サラリーマン商人現る
「前方からは報告を受けつつ随時対処し、後方を確保する為に動いても良いかもねぇ」
「あ、侯爵! おはようございます! ありがとうございます倒れている間」
侯爵が食堂の奥の扉から入ってきたのが見えて直ぐに席を立ち、侯爵の近くまで小走りで近付く。そして一礼した。
「いやまぁ私が後見人というか表立った所では盟主だしねぇ。君はまだ修行のみだというのを私も忘れて投げ過ぎたきらいもある。ただ一度倒れればある程度自分で測れるだろうから、他に任せるという事も必要になる。そこが出来るかどうかで大将の器も知れるんだ。上手く出来るよう今から考えておくようにねぇ」
僕は侯爵の言葉に頷く。今も皆に助けてもらって何とかやってるんだ。どれくらいまでしか自分は出来ないか把握を毎回しつつ、頼りになる周りの人たちに失礼の無いよう手伝ってもらおう。
「すみません偉そうにしてしまって」
「まぁ責任者は君だ、というような感じの言葉や雰囲気になっているのもあって、責任を果たそうとしている事から来た言葉だ。上からという風には私には全く聞こえなかったよ? だから必要以上に気にしなくていい。そこに付け込まれる可能性もあるしねぇ」
「気を付けます」
「まぁノルンの奴も悪いのさ。元々エルフのような閉じ籠ったところから出て来たばかりだから思考が固まったままだ。そのうち誰か虐めやしないかと心配になる。あれに求心力があるようだから平気だろうけどねぇ」
侯爵は意地悪そうに微笑み席に着いた。僕も元の所へ戻って席に着く。
「取り敢えず今前線の方は安定しているよ。と言っても動きがないって感じだから、嵐の前の静けさかもしれないけどねぇ」
「他はどうですか?」
「うん、君が動いた事が功を奏したみたいで、色々雨の後の葉の下のような状態になっている。うじゃうじゃうじゃうじゃ」
敢えて嫌な例えをしているのが侯爵らしい。それほど好ましくない者たちが出て来たのだろう。
「本来なら君に経験を積ませたかったんだけどねぇ。だけど良い事もあった」
「な、何でしょう」
「一つはシェンリュ君がとても優秀だという事だ。あの気難しいリザード族を従えているんだから今更だけどね。後は君が親分と呼んでいる彼も優秀だ。ボブゴブリン族を先頭に立って訓練し、私のボディーガードも選定して付けてくれた。後コボルト族も見つかったし、何より商人が見つかったんだよ!」
侯爵は身を乗り出して僕に向かって興奮気味に言った。ただ僕もそれには興奮した。何しろ待望の商人だ。勿論まだこっちには特産物を流通させる準備は整っていないけど、それさえ出来れば経済にも食い込んでいける入口が出来たんだから凄い。
「しょ、商人さんとはどんな感じなんでしょう」
「……まぁ商人というだけで凄い。儲けの為にはギリギリまで行けるっていう男でねぇ」
「なんだか怖いですね……」
「まぁそれだけに商売に関しては正直だね。だからこそそっちを汚されるとブチギレるかもしれない」
「まぁそういう事ですヨ」
侯爵が入ってきた奥の扉を開けて現れたのは、茶色のズボンにジャケット白のTシャツに身を包み、髪は長く肩までありメガネを掛けている顔立ちの整った東洋系のサラリーマン風の人だった。
「待ちきれなくて現れたのかい?」
「それは勿の論。私は早く会いたかったですから。正直こちらに協力させてもらうっていうのも、その話を聞いたからですからネ」
「ど、どうも初めまして。久遠康紀です」
「どうも初めまして康紀。私はリチャード。リチャード趙。趙雲子龍の趙と覚えてくださネ」
満面の笑みで顔を近付けて握手をされる。圧が凄い。
「貴方は純粋な日本人?」
「お、恐らく。聞いた事はないのでなんですが」
「なんですが? 分からないって事かナ」
「そうです」




