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酔いたい夜

作者: C.コード

「アレを一杯頼むよ」

訝しげな顔付きの男性はバーで席についていた。

「お好きでございますね、お客様。少々お待ちを。」

バーテンダーは慣れた手つきにボトルを用意している。

「随分とお疲れのご様子でいらっしゃいますね。」

「今日も仕事でね。まいったよ。たまには飲みたくなる夜もあるさ。」

「そういって、毎週この席に着くではありませんか。」

「ハッハッハ、大目に見てくれよ。この歳でも楽になりたい時もあるさ。」

シェイカーで手際よく仕上がった一杯がグラスに注がれ、中年らしい男の前に置かれる。

「お客様お好みの『アレ』でございます。」

「毎度すまないね。君の作る一杯は最高に飲んでて心地よいんだ。」

男は早速グラスを口にした。疲れきった男の顔が少しだけほころんだ。

「やはり…この一杯は格別だな。」

よく飽きもせず、とはこのやや至福そうな表情を見ると野暮はことは言えない。

「いつもありがとうございます。」

「礼を言うのはこっちのほうさ。この一杯のおかげでまた頑張れそうだ。」

「それは何よりでございます。」

男はグラスを少しずつ煽った。

「もう一杯、いいかな。」

(かしこ)まりました。」

再び出されたグラスにも男はて早く口をつけた。

「今日は何か嫌な事でもありましたか。」

「日々の疲れがたまってるだけさ。毎日毎日、仕事、仕事、その全てに後始末、後始末…

 週末に酒でも飲まなきゃ、やってられない。」

「大変だったのですね。」

「全くだ。 人をなんだと思ってるんだってガツンと言ってやりたいんだがな、できやしねえ。」

2杯目のグラスも空になった。先ほどのグラスよりも速いペースだ。

「お客様、今日はこのあとに予定があるのでは?」

「おおっと、そうだった。このあとは用事があるだった。そろそろ帰るよ。

 勘定はこれで足りるかな?」

「お預かりいたします。…お釣りです。」

「毎度済まないね。次来る時もまた連絡するよ。」

「いつでもお待ちしております。ご来店ありがとうございました。」

男は勘定を済ませると足早に去っていった。


「先輩、さっきのお客さんはすごく難しそうな人でしたけど、大丈夫でしたか?」

「あはは、大丈夫、大丈夫。いい人だよ、あのお客さんは。」

「結構早く2杯も飲んで、ささっと帰っちゃいましたけど…何を飲んでたんですか、お客さんは。」

「カルーアモカミルクだよ。ちょっと怖いかもしれないけど、案外見かけによらないもんさ。」

「ははぁ~、すごく甘いヤツでしたか。」

「どんな人だって、甘く酔いたい夜もあるんじゃないかな。さーて、僕らも仕事にもどるよ…」

バーの扉が開かれて、扉に付けられたベルがなる。

「いらっしゃいませ、お客様。」

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