ヴェルの来訪と苗
「……取り敢えずその件は置いておくとして、今日はそれより別の件で来たのよ」
「別の件と言うと?」
僕の問いにヴェルさんはゆったりした雰囲気から一転背筋を伸ばし、
顔をキリッとさせた。
「康紀殿。貴殿を我らの同盟者と認め、その友好の証として先ずは我々よりこれを貴方に送ります」
テーブルの上に乗せられたのはハンドボールくらいの大きさの袋だった。
「これは……?」
僕が取ろうとしたけど、シルフが起き上がりその袋を僕の手元まで持ってきてくれた。
「大丈夫みたいよ?」
「失礼な。我々ダークエルフは康紀を同盟相手として認めての贈り物よ? 何かあったらダークエルフ自体が疑われるんだからやる訳ないでしょ?」
「そんなの分からないじゃない。大将の首を取れば終わりとか考えてそうだし」
「冗談じゃないわ。悪いけど今の康紀に汚名と引き換えにするほどの事は無いわ」
「はっきり言うじゃない」
「その方が信頼できるでしょ? 今後それ以上になってほしいと言う意味で、先行投資よ」
シルフはその答えに頷き袋の口を開けた。そして僕にその中身が見えるように、
引きずってきてくれた。
「これは……ホウレンソウ?」
「違うわよ。私たちが外の世界で生きていく中で改良を重ねて出来た、初めて完成したと言える作物の苗」
その苗はホウレンソウのような感じで束になって袋の中に入っていた。
「へぇ……種芋をくれるのかと思ったわ」
「そう思ったんだけどさ、飢えててそのまま食べちゃいました、なんてことになったら大変だなぁと思ってさ。それに素人にいきなり種芋から苗作れって言っても困ると思って」
シルフは何か知っているようだし、それに対してヴェルさんも答えた。
二人は笑い合っている。僕はさっぱり分からない。
「康紀は知らないわよね。これはダークエルフが育てたダーポテトっていう品種なの。今やダークエルフの代名詞と言っても良いもので、世界に出回っている作物よ」
「荒れ地にも強い品種だし、数が多く取れるからお腹を満たすだけなら持って来いよ」
「あ、ありがとうございます!」
「良いのよ、シルフの言う通り代名詞とは言えもう世界中に出回っている代物。これだけでは先行投資にはならないから、私がそこらへんを指導させて頂こうかと思ってね」
「良いんですか!?」
「勿論よ。何より私たちもボブゴブリンたちと友好を結べれば何よりだし、例のリザード族とも手を結んだとなれば、私たちからすれば協力しない手はないって訳よ」
「流石か細い体で世界を渡り歩いてきたダークエルフ一族ね。抜け目ないわ」
「当たり前よ。そうじゃなきゃ故郷を追われて生き抜いてこれるもんですか」
その言葉だけでも凄いと思うけど、実際はもっと苦難の連続だったんだろうなぁと
思わずにはいられない。
「という訳で暫くは私も屋敷に泊まらせてもらうわ」
「侯爵に御伺いを立ててきます」
「まぁ私はボブゴブリンの野営地で康紀と二人でも良いんだけど」
「お断りします」
早い、早いよアステスさん! 歴戦の中尉並みの速さでインターセプトしたのに
僕は驚いた。てっぺきのぼうぎょりょく。
「あら性悪メイド。ご挨拶ね助けに来た私に対して。ダークエルフの使者でもあるのだから丁重に扱わないと」
「お断りします」
ああまた始まってしまうのかしら。シルフは何も言わず袋の口を閉めて僕の肩まで飛んできた。
「はいはい君たちそこまでだよ。アステスくん、彼女の部屋へ案内してくれたまえ」
「侯爵……」
「これはどうも侯爵様」
「やぁどうも。ノルンは元気にしているかい?」
「相変わらずですわ。それにしても侯爵がパトロンでいらっしゃると聞いて驚きです」
「そうかい?」
「我々の認識としては前に出るのを身上とされているように思っていましたので」
「ふふ……ここでは康紀の成長を見たくてそのままにしているだけさ。他では前面に出ざるを得ないからそうしているけど、何れは担ってもらっても良いかと思っているよ」




