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27歳の不安と29歳の嘘  作者: 白石 玲
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27歳の不安11月3日の物語

   27歳の不安   11月3日(水)


『俺は別れたつもりはない』


 今更どうして現れたの?どこまで私を傷つけるの?


「山口・・・ちょっと、いいか?」

 同僚とのランチから戻ってきた私はデスクに戻る前に先輩に呼び止められた。

「はい?」

「おまえの旦那ってさ、この前弁当届けに来た人だよな?」

 そう、私は上条さんと里佳さんの結婚式の日の帰り、海辺で彰から『どうしても二十代の間に結婚したいし、俺の相手は結衣ちゃんしかいない、付き合っていたころから今日まで気持ちはずっと変わらない、むしろずっとずっと愛しているし、この先何十年も結衣ちゃんを愛し続ける自信がある!だから俺と結婚してください!』と、聞いているこっちが恥ずかしくなるような熱烈なポロポーズをされて、彰の誕生日の前日に入籍し、戸籍上では藤堂結衣になっていた。

「そうですけど・・・彰が何か?」

「いや、ならいい。悪かったな、多分、俺の勘違いだわ」

「なんですか?」

「なんでもねーよ」

 先輩にポンと頭をなでられて、結局なんで呼ばれたのかわからないまま、私は自分の仕事に戻った。


「山口」

 定時に会社を出るときに、また先輩に呼び止められる。

「はい?」

「駅まで一緒に」

 ここで働き始めて早6年ばかり、何度かこうして駅まで一緒に行ったことはあるけれど、今日はどうも様子が違う。私が終わるのを待ち構えていたかのようなタイミング。そして・・・。

「今日は俺もこっちだから」

 いつもは違う線なのになぜか同じ電車に乗り込む。

「駅から家までどれくらいだ?」

「んー、すたすた行けば15分くらいですかね」

「歩いてるのか?」

「ええ、バスはあんまりないし、バス待つくらいなら歩いたほうがいいかなって」

「今日もか?」

「今日は・・・」

 いつもは歩くけど、今日は彰が夜勤明けの休みだから駅まで迎えにきてくれるはずだ。でも、先輩と話しながら来たせいでお迎えメールを入れるのを忘れた。

「メールするの忘れたから、歩こうかと」

「今すぐメールしろ!」

「え?」

 思いがけない声に驚いて顔をあげると、先輩ははっとしたような顔をして咳払いすると、今度はいつも通りの口調に戻った。

「寒いし、暗いし、おまえだって襲われかねないぞ」

「どう言う意味ですか、それ」

 とりあえず彰にメールをすると、すぐに行くからという返事が来た。

「きてくれるそうです」

「そうか」

 そして最寄り駅。

「先輩もここで降りるんですか?」

 なぜか一緒に降りてきた先輩を振り返ると、少し目を泳がせて私と一緒に改札を抜ける。

「結衣ちゃーん」

 改札を出ると、彰が手を振っていた。

「え、迎えって徒歩かよ?」

「いつもは車なんですけどね」

 私のグリーンのミラはアパート前の駐車場に停めてあり、週末の買い物と日々の私のお迎えに活用されているけど、今日の彰はなぜか徒歩だ。

「ごめんね、結衣ちゃん。お醤油きれちゃって買い物行ってる間にメール来たから」

 片手にスーパーの買い物袋を持って私のところまで来た彰は、隣の先輩に気づいてにっこりとあいさつした。

「こんばんは。妻がお世話になっております」

「こんばんは。こちらこそお世話になっております」

 挨拶しあった後、先輩がなぜか名刺を出して彰に差し出した。

「どうも・・・って、すみません、俺、名刺家に置いてきちゃいました」

「いえ、俺は仕事中ほとんどやま・・・奥様と一緒なので、緊急時用にと思っただけです」

 なんだかとても、不自然な会話。

「ありがとうございます」

「じゃあ、また明日な。では、失礼します」

「はい、お疲れ様でした」

「お疲れ」

 にこりと片手をあげて改札に戻っていく後姿。

「藤崎さんって、家近いの?」

 彰がどうしてもというので手を繋ぎながらアパートまで歩く間に、私も考えていた。

「どうして一緒に帰ってきたの?」

「それが・・・よくわからないの・・・」

 先輩の不思議な行動の意味を考えながらアパートに入ると、玄関を閉めた途端、彰に抱きしめられた。

「え?」

「心配だよ!結衣ちゃん藤崎さんに狙われてない?」

「あのね、彰・・・私あなたと結婚してるのよ。それに、先輩だって彼女いるし・・・」

「だよね。うんうん、あ、今日寒かったからシチューにしたんだ」

「あれ?お醤油は?」

「明日の朝の目玉焼き用だよ」

「そう。じゃあ、着替えてくるね」


 ねえ、先輩。いったい何に気づいたんですか?




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