メイド様、生産系の戦い方を知る
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迷宮の入り口の周りでは壁を作る工事をしている最中だった。迷宮に入ろうとしたら兵士に止められそうになったがギルドカードを見せて無事に入ることが出来た。兵士は驚いた顔をしていたがまあ今更気にしないでおこう。
「ギルドで確認したところでは最初の頃に注意すべきはフィールドウルフくらいだね。」
シンがエブリンたちに教えているが、まあこの迷宮は私たちの方がギルドよりも絶対に情報量が多いはずだ。5層までに出てくる魔物はフィールドウルフ、ブルースライム、ロックバット、グリーンクロウラーだ。この中で素早さが高く攻撃力も高いのはフィールドウルフしかいない。ブルースライムは普通のスライムの例にもれず動きがゆっくりだし、ロックバットは岩のような皮膚をした蝙蝠の魔物で比較的固いが一撃の威力は弱く、毒などもない。空中から襲ってくるのでちょっと倒しにくいのが難点だ。グリーンクロウラーは体長30センチほどのイモムシで動きを邪魔する糸にさえ気を付ければ大丈夫だ。一番怖いのはこの糸で動きが制限されているときにフィールドウルフに襲われることかな。
「そうですわね。とりあえずアンは盾役をお願い。少しずつ戦闘に慣れてもらったら、低階層ではまずメーブルのレベルを上げましょう。」
「わかったわ。」
「す、すみません。」
私に謝ってくるメーブルに気にしないでと答えながら気配察知で魔物の気配を探っていく。うーん、1階層は冒険者も多いしそんなにいなさそうね。
「シャロ、シンリー。この辺りにはあまりいないようだから2階層への階段に進みつつ随時戦っていく感じでいい?」
「いいんじゃない。」
「そうね、そうしましょう。」
私を先頭に、シャロ、エブリン、メーブル、ゼーア、シンと並んで警戒しながら進んでいく。もう探索しているので罠が無いことはわかっているのだが、無警戒に進むのはあまりに不自然だし軽く警戒するくらいでいいだろう。
それにしても生産系の3人の言葉数が少ない。こんな最初から緊張しているようでは長期間の探索は無理のはず。ちょっと話題を変えようかな。ゲストに楽しい時間を過ごしてもらうように考えるのもメイドの仕事だし。まあ迷宮で楽しいとかはおかしいかもしれないけど。
「そういえば寮の部屋がいきなり引っ越されていたのは驚いたわよ。」
「そうだね、部屋に帰ったら何もなくて紙に新しい部屋の場所だけ書いてあったからね。」
「そやそや、しかもその場所に行ってみたら、なんや新しい建物がどーんと建っとるしな。」
「荷物、完璧。」
「そ、そうだね。ぼくが整頓したとおりに整っていて驚いた。」
「ふふっ、すごかったでしょ。」
話題を身近な話にすると誰からともなく話し始めて、ちょっとだけだが緊張も薄らいでいるような気がする。まあ、Sクラス専用の屋敷が建てられて全員分の引っ越しがいつの間にやら終わっているとは思わなかった。下手なものを部屋に置いておかなくて良かったと胸をなでおろしてものだ。
「そういえばメーブルは大丈夫?メーブル以外は女の子ばっかりになっちゃうけど。」
シンの言葉でそういえばと思い出す。どうしてもメーブルが男の子だということを忘れてしまいがちだが女の子ばっかりの中は嫌かもしれない。というか男の子と一緒でシャロは別にいいの?
「ぼ、ぼくはお姉ちゃんがいっぱいいたから特には気にならないかな。」
「何人?」
「えっと、ぼくが末っ子でお姉ちゃんが5人。」
「お父様かお母さまが男の子が欲しかったのかしらね。」
「なんや、メーブル、家でもこっちでもハーレム状態やな。」
「ふ、ふえぇ。」
「僕はメーブルもハーレムの一員な気がするけどね。」
皆がメーブルをいじっているのを微笑ましく見ていると、急速に近づいてくる魔物の気配がする。これはフィールドウルフだ。
「おしゃべりはそこまでかな。あそこの曲がり角の向こうからフィールドウルフがおそらく3体。どうする、私が足止めして止めを刺す感じにする?」
「いえ、まずはどの程度どんな風に戦うのか確認させてもらいましょう。低い階層のうちにその確認は必要だわ。」
シャロの言葉に3人が顔を見合わせる。おそらく3人とも迷宮で戦うことは初めてだろう。どのくらい自分の力が通じるのか不安に思っているだろうし、低い階層でお互いの戦い方を知るという意味ではシャロの判断は正しい。
「私がやる。」
ゼーアが短杖と小さな包みを取り出す。短杖を使うってことは何か魔法が使えるってことよね。それにしてもあの包みは何かしら?
「あと5秒で来るよ。近づいて来たらフォローするから安心して。」
「んっ、大丈夫。」
ゼーアは包みを開き、白い粉末を掌の上に置く。そしてフィールドウルフが角を曲がって現れた瞬間その粉末を空中にまく。
「『ブリーズ』」
詠唱を短縮して唱えられたのはそよ風を起こす初歩の風魔法だった。まかれた白い粉末がそよ風に吹かれ、空中に散乱する。フィールドウルフがその中を突っ切ってこようとして突如泡を吹いて倒れていった。
「ひっ!」
メーブルの小さな悲鳴が聞こえる。倒れたフィールドウルフはビクビクと体を痙攣させて、口から泡を吹いている。ゼーアがこちらを振り返りちょっと満足そうな顔をした。
「ゼーア、これは?」
シャロが恐る恐ると言った感じで声をかける。ゼーアはいつもよりちょっと口角の上がった自慢げな顔でシャロを見返した。
「毒薬。」
「つまり毒薬を風魔法で広げて倒したってこと?ゼーアは今までこの方法で魔物を倒してきたの?」
「そう。」
調薬士らしい倒し方ではあるとは思う。ただそれは調薬士としておそらく毒耐性などがあるゼーアだからこそ出来る戦い方だ。仲間がいる時には巻き込みかねない危険な方法だし、それに・・・。
「あの、ゼーア。この毒ってすぐに消えるの?」
「30分残る。あっ!」
ゼーアがしまったという顔をする。つまりこの通路は30分間は通れない。他の冒険者が巻き込まれるのを回避するためにここに留まらざるを得ない。地上では問題ないかもしれないが迷宮ではダメな戦い方だ。まあ初めて迷宮で戦うゼーアが気が付かなくても仕方がないかもしれないが。
「ほな、休憩しよか。」
「そうね、お茶の用意をするわ。でもその前に回収しちゃいましょ。」
「危ないわよ!!」
フィールドウルフが倒れているところへ行ってマジックバッグに収納する。迷宮に吸収されちゃうのももったいないしね。特に毒にかかることもなく戻って来る。【全異常耐性】の効果で問題はない。
「何で?」
ゼーアがちょっと不服そうな顔でこちらを見ている。自分の毒薬が効かなかったことが不満みたいだ。いや、調薬士としては正しい反応かもしれないけれどクラスメイトとしてはダメな反応じゃない?
「メイドはいついかなる時もご主人様を守らないといけないから、毒や痺れ、混乱などにならないように訓練されているのよ。」
「メイド、すごい。」
ゼーアが尊敬のまなざしで私を見る。そのまなざしを受けながら一応シンにクリーンをかけてもらってからお茶の用意を始める。
「ゼーアに変な常識を教えないでね、アン。普通のメイドはそんなことないから。」
シャロに突っ込まれたがお茶を用意することに専念する。シンのメイドとしてはそれが普通なはずだから嘘は言ってないからね。
「よっしゃあ、ほな次はうちが行くわ。」
幸いにも他の冒険者が通りかかることもなく毒の効果も無くなったところで先へ進んでいった。しばらくしてブルースライムがこちらにゆっくりと向かってくるのが見えた。どちらが行くか相談したところエブリンが立候補したのだ。
「何かして欲しいこととかある?」
「いや、スライムならうち1人で大丈夫や。安心して見とってやー。」
エブリンが腰のマジックバッグをごそごそ探ったかと思うと、その中からエブリンよりも大きい槌を取り出した。地面に置いた瞬間ドスッという重そうな音がしたけれど大丈夫なの?そう考えたのは私だけじゃなかったみたいだ。
「えっと、エブリン。それ大丈夫なのかしら?」
シャロが期待半分、心配半分と言った感じでエブリンに向かって尋ねる。エブリンはその巨大な槌を片手でひょいっと持つと器用に肩で担いでバランスをとっている。
「大丈夫やで。まあ速い敵は苦手やけど、この程度の槌は鍛冶で使うさかい問題あらへん。」
そういうとエブリンはとっとっととブルースライムへ向かって歩いていきその巨大な槌をブルースライムに向かって振り下ろした。ドゴォンという派手な音と共にブルースライムがべちゃっと潰れる。もはや生きてはいまい。
「なっ!!」
エブリンが満面の笑みでこちらを振り向いたがあまりのアンバランスさに皆が苦笑いをしていた。
「じゃ、じゃあぼくが最後だね。」
メーブルの前8メートルほどのところから、グリーンクロウラーが体をうぞうぞと動かしてこちらに向かってくる。糸は5メートルほど離れていれば届かないのでもう少しは安全だ。
メーブルがマジックバッグをごそごそとし始めたのでシャロがちょっと慌てたような顔をしてメーブルに問いただす。
「毒薬とか、後に残るものじゃないわよね。」
「ち、違うよ。後には何も残らないから。」
毒薬をまいたゼーアのことがシャロにはちょっとショックだったみたいだ。でも調薬士として一番安全であろう方法をとっているのだから別にいいのに。
でも錬金術師のメーブルはどんな方法で敵を倒すんだろう?ちょっと楽しみだ。
「メーブル、何か手助けはいる?」
多分必要ないだろうなと思ったけれど一応聞いておく。まあ何もないって言われても接近されそうになったら守るつもりだけれどね。
「大丈夫だよ。あ、そうだ。皆、ちょっと耳をふさいでおいてね。」
メーブルがマジックバッグから丸い石のようなものを取り出してグリーンクロウラーに向かって投げようとしている。なんで、と聞こうかと思ったがその石のようなものを見てぞわぞわっと寒気が走る。あれはまずいものだ。
「ちょ、ちょっとメーブル待ち・・・」
「せーの。」
私の静止の声も届かずメーブルがグリーンクロウラーに向かってそれを投げる。少しだけ【魔気変換】を使って皆の前に盾になるように体を滑り込ませる。
カッ!!ドーン!!
グリーンクロウラーに当たった瞬間、強烈な閃光に目を潰され、その直後に何かが爆発し複数のものが飛んでくる気配がした。
「くっ!!」
【気配察知】とほぼ勘で、剣と足を使い飛んできた何かを防いでいく。小さいものは防げなかったが大体は大丈夫だったはずだ。
「アン、メーブル!!」
シンの声が聞こえる。かなり焦っているみたいだ。
「私は大丈夫です!メーブルの確認をお願いします。」
視力が回復しないことに自分自身で焦りを感じるがここで下手に動いては逆に迷惑をかける。シンは動けそうだから先にメーブルを見てもらったほうが良い。
「けほっ、助かったわ、アン。」
「おおきに。」
「こほっ、感謝。」
3人はなんとか無事のようだ。それにしてもいったい何があったの?そしてメーブルは大丈夫なの?少しずつ目が見えるようになってきているがまだまだぼやけてしまっている。
「メーブルは大丈夫。ちょっと気を失っているだけだね。もう回復もさせたし、しばらくすれば意識を取り戻すと思う。」
「良かった。でも何でこんなことに?」
「まあ推測でしかないけど、たぶんメーブルが投げたのはシャロの爆発魔法みたいに爆発する何かだったんだと思う。外で使えば全体に余波が行くから大丈夫だけれど、迷宮のように狭い空間で使ったからこちらにまともに余波が来たんだ。」
「そうね。私の爆発魔法も迷宮ではボス部屋や広い部屋でしか使わないようにしているし。」
「まあ、全員無事でよかったわ。まさか味方の攻撃が一番の脅威だったとは思わんかったで。」
はっはっはとエブリンが笑い、その場の空気がちょっと柔らかくなる。私の目もだいぶ見えるようになってきたし。自分の服を見るとおそらくグリーンクロウラーの体液が所々についていてちょっと匂った。
「とりあえず今日は帰りましょ。メーブルをこのまま気絶させておくって訳にもいかないし。」
「賛成。」
「そうだね、雰囲気もわかったし、皆の戦い方もわかったから僕も賛成かな。」
「うちも賛成や。」
「わかったわ。とりあえず今日は帰りましょう。冒険者登録が出来ただけでも良かったと思っておきましょう。」
シャロは残念そうだったが、メーブルのことも考えて今回は探索をやめにして帰ることにした。メーブルは私が背負って帰ったのだがとても軽かった。途中で気づいたメーブルに謝られたが気にしないでと伝え寮の部屋まで連れて行った。街中を背負われて運ばれるのはすごく恥ずかしそうだったが無理をさせちゃあダメだしね。
それにしても生産系の人の戦い方って個性が出ていて面白いわね。戦術も広がりそうだし落ち着いたらそれぞれにいろいろ指導してもらおうかな。




