帰り道で
「まだ敵ではない。毒など入れない」
「そのようですね。一応種族が違うので念のために」
その後は無言でまたその飲み物を啜る音だけが空間を支配する。
「……俺たちは敵を作るつもりは無い」
「はい」
「だが戦となれば血が騒ぐ」
「そう聞いています」
「どちらかと問われたらお前の方だ」
「ありがとうございます。それだけでも十分です。正直なところ相手がどう攻めてくるかも見えてないので」
個人的には族長さんに会ってみたいと思っていただけなので、敵にはならないと言ってくれただけでも十分な成果だ。静かにまた飲む音だけが流れていく。
「ご馳走様でした」
一礼して器を下に茶碗を置く。族長もそれをみて飲み干し茶碗を置いた。そして僕たちは立ち上がり外に出る。オークの人たちが小屋の周りに集まっていた。族長は皆を見てから頷く。オークの人たちもそれを見て頷くと帰って行った。
そのまま並んで歩き、僕は一人外に出た。そして振り返り一礼する。
「康紀、オレの名はジンガ」
「ジンガ族長、お元気で」
ジンガさんが手を差し出してきたので、僕はそれを握る。また会う時があるだろう。もしかするとその雄姿を見る事が出来るかもしれないと思うと、不謹慎だけど楽しみな気さえした。
「また会おう」
僕はその場を後にした。ジンガさんは門の前で僕を見送ってくれている。
「ちょっと、何すがすがしい顔してるのよ!」
シルフが僕の肩に戻ってきて小声で叱責してきた。僕は追い払うように手をシッシッとやって肩を払う。それを掻い潜り蹴りを放ってきたが指で逸らす。
「結果は上々さ。シルフが気を使ってくれた御陰でね」
「あら私が一緒だったほうがもっと良い条件を得られたわ」
「ならもう一度行くか?」
やっと蹴りが納まったのにまた始まった。シルフは案外しつこい。風の妖精なのにさらっとしていない。好奇心旺盛な子供の様だ。
「何か来る」
その声に僕は辺りを見回す。生憎帯刀していないから逃げるしかないんだけど。
「どこから来るか分かる?」
「囲まれてる」
「原住民かな」
「そうだと思う」
僕たちはゆっくりジグザグしたり、屈んだり這いつくばったりしながら移動した。ガサガサする音が大きくそして多くなる。
「うわっ!」
仰向けになってじっとしていた僕を見つけて声をあげたのは、見た事も無い人間だった。僕と少ししか違わない感じで着ている物が胸肩腰にのみ皮の鎧を付け、髪飾りを頭にペイントを頬にしている人物だった。手には槍を持っている。
僕とシルフは起き上がると、迷う事無く走り出す。技を発動すれば良いんだけど、なるべく刺激したくないし、手の内は明かさないでおきたい。
「あっちだ!」
「追ってくるわ! 逃げないと!」
シルフに言われるまでも無い。それに僕は基本能力が上がっていて鍛えもしているから、足は今は遅くない。体力もある。
「追え! お……ぐあ!」
指示の声に悲鳴が混ざった。僕が後ろを振り返るとそこには勇ましい緑の山が聳え立っていた。
「ジンガさん!」
「ゆけ」
ジンガさんが囲まれていく。
「ジンガさん、距離を取ってください! 早く!」
僕は必死に叫ぶ。手の内がどうのとは言ってられない。助けなくちゃ。
「怠惰の結界」
手を突出し僕は叫ぶ。すると今までとは違い、背後からデムが現れ地面にその大きな手を叩きつける。次の瞬間、原住民の居る真ん中辺りからうす黒い膜が広がり広がっていく。
「そこまでだ」
僕は広がり続ける膜が留まるように、そう声をあげた。デムは地面から手を放し姿を隠した。
「康紀、大丈夫!?」
何でだろう、鍛えたはずなのに前と同じかそれ以上に消耗を感じる。肩で息をして地面に膝と手を付いてしまった。何とか意識だけは保っていられるのが救いだ。
「な、何とか。周りは?」
「あっ!?」




