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お仕事ですよ、メイド様!!  作者: ジルコ
第二章:私、学園に行きます
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メイド様、オリエンテーリングに参加する(3)

 12時までまだ時間がある。12時のチェックポイントは学舎の中だからそこまで遠くは無いし、ちょうどいいところにチェックポイントがもう一か所ある。後一時間はあるからとりあえず見るだけ見てみようか。


 【隠密】を使いながらチェックポイントの第二体育館に入る。第二体育館は50メートル四方の大きさで第一体育館の4分の1程度の大きさだ。まあそれでも十分大きいような気がする。ここが主に使われるのは、体術の投げ技などの訓練をする時だ。この体育館の床全体が衝撃をある程度吸収するような柔らかい素材になっているからだ。


 体育館の中では数人の生徒たちが飛び回るボールを追って走り回っていた。あれはたしかDクラスの生徒のはずだ。一応メイド兼護衛のたしなみとして1年生に関しては、すべての生徒の名前と顔が一致するようにしている。まあ顔を見るために廊下を歩いたり、外の授業の時に見学したりした時に睨みつけられたり、ちょっかいをかけられそうになったりいろいろあったが気にしたら負けだ。


 入り口からしばらく歩いていくと前と同じような看板があった。そしてその看板の前には腕輪のようなものが7つ置いてある。


「えーと、なになに・・・この腕輪をはめて順番通りにボールに触れていくこと。間違った順番で触れた場合は始めからやり直しになります。ああ、それでみんなで追いかけているのか。」


 確かに課題を受けられるのは地図を持って腕輪をはめている1人だけだが、他の生徒がボールを捕まえて持って行って触れさせてもルール上問題は無い。チームプレイというやつだ。まあ1人の私には全く関係ないが。

 その看板の向こう側で男性職員が椅子に座っており、眠そうな目をしたまま私に向かって手をひらひらと振っている。一応応援してくれたのかな?はてしなくやる気が無さそうだが。順番通りに触れることが出来たらあそこに腕輪を持って行けばいいんだろう。


 腕輪をはめて改めて体育館を見回す。ボールには数字が書かれていて触れる順番がわかりやすくなっている。ここは頭と言うよりは身体能力と判断能力などを見る課題かな?

 ボールの動きは様々だ。床をゴロゴロと転がっている物、不規則に飛び跳ねている物、近づくと逃げようとするもの、逆にぶつかってくる物、静止している物など合計9つの大小さまざまなボールに翻弄されるDクラスの生徒たちの姿があった。


「くそ、また8が来たぞ!!」

「守れ、また始めからになるぞ。」

「無理よ、私は戦闘系じゃないのよ。あんなに早いの・・・」

「ああー!」


 腕輪をはめている生徒に真っ黒な8と書いてあるボールがぶつかり、それを見たDクラスの生徒たちが落胆している。話しぶりからするに今まで何度もあの8番ボールにやられているみたいだ。確かにあのボールだけは明確な意思を持って腕輪をはめた生徒を狙っているし、しかも速い。私もだいぶ油断していたら当たるかもしれない。うん、ここまで余裕をかまして当たったら恰好悪いわね。

 それぞれの動きを確認しているとボールが一か所に集まり始めた。8を除いた1から9までのボールが固まるように集まる。絶好のチャンスに見えるがDクラスの面々は近づこうとしない。


「くるぞ!!」

「え~、また~。もうやだ~。」

「そんなこと言う前に早く後ろに隠れろ!」


 固まったボールに向かって8番ボールがぶつかっていき、他のボールが跳ね飛ばされ、さまざまな方向へと飛んでいく。運悪く生徒に向かって飛んできた2番ボールをがたいの良い男子生徒が防ぐ。しかしその顔は苦痛に歪んでいた。


「ぐうっ!」

「大丈夫か!!」

「ああ、何とかな。でも一時撤退だ。武闘系に行った何人かを連れて来よう。このままじゃあ無理だ。」

「え~。せっかくここまで頑張ったのに~。」

「まあそうだがな・・・」


 がたいのいいその男子生徒がちらっとこちらを見る。


「これ以上、敵に情報を渡すのもまずいしな。」


 その言葉に他のDクラスのメンバーがバッっとこちらを見る。あっ、さすがに気づかれたみたいだ。ただ見られているのも居心地が悪いのでスカートを摘まんで一礼(カーテシー)しておく。あれっ、視線がきつくなった様な気がするけど・・・うん、気のせいだと思っておこう。

 Dクラスの生徒が体育館を後にしていく。最後にがたいのいい男子生徒と一瞬視線が合った。確か名前はダインだったわね。大丈夫だとは思うけれど、要注意人物としてあとでシンに報告しておこう。




 Dクラスの面々が居なくなってがらんとした体育館の中でボールを追っていく。

 1、2、3、4。触るごとに腕輪の宝石が1つずつ光っていく。


「よっと。」


 4番ボールまで触って5番へ向かおうと思った途端、今までは適当に飛び回っていた8番ボールが私を狙って飛んでくるようになった。確かに速い。でも避けられないほどではないし、その速さのせいで細かいコントロールは出来ていなさそうだ。軌道を見ながら余裕を持ってかわしていく。


「5っと。」


 不規則に飛び跳ねる5番ボールを捕まえた私の横を8番ボールが通り過ぎていく。よし、次は6番ねって・・・。


「何で!?」


 私の腕輪の光はすべて消えていた。





「うーん、やっぱりダメね。」


 その後2度ほど4番まで触った後、8番ボールを避けつつ5番を触ったのだがそのたびに腕輪の光が消えてしまう。5番ボールを触るときに確かに8番ボールは付近を通っていくが触ったわけではないからリセットされるのはおかしいはずだ。

 万が一にもかすらないようにかなりの距離を8番からとった今回でさえダメだったのだからここから考えられる可能性は多くない。

 跳ねまわるボールたちを見ながら考えているとボールが一か所に集まり始めた。前回から10分か。時間かそれとも他の要因かわからないがDクラスの生徒がまた(・・)と言っていたので何かしらの法則がありそうね。

 8番ボールがぶつかり、ボールが散乱していく。幸いにもこちらに向かってくるボールは無さそうだ。ってあれ?


「番号が変わっている?」


 前回の時は8番ボールの動きに気を取られて気が付かなかったが6、7、9のボールの番号が変わっている。赤が6、青が7、白が9だったのに今は7、9、6の順番になっているのだ。ああ、やっぱりそういうことか。


「と言うことはパターン的には何通りあるのかしら。5番目は少なくとも5か8じゃないから3×4×3×2×1でいいとして72通りね。正解が腕輪ですぐにわかるから実質試すのは最悪12回、まあ時間は間に合いそうね。」


 ボールを追うことを再開する。自分の仮説が正しいことを信じて。





「よお、お疲れ。気づいてから8回も間違えるなんて、なかなか運が悪いな。」

「悪運は強いんですけれどね。」


 9つの宝石全てが光っている腕輪を職員に見せると地図にスタンプを押してくれた。しかし運が悪いとは余計なお世話だ。こういう時に運を使わないで貯めていると言ってほしい。


「しかしなかなか意地の悪い課題ですね。」

「ヒントはたくさんあるだろ。」


 そういうとその職員はひらひらと手を振って、はやくどっかへ行けとばかりに目を閉じてしまった。やっぱりこの人やる気がない。

 次のチェックポイントまであと30分以上時間がある。まあゆっくり行っても十分に間に合うだろう。


 跳ねているボールたちを見る。確かにヒントはあった。なぜか5番目を触ろうとすると襲ってくる8番ボール。10分ごとに集合しては弾き飛ばされ、その時に紛れて番号が変わる6,7,9番ボール。そして何より看板に書いてある順番通り(・・・・)という言葉。これらすべてが正解へと導くヒントだったんだろう。

 普通に考えればあれだけ明確にボールに数字が書いてあり、1から4番までは正しいから数字の順番だと思ってしまう。さながらこの課題は隠れたヒントから正解を導き出す解析力を試す課題と言ったところかな。


 じゃあそろそろ行こう。

 ターン、ターンと言うボールの跳ねる音を聞きながら第二体育館を後にするのだった。

2/25 修正 オリエンテーション→オリエンテーリング

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人外転生の別作品です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「大地転生 ~とりあえず動けないんだが誰か助けてくれ~」
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