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27歳の不安と29歳の嘘  作者: 白石 玲
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29歳の嘘11月8日の物語

   29歳の嘘   11月8日(日)


『じゃあ、俺にできることしますね』


 俺は周りの人に本当に恵まれている。それを今ほど実感したことは、多分、ない。

「藤堂さん」

 俺の異変に最初に気づいたのは三井くんだった。

「うん?」

「なにか、ありました?」

「なにかって?」

 休憩中、缶コーヒーを飲みながら結衣ちゃんのことを考えていたら、三井くんに声をかけられた。

「んー・・・何か困ってます?」

 言いながら隣に座った三井くんは、俺のiPhoneを覗いていた。画面には、結衣ちゃん。付き合い始めてから・・・というか、再会して年末年始デートをしてから、俺のiPhoneの中身は結衣ちゃんでいっぱいだ。結衣ちゃんには止めていわれているけど、待ち受けまで結衣ちゃんだから、我ながらすごいハマり具合だと思う。

「どうして?」

「いつもは結衣さんの写真見てにやにやしてるのに、ため息ついてたから訊いただけです」

「にやにやはしてないでしょ」

「してますよ。ものすごい」

 三井くんと玲ちゃんは基本的に交代で休憩をとっているから、休憩室では一人でいる確率が高い。

「ねえ、三井くん」

「はい?」

「・・・振った彼女にストーカーされたことある?」

「ありますね」

 ほぼ即答した。

「そのとき、どうした?」

「やめてほしいとはっきり言いました。もう君のことは好きではないし、というか最初から好きではなかったと」

 俺はあまりのはっきりさに絶句した。

「まじ?」

「それ以外どうするんです?」

 三井くんの涼しげな横顔は一見優しそうに見えるけど、俺は三井くんは人間じゃないと思ってる。なんか、化けてそう。

「ストーカーされてるんですか?」

「うーん・・・なんかね、結衣ちゃん前の彼氏との別れ方があんまりよくなかったみたいだから心配で・・・結衣ちゃんの会社の先輩が、会社の近くで前の彼氏らしき人見たって教えてくれてさ・・・でも、結衣ちゃん気づいてないっぽいから、不安にさせるようなこと言うのもどうかと思って・・・」

 俺の話を、三井くんはうんうん頷いて聞いている。

「よく話し合ったほうがいいんじゃないですか?」

「結衣ちゃんと?」

「前の人と結衣さんと藤堂さんでって意味ですけど」

「うーん・・・とにかく結衣ちゃんの帰り道が心配で・・・」

 藤崎さんはああ言ってくれたけど、家まで送ってもらうのも不自然だ。

「じゃあ、月水金は俺が結衣さん送ります。火木は藤堂さんが迎えに行けるんですよね?で、土日はしばらく外出しないようにお願いしたらいいんですよ」

 三井くんがにこりと微笑んだ。確かに、三井くんと玲ちゃんのバイトは火、木、土、が基本で、イベントとかのときは例外になる。俺はシフト制だから主任と里佳さんに勤務を代わってもらえば何とかなる。

「どうです?」

「三井くん、いいの?」

「借りは返す派なんで」

「俺、三井くんに貸しなんてあったっけ?」

「ありますよ。インフルエンザの日に玲を送ってもらった借りが」

 俺はすっかり忘れていたのに、三井くんは律儀なものだ。

「支払いが多くて、今度は俺の借りだね」

「そこは利子ってことでいいです。じゃあ、月曜から」

 カランとコーヒー缶をゴミ箱に投げ捨てて、三井くんが立ち上がった。

「結衣ちゃんにはなんて?」

「そこは俺が適当にやります。でも、結衣さん自身が何かに気づいたら、自覚してもらったほうがいいかもしれないですけど、結衣さんが気づくまでは、偶然装っていくんで」

 にこりと天使の微笑みを残して、三井くんはラウンジに戻っていった。

 三井くんは嘘も演技も果てしなくうまい。だから俺は頼むことにした。

「じゃあ、明日から」

 にっこり微笑んで、三井くんはラウンジに戻っていった。


 三井くん、頼りにしてるよ。




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