雷の行方
それから直ぐにアステスさんの案内でヴェルさんの部屋へと向かう。
「んぐぐぐぐ!」
なんというか目も当てられないというのがどういう状態なのか初めて知った気がする。
アステスさんの顔を見ると無表情に見えたけど気というか何と言うかが迫力ある気がしてならなかった。
「アステスくん」
侯爵に促されてアステスさんはベッドに縛られているヴェルさんを乱暴に解き放つ。
「あいたっ!」
べちょっと床に落ちるヴェルさん。夏休みの子供と起こすお母さんのような構図である。
「悪いんだけどねぇ、君たちのそういうのは後にしてもらってだ。ノルンと話がしたいんだけど」
「どうしよっかな……じゃない。分かりました今すぐ行きましょう直ぐ行きましょう」
一瞬おちゃらけ様としたもののすぐさまやめて直立不動で答えるヴェルさん。僕はなるべくこういう風になる事はしないよう気を付けないといけない。
「悪いんだけど、こことの中間位置に場を直ぐ設けるからノルンにそこまで来て欲しいと言ってくれたまえ。緊急の用だ。私の名前で伝えるように」
ヴェルさんは僕の手を引いて部屋を直ぐ出ようとしたけど、侯爵の言葉に止まる。けどそのまま出ようとしたので今度はアステスさんに肩を掴まれやっと僕の手を放した。
「今すぐだよ?」
ヴェルさんは肩を落として出て行った。
「康紀、悪いけどリザード族にも同じ内容を伝えて来てくれないかい?」
僕は頷く。ダークエルフには伝令だけじゃなかったかと思ったけど、侯爵に考えがあるに違いない。
「分かりました。行ってきます!」
僕はそのまま急いで屋敷を出てリザード族の鉱山まで走っていく。この世界に来て能力が上がったのと鍛えているのもあって日に日に体の強さを感じている。
「どうしたんだ? 血相を変えて」
僕はシェンリュさんと二人きりで話したいと告げて木陰で経緯を話す。
「……それは不味いな。だが仕方あるまい。強制力がある訳では無いから完全に服従させるなど無理だろうな」
「すいません面倒に巻き込んで」
「気にする事は無い。寧ろ借りより貸しが出来る可能性があるのなら喜ばしい限りだ。康紀はそれを承知で私に話してくれている。それだけでも私の康紀に対する評価は上がる」
手に槍を持ち束を地面に付いていたけど、それを逆さにして刃を地面に埋めた。
「シェンリュさん……ありがとうございます」
「礼は全てが落ち着いた後で良い。開戦となれば同盟であろうと無かろうと巻き込まれるのは同じだ。何しろ向こうはその口実を探していたんだろうからな。私たちが意識しているように、向こうもこちらを見ていたとすれば……」
それから先は言わなくても理解できた。僕は頷いて答える。ゴブリンを送り込んできたのはこちらを刺激する為。思惑通り動きはしたけど、彼らが期待していたのは首都に関しての動きだろう。
「孰れにせよなった事は仕方ない。迅速に対応し最悪の事態を想定した対策を立てようと言うのだな?」
「はい。緊急事態にはならなくても正直に言えば今後の為になるので、この動きはプラスになると考えています」
僕の言葉にシェンリュさんは微笑んで頷く。
「良い顔と言葉だ康紀。全てにおいて何が起こるかなど確定的な事は無い。明日世界が滅ばないと誰も保証できないのだから。最悪に対して対策を立てておきつつ、もう一方で着実に一歩ずつ進めていく。万全は無理でも安定して進めるのとそうでないのでは大きな違いがある」
僕も微笑んで頷く。何しろ目が覚めたら異世界に居る事があるんだから、明日世界が滅んでも個人的には驚かない、というか驚けないかもしれない。そう思うとちょっと怖くもある。
「では私も準備をするとしよう」
「どうぞ。僕はここでのんびりさせてもらいます。朝起きて直ぐだったので」
シェンリュさんは頷きリザード族たちの所へ戻っていく。




