泉の謎
「康紀、こっちこっち」
森は散々歩いたのである程度知識が増えていた。その御陰で屋敷近くまですんなり行ける。
「侯爵、皆さんお待たせいたしました。こちらがリザード族代表のシェンリュ様です。シェンリュ様、左からダークエルフの族長を務められているノルン様、次いでその娘のヴェル様、右に居りますのが侯爵のファウスト様です」
屋敷とダークエルフの村の中間地点の少し開けた場所にテーブルが置かれ、それを皆で囲んでいた。
「これはこれは。初めましてノルンと申す」
「ノルン様初めまして、シェンリュと申します。お初に御目に掛かれて光栄の至り」
「こ、これはこれは」
「ノルン様、やられたねぇ」
侯爵はからかうように言う。それに咳払いをして答えるノルンさん。
様子からしてシェンリュさんが若いと思って良い意味で言うと柔らかく言ったと思う。
「失礼を。私はノルンの娘、ヴェルと申します。こちらこそかの有名なリザード族を従えている方とお会いできて光栄ですわ」
「ダークエルフの重鎮お二人にお会いできて光栄です。康紀には礼をせねばと思います」
めっちゃ大人のやり取りだあと感心していたのも束の間。
僕の名前をシェンリュさんが口にした途端、何故かヴェルさんは一瞬真顔になったように見えた。
「そうですか。私もです。康紀には今後更に懇意にしていこうと思っています。今もお屋敷でお世話になっておりますので、具体的にお礼をしないと族長の娘として義に欠こうというもの」
二人はプロレスの開始前の握手をするような勢いで握手を交わした。
「それはそれは姉やが怖いでしょう」
「姉やが怖くて族長の娘はやっていけませんわ」
見た目とてもにこやかにほほ笑んでいるようにしか見えないのに、
何かオーラの様なものを感じるのはきっと気のせいに違いない。シェンリュさんなのに。
「そろそろいいかねぇ私が挨拶しても」
「……失礼」
お互いにフンという声が出んばかりに互いに背を向けた。シェンリュさんは直ぐに侯爵の近くに移動した。
「初めましてファウスト侯爵様。康紀にはお世話になっています」
「初めましてシェンリュ様。こちらこそ康紀がお世話になってます」
この二人はすんなり何事も無く握手も終わり、アステスさんの案内でシェンリュさんと僕は席に着いた。
「さて早速で悪いけど今日は状況が変わったので二つの部族に力を貸してもらいたくてお呼び立てしたんだ」
「心得ているよ侯爵」
「流石娘を送り込んだだけあって話が早い。シェンリュ様も宜しいかな?」
「シェンリュで結構だ侯爵。私も侯爵と呼ぶから」
「ならシェンリュ、康紀から直々に協力の要請があったと思うが」
「無論。私としては康紀に信頼を置いている。彼の要請であれば受ける準備はある」
「ノルン、君は失敗したねぇ。彼女若いのにすべて心得て喋っている」
「……喧嘩を売っているのか?」
「そうじゃないさ。若いからと言って侮ると足元掬われると言う話だよ。君の所も全てが一枚岩ではないようだしねぇ」
「何が言いたい」
「泉の彼女、なんでウルドじゃないのかな?」
その言葉にノルンさんだけじゃなく僕も驚く。グルヴェイグさんは彼女をスクルド様って。
「与り知らぬ……とは言えんな」
「そりゃそうだろうね。この辺りの異変、急激な流れの変わりようは説明が付かない。グラディウス国の北の国で恐らく星の剣が生まれ、その力は天を貫いた。あれを呼ぶのに協力したのは誰なのか知りたくてねぇ」
「それを言えばお主のところのも探りを入れているのであろう?」
「無論だね。私はこちらあちらはあちらだ。星の危機となればあっちは構わなくてもこっちは構うんだよ。地に生きる者としてね。君らは新たに生まれた軸の大地に居る事を選択した。それは決別したと取って良いような気がするが」




