風の誘い
一瞬の間を突いた一撃をかわせたのは、
自分でも感心するほどだった。
風が吹いた気がして足を引いて半身になった。
そこへ彼女とレイピアが通り過ぎる。
「あら随分と勘が宜しい事」
「ギリギリだった……」
「見えていた訳ではないのね」
何か分からないけど、風の僅かな動きを頼りに
体を動かしてみる。すると見えない突きを全てか避ける事が
出来た。僕はそのまま流れに乗る事にした。
「お姉さま!」
「ロタ、下がりなさい」
新たに一人、彼女と僕を挟むように耳の尖った少女が現れる。
ショートボブに右側面こめかみには、月の髪留めがあった。
鎧は身に着けておらず緑のブラウスに緑色を基調とした
ギンガムチェックのスカート、そして左胸にガードの鎧を付けている。
弓使いか……?
「お姉さまここは二人掛かりで」
「……何を言っているのロタ。私に卑怯者になれと?」
「戦場であれば」
「戦場ではありません」
「ですが剣をこいつは抜いています!」
「お止めなさい!」
少女も剣を抜いたが、僕はそれどころではない。
何だこの感覚は……。
「キャ!」
少女の突きをかわした後、その突き出た左腕を取って捻り、
腰に回して先に攻撃を仕掛けてきた彼女へ向けて突き飛ばす。
ここは一体どういう場所なんだ……?
体の周りだけじゃない。中にまで風が……。
「……しまったわね……ロタ平気?」
「ええ、ええお姉さま。二人であいつを!」
「もう無理でしょうね……それよりどうにかしないと」
「何があったのですか……あっ」
彼女たちが話している間、僕は僕へ向けられている視線とか
アドバイスみたいなものとかの主を探して、
視線を漂わせていたが見つからず、僕が彼女たちに改めて視線を
向けた途端一陣の風が彼女たちに向けて吹いた。
「不味い!」
僕はそれを無言で風に乗って追い、
突き刺すべく切っ先を向けて突っ込む。
「御待ちなさいな」
また新たに声が現れた。寸での所で刃先を止める。
「まさか普通の人間に風が纏わりつくなんて見た事が無い……貴方何者なの?」
その声の主に視線を向ける。
薄地のピンクのドレスに煌びやかな装飾。
明らかに高貴な者であることは僕にも分かった。
「貴方達、謝りなさいな」
「何故ですローズル様! こいつは結界を壊して」
「普通の人間に敗れる結界を作った者が悪い、と言いたいところだけれどそんなヤワなもんじゃないのはしってるでしょう?」
「それは……」
「それにあの姿。爺やに見せたら卒倒されそうだけど良いの?」
僕に視線が集まる。良く分からないけど、
今上手く喋れないのと風が体を覆っている事は分かる。
「どこかにシルフが居るはずね……全くあの気紛れ女……」
「さーてどこかしら」
僕の襟の後ろから何かが聞こえる。
素早く手を動かし捕えて前に出す。
「ちょ、ちょっと! 命の恩人に何てことするの?」
僕は首を傾げて答える。
「馬鹿ねぇ貴女は風に属するだけで司る訳じゃないのよ? ユグドラシルの木によって力の一部を融通されているに過ぎない」
「ふーんだ知らないもんね」
「良いから早く元に戻しなさいな。彼困ってるじゃないの」
僕は頷いて同意する。
声が出せないのは困るし、今踏ん張ってるけど
暴れたい衝動が凄い。
「知らないわよそんなの。私ただ風を呼んだだけだもの。吸収したのはコイツよ。ふぐっ」
僕はつい掴んでいた手を握ってしまった。
「貴女ねぇ……。まぁシルフに一般論を言っても通じないわね」
「どうしましょう」
「どうしましょうも何も、ユグドラシルの木の下まで連れて行くしかないわ」
「そ、そんな!? あそこは私たちの聖地なのですよ!」
「仕方ないでしょう。このツケはシルフに払ってもらいましょう。兎に角何とかしないと吹っ飛ばされるわよ? 特に彼はダークエルフ達が一目置いているんだから」
「なっ!? あの性悪女たちの仲間!?」
「許せない……」
物凄い睨まれてるけど、今睨むのは不味い。
湧き上がる闘争心を抑えきれなくなる……!




