頭痛
足の先にまで感覚が戻ると、ライラの手を借りて立ち上がった。
空は赤く、朱色に染まり、それが血の色より深い赤をしていた。
幅一メートルもない小川の岸だった。芝の生えた土手が、二メートル程の壁となって両脇に伸びている。
人の声はなかったが、近くに森でもあるのか、獣の雄叫びのような甲高い音が、ときおり響いていた。
眷属とはどういうことなのか。
そもそも、眷属とはなんだ? 日本において、眷属なんて仕組みはなかったと……
地雷でも踏んでしまったかのように、突然頭痛が襲ってきた。地面が突然砕け散り、真っ黒な落とし穴に身体ごと吸い込まれるような感覚。ガラス片が身体中に刺さる感覚と似ている。頭を少しでも動かすと破片が頭部に食い込むような恐怖がった。
バランスを崩した俺は、ライラにもたれ掛かった。
ライラの腕が俺の脇に滑り込み、俺の身体を支える。
「まだ早かったか」吐息をもらすよに出た言葉は、どこか真剣味を帯びていて、ライラの焦りが窺える。
しかし、俺が視線を向けていることに気が付くと、なにもなかったかのように優しく微笑み返した。
「大丈夫、まだそんなに近くには来てないと思うから。焦らずゆっくり行きましょう」
俺は何者なのか。
まったく思い出せない。
こんな浅い川に跳ぶ込むからだ。次第に緩和してゆく痛みの中で俺は思った。
どうしてこんなヘマをしでかしたんだ。
彼女なら俺のことを知っているはずだ。
どのみち、この状況では頼れるのはライラしかいない。
頭痛が治まると、俺は屈曲した先にある夕陽を見つめた。
龍の眼のような赤い虹彩を持つ夕陽が、睨み付けるようにこちらを見ていた。