メイド様、再会する
「それにしても何なのじゃ?この羽たちは。」
「さあ?」
とっさに魔気変換で貫いて破裂させてしまったが本当になんだったのだろう。落ちてくるって事は上から誰かが投げ捨てたって事だよね。
「あー!!」
「何じゃ!?急に叫ぶでないわ!」
ゼンコの抗議に耳を貸さず破裂した白い布の辺りを探す。羽毛を払いながら探すこと数分目的の物を見つけた。
「手紙だ。」
それは一枚の紙に書かれた手紙だった。その場で書いたのだろう、地面のでこぼこで少し紙が破れてしまったりしている。でもそんなことは全く気にならない。だってこれはシン様からの手紙だ!
「なんじゃ。お主のご主人からの手紙かの?なんて書いてあるんじゃ?」
「ええっとちょっと待ってくださいね。」
(アンへ
ここへ来ることが遅れてすまない。この部屋で食料の入っていたマジックバッグを見つけた。てっきりアンが持っている物とばかり思って本家への連絡を優先してしまった。本当にすまない。
食料を求めてここではない場所へと行ってしまっているかも知れないがこれから毎日この時間に羽毛をつめた袋に入れて食料を落とす。これを見つけてくれることを願う。
なるべく早く助けに行く。待っていてくれ。
シン)
「だそうです。」
手紙をぎゅっと胸にあて抱きしめる。シン様が助けに来てくれる。死んだとしか思えないような私が生きていることを信じて。それが嬉しい。
頬へと涙が伝う。その涙が止まることはしばらく無かった。その様子をゼンコは黙ってじっと見ていた。
「それにしてもお主も面白いが、お主のご主人も相当面白いの。お主が生きていると微塵も疑っておらん。それに言っては何だがメイド1人のためにここまでする主人はなかなかおらんぞ。」
ちょっと呆れたようにゼンコが言う。私もそう思う。シン様は普通のご主人様じゃない。でもそれが私にはとても心地よく感じる。
「会ったらきっとゼンコも気に入ると思います。」
「そうかの。ふぁーあ。徹夜したから眠いのー。今日の訓練は止めじゃ。明日から精度を上げる訓練をするぞい。」
「誰のせいですか、誰の。まあ私も賛成です。食事したらすぐにでもって、あー!!」
重大な事実に気が付く。そう、こんな大声を出して、ゼンコが顔をしかめてしまうくらいの物だ。
「なんじゃ、叫ぶなといっておろうに。」
「食料・・・」
「食料?」
「せっかくシン様が食料を落としてくださったのに粉々にしてしまいました!」
「おとなしく草でも食べておくんじゃな。」
そう言ってあくびをしながら自分の寝床に帰っていってしまった。
粉々になって陰も形も見えない食料に思いをはせながら、しばらく呆然とその場で立ち尽くしたのだった。
翌日から手紙の通り朝に食料を入れた袋が降ってくるようになった。中に入っていたのはパンなど軽くて衝撃に強い物ばかりだったがひたすら草を食べ続けていた私にとってはご馳走だった。しかし私は未だに草を食べている。この草を食べ始めて覚えた【全異常耐性】という便利そうなスキルを伸ばすためだ。
これからあの女のような敵と相対する可能性を考えるとあったほうが良いと判断した。そのためにはこのくらい我慢しなくちゃ。
訓練の方法はちょっと変わった。午前は泉の中で【魔力操作】の訓練。もちろん気絶する。そして午後は【魔気変換】の訓練。壁を破壊して行き、MPが切れたら気絶する。
これを繰り返した。訓練するごとに慣れていき、そして自然に行えるようになっていった。
そして10日後。
「はっ!!」
10メートルほど先の壁に気弾が飛んで行き、拳型の浅いくぼみをつける。ゼンコとは比較にならないが役に立つレベルだ。
「うむ、あとは地道にレベルアップを続けてMPが増えればより強力な攻撃ができるようになろう。」
「本当にありがとうございました。」
ゼンコの予想では今日あたりにシン様がこの場所まで到達する可能性があるとの事で最終試験を受けていたのだ。なんとか合格点は取れたようだ。
「時間があれば格闘術なども教えたかったんだがのう。まあ仕方ないわい。」
「シン様に通っても良いか聞いてみますね。強くなれるならシン様は喜んで許してくれると思いますし。」
「おお、そうかの。よし、試験を合格したお主にちょっとご褒美をやるのじゃ。ちょっとこちらに来てひざまずくと良い。」
「?」
ゼンコに言われたとおり近づいてひざまずく。常識が通じないゼンコのご褒美だ。わくわく5割、不安5割といった感じだ。いや、不安6割かも。
「其が苦境に立たされしとき、其が必要に迫られしとき、我の祝福が其を助けん。わが名はゼンコ。***の王なり!」
その言葉を聞いた瞬間、自分の中に自分ではないとてつもない何かが入り、そして混ざっていくのを感じた。でもそれが気持ち悪くない。むしろ温かく、そして守られているような気持ちの良いものだった。
「一体、何が?」
ゼンコのほうを見るとゼンコが光り輝いていた。しばらくしてその光が弱まっていき、いつも通りのゼンコがそこにいた。いつも通り腕を組んで尊大な態度で。
「ほう、いい面構えになったのう。」
「?」
「泉でも見てくるが良いわ。」
意味がわからず促されるままに泉のほうへ行く。ああ、思い出深いこの泉ともしばらくお別れかな。沈んで溺れたり、気を失わされて溺れたり、草で変な風になって溺れたり・・・溺れた記憶しかないわね。
泉を覗き込む。そこには白髪のロングヘアに狐の耳の生えたメイド服の少女が写っていた。
「ん?」
いったん視線を戻して、もう一度覗き込む。やはり写るのは先ほどの狐耳の少女だ。こちらを見ながら不思議そうな顔をしている。私が頭のなにか柔らかいものを触ると、その少女も自分の狐耳を不思議そうに触っている。・・・。
「どういうこと!?」
「かっかっか、気に入ってもらえたようで良かったわい。」
「いや、本当にどういうことなのよ?答えな・・・。」
私がゼンコに問いただすことは出来なかった。なぜなら頭上から声が聞こえてきたから。
「アン。無事か?」
懐かしい声だった。そして優しい声だった。私が今一番聞きたい声だった。
「はい、私はここにいます!」
私は私のご主人様に精一杯の声で返事をした。
しばらくしてシン様が土魔法で階段を作りながら降りてきた。5メートルほどの高さまで来るとそこから飛び降り、こちらに走ってきた。そして私を見て声をかけようとして、ぴくっと動きが止まる。あっ、しまった。狐耳とか変な感じになってしまったままだ。
「えっと、すみません。ちょっと姿は変わっていますがアンです。シン様。」
そういえば呼び捨てにするように言われていたけれど、久しぶりすぎて元に戻ってしまった。しかしシン様は反応しない。こんな姿になった私を受け入れてくれないんじゃないかとちょっと不安になる。
「あの、シン様・・・」
「もふもふ・・・」
「えっ?」
「うおー!!狐耳、もふもふだー!!」
「えっ、ちょっ、ちょっとシン様?」
シン様が走ってきて私を抱きしめると頭をなでるついでに狐耳をもふもふされる。なんか今までにないくすぐったいような、気持ち良いようななんともいえない感覚に翻弄される。
「ちょ、ちょっと、待って・・・」
「うわー。すげーもふもふ。あっ、尻尾もあるんだ。おー、こっちはさらさらだな。」
「んっ、やめて、やめてください。そこは、んっ・・・」
「これはやみつきになるな。」
「だ、から、やめてっていってるでしょうがー!!」
私の【魔気変換】はしていない拳がシン様の右頬を的確に打ち抜き、シン様は地面を転がっていった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
荒くなった息を整える。ああ、酷い目にあった。それもこれもそこで笑っているゼンコが悪い。
「かっかっか。お主ら本当に面白いのう。」
「これを解く方法を早く教えなさい!!」
「そのままのほうがかわいいと・・・」
「早く!!」
「仕方がないのう。解くも何も、戻りたいと思えばすぐに戻れるはずじゃぞ。」
元に戻りたいと強く思う。するとすぐに狐耳は消えてしまった。これで一安心だ。感動の再会のはずがとんだ事になってしまった。
「一応、その狐のときは素早さや魔力が上がることと嗅覚などが鋭くなるからの。必要なときに使うが良いのじゃ。」
「たぶん使わないと思うわ。」
「いや、しかしの・・・」
狐耳の素晴らしさとかをゼンコ説かれながらシン様が目覚めるのを待った。
「それではまた来ます。」
「アンを助けてくれて本当にありがとう。」
「ああ、お土産を楽しみに待っているのじゃ。」
気が付いたシン様にゼンコを紹介し、今までの経緯を説明した。シン様が土下座しそうな勢いで頭を下げたときは慌てた。ゼンコはそれを見て笑っていたが。
「それにしても、アンは恐ろしいほど成長したな。」
「ええ、自分でもちょっとおかしいとは思ったんだけどね。」
シン様に言われ改めてステータスを確認する。
~ステータス~
名前:アンジェラ
年齢:11
職業:メイド見習い
称号:ゼンコの守護を受けし者
Lv:5
HP:2311/2311 MP:580/580
攻撃力:923 防御力:733
魔力:320 賢さ:457
素早さ:796 器用さ:921
運:30
-スキル-
■攻撃系
【剣術 Lv7】【槍術 Lv5】【斧術 Lv1】【格闘術 Lv2】【盾術 Lv4】【投擲 Lv1】【魔力操作 Lv5】【魔気変換 Lv3】
■防御系
【回避 Lv5】【気配察知 Lv3】【隠密 Lv3】【全異常耐性 Lv4】
■生産系
【料理 Lv3】【裁縫 Lv2】【調薬 Lv1】【採取 Lv2】【造園 Lv1】
■その他
【****】【算術 Lv4】【書記 Lv3】【速読 Lv5】【暗視 Lv3】【清掃 Lv4】【礼儀作法 Lv3】【操車 Lv1】【乗馬 Lv1】【水泳 Lv3】【狐人化】
私のステータスを確認した後、シン様はゼンコに修行をつけて欲しいと頭を下げた。ゼンコは寝具と新鮮な果物と引き換えにそれを受け入れた。
数日後戻ってきたらシン様は泉に放り投げられるだろう。うん、知らないほうがいいことってあるよね。
「では帰るぞ。エマも心配している。」
「はい、シン様。」
「シ・ンだ。」
「はい!シン。」
こうして私たちはエマさんの待つ屋敷へと帰るのだった。
読んでくださりありがとうございます。
これで第一章は一応の区切りです。
閑話を二話挟んで第二章になります。
閑話ももちろん一日二話投稿しますよ。




