いつも通り閑話をはさんで新章に入ります。
読んでくださりありがとうございます。
2/25 修正 オリエンテーション→オリエンテーリング




