白狐様、冒険者になる
評価いただいたので本日二話投稿します。
ありがとー。
試験の結果発表は1週間後だ。結果は学園の塀に張り出されるのでそれを確認する必要がある。まあシン様も私もおそらく落ちはしないだろう。第三王女様と一緒のクラスになれるかは運の話になってしまうが。
そして今、私は1人で屈強な男たちが出入りする大きな建物の前に立っている。木製の2階建ての建物で、盾を背景に剣と杖が交差した看板が掲げられている。そのマークの上に「冒険者ギルド」という文字が書いてある。
まさか1人で登録することになるとはなー。そんなことを考えながらギルドの扉を開く。目の前にはいくつかのカウンターにギルドの職員が並んでおり、その前に冒険者数人が並んでいる。職員はみんな女性ばかりだ。空いているところや混んでいるところがあるのでなにかしら役割が違うのかもしれない。
奥のほうには酒場がありガッハッハと下品な笑い声が聞こえてくる。朝から飲んでいるのか。先輩たちや『青の戦士団』が冒険者のイメージだったが下方修正が必要かも。
いったいどこの窓口に行けば良いのか迷ったがとりあえず一番空いている列に並ぶ。違ったらまた並び直せばいい。女でこんななりの私が珍しいのか周りの冒険者からぶしつけな視線が向けられるが気にせずに前だけを見て待つ。
「次の方どうぞ。」
やっと呼ばれたようだ。カウンターへと向かう。
「あっ、すみません。依頼でしたら左奥の依頼カウンターでお願いします。」
「登録を。」
「えっ?」
「冒険者登録をしたい。」
美人なのかそうでないのか微妙と言った感じの犬人族のお姉さんが私の言葉を聞いて固まる。なんとなくぽやっとしていそうな感じのお姉さんだ。周りの受付嬢を見ると多くの冒険者が並んでいる列の人は美人さんだったり、胸が大きかったりしている。お気に入りの受付嬢のところに並んでいるのかな。ということはこのお姉さんの人気はいまいちと言うことだ。周りがすごいだけで普通よりも綺麗なのに。不憫だ。
そんなことを考えていたらお姉さんが再起動した。
「えっと、本当に登録したいの?」
「そう。」
簡潔に答える。このあたりはシン様との打ち合わせどおりだ。普段とは違う印象を付けることとぼろが出にくいように極力言葉を話さないようにする。シン様いわく無口キャラだ。
ざわざわと冒険者たちが私のことを話している声が聞こえる。目立つよね。自覚はあるんだよ。
「確かにこの王都では冒険者登録は12歳から出来るけど冒険者は危険なのよ。」
「大丈夫。」
「でも・・・」
「大丈夫。」
お姉さんが私を心配してくれているのは良くわかるんだけど、私としてはこの状況が長く続くほうがきつい。条件は満たしているはずなんだから早く受付して欲しい。
そのとき、後ろのほうから酒に焼けただみ声が聞こえてきた。
「なんだぁ、狐人族のしかもメスガキが王都の冒険者になろうなんて百年早いぜ。それにしても白い狐人族なんて珍しいなぁ。客でもとって商売したほうがよっぽど稼げるんじゃねぇか~。ギャハハハ。」
頭に傷のあるスキンヘッドの男がこちらに向かってふらふらと歩いてくる。スキンヘッドにするなら髭も剃れば良いのに。それにしても本当にシン様の予想が当たるとは思わなかった。
「お姉さん、質問。」
「なっ、なあに。」
「あれは倒していい?不快。」
「!」
私の言葉にお姉さんも周りの冒険者も目を丸くしている。一部だけが面白い物を見つけたように私を見ている。
「ダメです。ギルド内での冒険者同士の争いごとは禁止されています。」
「むぅ。」
「おおぅ、いいぜ。俺は手を出さねえから一発殴ってみろや。それなら喧嘩にはあたらねえ。俺の鎧でお前の拳が砕けても良いならな。ギャハハハ。」
「わかった。」
見た感じそこまで大層な鎧には見えない。先生たちが実践訓練と言って本物の剣や槍で戦ったときに着ていた防具とは雲泥の差があるように見える。問題は無いだろう。
えっと、シン様はなんて言っていたっけ。ああそうだ。死なない程度に吹き飛ばせだった。
両手を腰に当てて胸を張っているスキンヘッドの男と相対する。
「んっ、そこの人危ない。」
「えっ、俺。」
「そう。」
スキンヘッドの後ろにいた若い冒険者に注意してどかす。巻き込んじゃったら申し訳ないしね。
「じゃ、行く。」
「おお、いつでも来いや!」
足と手に最小限の【魔気変換】を使う。ドンッと床をけりつけるとそこはもう男の目の前だ。そして鎧に向かって掌の手首に近い部分をまっすぐに突き出し掌底打ちする。
「ぐはぁ。」
男が小石のように吹き飛んで、ごろごろと転がっていき壁に当たって止まる。うん、死んでいないし良い手加減ができた。シン様の指示通りのはずだ。
結果に満足し、お姉さんのところへ戻る。いい加減にこの状況から逃げたい。
「冒険者登録を。」
「は、はいー!!」
お姉さんの動きが機敏だ。尻尾がピンと立っているし手が震えている。いや、私だれかれ構わず攻撃するわけじゃないよ。ほら安全だよ。同じ尻尾がある仲間じゃない。
そんな私の思いが通じるわけもなくお姉さんがあわあわしながらも用紙を用意してくれ、そこに名前などを記入し、身分証を提示して確認を取ってもらう。お姉さんは走って奥のほうへ行ってしまった。自分がしたことのせいとは言えちょっと傷つく。
私の周りを少し空けて冒険者が遠巻きに見ている。なんでこんな12歳の少女をそんな恐ろしい物を見るかのような目で見ているんだ。自分たちの顔のほうがよっぽど怖いだろう。
こんなことになってしまった原因のシン様をちょっと恨みながら待っているとお姉さんが戻ってきた。
「お待たせしました。ハク様。本来ならば15歳以下で登録される場合はギルドの試験官との試合が必要なのですが上司の判断で必要ないとのことです。こちらがギルドカードになります。」
「そう・・・。」
ギルドカードを見る。
名前:ハク
年齢:12歳
職業:闘士
得意武器:拳
スキル:格闘術、気配察知、隠密
ランク:10級
うん、さっき書いたとおりの内容だ。シン様が用意していた偽造の身分証明書も問題なく使えたようで良かった。
「お姉さん、質問。」
「な、何でしょうか?」
「ランクを早く上げるにはどうしたらいい?」
「早く、ですか?」
お姉さんは最初おどおどしていたが質問の内容を考えるうちに落ち着いてきたようだ。
「そうですね、今なら北のほうでフィールドウルフの群れが多く出て困っているようなのでその依頼を受ければ貢献度は高いかと思いますよ。」
「わかった。行ってくる。」
依頼を受ける手続きをお願いしてギルドから出て行く。シン様に与えられた課題は結果発表までの一週間以内になるべくギルドのランクを上げることと有名になること。シン様の意図はわからないが出来る限りやってみよう。
私は出来たてのギルドカードを携え、意気揚々と北門へと向かった。




