メイド様、オリエンテーリングに参加する
校庭に今年入園した学生がクラスごとに並んでいるが、初の全体での行事と言う事で仲間内で話したり、他のクラスの人を興味深げに見ていたりしてざわざわしている。私たちSクラスに対抗意識をむき出しにしている者もいるが、シャロがいるためほとんどの者は表面上、何事もないような顔をしている。まあこちらを意識していることは感じるので何かしら思うところはあるのだろう。
シャロとしては対抗心をむき出しにして欲しいんだろうけど、やっぱり本人が望んだと言ってもそれをあらわにするのは難しいよね。王族だし。そのことにシャロ自身も気づいているのか、難しそうな顔をして悩んでいるみたいだ。
私はと言えばシンに話しかけたそうにしている男子の視線を塞ぐような立ち位置で、その視線に対してキッとにらみ返している。私の視線を受けて目をそらす人はまだいいが、私を憎々しげににらみ返すのは止めて欲しい。ほらっ、私はメイドとして当然の行為をしているだけだし。というかあなたが声をかけようとしているのは男の子ですよー。
地味に心にダメージを受けながら待っていると、理事長が歩いてきて朝礼台の上に昇る。今日も頭の上でプルプルと赤いスライムが揺れている。あれっ、入園式の時は青いスライムだったはず。複数飼っているって言う事!?
周りを見るとあまり驚いている人がいない。スライムの色まで覚えていないのか、それとも私たちが迷宮に行っている1か月の間に慣れてしまったのかどっちだろう?
「1年生の諸君、入園して1か月が経ったがよく学んでおるかね?本日は天候にも恵まれ・・」
おっといけない。またスライムに気を取られて話の内容が頭に入って来なくなるところだった。迷宮のトラップより強力だわ。
「・・・一日使って、学園内を巡るオリエンテーリングを行うのじゃ。コースは4つ。それぞれに特徴があるから自分に合ったコースを巡ると良い。各コースのクリアタイム、その場所で出される課題の結果を総合してクラス単位で順位を決める。まあクラス対抗戦じゃな。結果は後程、掲示板にて発表するから楽しみにするがよい。」
「理事長、ありがとうございました。続いてはオリエンテーリングの詳しい内容の説明に移ります。」
理事長がスライムをプルプルさせながら朝礼台から降りていく。うん、どうしてもそっちに目がいっちゃうけれど今は説明に集中しないと。
理事長の代わりに運動着姿の男性教諭が朝礼台の上に昇り説明を始める。
「オリエンテーリングのコースは4つ。それぞれ武闘系、生産系、魔法系、その他というコースだ。今からそれぞれ巡ってもらうポイントを書いた地図を渡すから各クラスの代表者は来てくれ。」
各クラスから代表者が受け取りに行き、Sクラスは、まあ私がメイドなので代表して受け取りに行く。なぜメイドが代表者なんだ、王女じゃないのかという視線を受けたような気もするが無視、無視。地図4枚と懐中時計4つを受け取り、皆の所へ戻った。さっそく地図を見ながらがやがやしているクラスもあるが、話はまだ終わっていない。それまで待てばいいのに。
「各ポイントを巡る順番は各自の判断で構わない。ただし、いくつかのポイントは時間が指定してあるのでその時間までに集まっていない場合はそのポイントの課題は最低評価になるので注意するように。各コース何人で巡っても構わないが基本的にはその地図を持っている者しか課題を受けることは出来ない。あとは、そうだな、クラス対抗であるから他のクラスの邪魔をするなとは言わない。ルールとしてはこんなところだ。第一学園の生徒らしく全力を尽くしてくれ。試験は今から15分後、午前10時より始める。」
男性教諭による説明が終わり、各クラスごとに輪になって誰がどのコースを巡るのか相談する話し声で校庭が騒がしくなる。男性教諭が説明したことを再度考えていると、シンに集まるように言われた。
「『サイレンス』」
全員を包むようにシンが魔法を唱える。周りの声が聞こえなくなったことを確認し、輪になった中央に地図を置くと、シャロが話し始める。
「邪魔をするなとは言わない、ね。面白い言い方ね。とりあえずはコースごとのメンバーを決めましょう。ほとんど決まっているようなものだけれどね。まず武闘系のコースはミスミとカナタ。」
「おう。」
「任せるでござる。」
教養の授業での死にそうな顔が嘘のように生き生きとした顔で返事をする。まあ武闘系ならこの2人に任せておけば大丈夫だろう。頭を使う問題があるとちょっと不安だけれど。
「次に生産系はエブリン、ゼーア、メーブル。」
「了解や。」
「わかった。」
「が、頑張ります。」
生産系でたいていの事ならこの3人で何とかなるだろう。心配なのは他のクラスからの妨害だが、もう3人とも20レベルを超えているし、迷宮の経験もあるからなんとかなるでしょ。まあ見た目がとても子供っぽいと言うのが他のクラスの油断を誘ってくれるかもしれない。
「次の魔法とその他がネックなのよね。シンリー、私、リーゼの3人で魔法を対応したいところだけれど、そうするとアン1人でその他のコースを巡ることになってしまうし。」
シャロが顎に手を当てながら考えを巡らせている。シンと目で合図をし、意思を疎通する。よし!
「私は1人で大丈夫だよ。」
「そうだね。アンなら大抵の事は1人で何とかなるだろうし。その他って言うのが何を主としているかわからないから不安は残るけど。」
シャロが決断を下す前に自分から立候補する。もし2人と2人に分けるのであれば私とシンが組まされるはずだ。生徒がばらばらに動いて、しかも邪魔が一応許可されている今回のイベントでは、どちらかはシャロの護衛についていたい。
「・・・そうね、このクラスで魔法を除けば一番バランスが取れているのはアンだしね。ここで悩んでいても時間の無駄だもの。わかったわ。その他のコースはアンに任せるわ。」
「はい、お任せください。」
ちょっと気取った感じで一礼し、雰囲気を和ませる。何があるかわからないが主人の期待に応えるのがメイドとしての務め。皆の期待に応える働きをしてやろうじゃないの。
「全体の注意点としては他クラスの妨害はしないことね。まあ私たちの場合、人数が少ないから無理だけどね。他のクラスからの妨害は基本的に無視でいいわ。特にミスミとカナタは挑発に乗らないように。」
「なぜあたしたちだけに言う。」
「大丈夫でござるよ。一瞬で倒せば済む話でござる。」
カナタが自分の腰に刺さっている木刀を触りながら口を三日月のようににんまりと開けて微笑む。絶対にこれは邪魔が入るのを楽しむつもりよね。それを見てシャロが深いため息をつく。
「貴方たち2人の場合、戦っている最中に目的を見失いそうで怖いのよ。クラス対抗だと言う事を忘れないでよ。」
「へいへい、わかってるよ。」
「残念でござる。」
明らかにがっくりとしてテンションが落ちる2人。そんなに戦いたかったのか。それを見てかどうかはわからないがシャロが付け加える。
「課題には全力出していいから。おそらく時間の決まっている課題は生徒同士の戦闘もあるはずよ。そこなら各クラスの一番強い生徒が出てくるだろうからそこで我慢しなさい。」
その言葉に息を吹き返した2人がじゃんけんをしだす。どちらが先に戦うのかの勝負だ。もうこの2人は放置しておこう。それは他のほぼ全員の共通の認識だったようで残りの7人で集まる。リーゼがちょっと2人に混ざりたさそうにしているけれど、シャロに引っ張られてこちらに来る。
「こっちの皆は大丈夫だと思うけれど、くれぐれも第一学園の生徒らしく受けることを忘れないでね。ゼーア、そっちは任せるわよ。」
「わかった。」
「アンもいいわね。」
「はい。」
各チームに分かれ、地図を見て順路を決めていく。そして15分が経過し
「それではオリエンテーリングを始める!!」
その宣言によりオリエンテーリングが始まった。
2/25 修正 オリエンテーション→オリエンテーリング




