筋肉バンザイ!
ここで熱血漫画なら蜥蜴兵と抱き合って
熱い友情を交わしたかもしれない。
だがそんな気すら失せるほど苛烈な労働……鍛錬だった。
慣れているはずの蜥蜴兵の目も死んでる。
というかこれいつか慣れて楽になる気がしない。
ボブゴブリンたちはどうやって生計を立てていたのだろう。
もしかしたら無尽蔵のスタミナがあるのだろうか。
それ以降の記憶は曖昧でおぼろげで。
唯一覚えているのは肉そのものの味のする料理と、
筋肉に良いという薬草を混ぜ散らかした飲み物を
取ったと言う記憶。なるほどこれが兵隊を作る仕組化と
脳で理解しつつ抗いながら、茣蓙しか引いてない木の下で
床に就いた。
「た、ただいま帰りました……」
一日しか過ごしていないのが嘘のように思えた。
時間があれほど遅くすぎるのが苦しい事は初めてだと思う。
蜥蜴兵たちは良く耐えている。帰り際、僕と蜥蜴兵たちは
見つめ合い、敬礼をして別れた。ああ今は戦の只中なんだなぁと
思い知らされた。
「……なんだかどこぞへ出兵したような顔つきになって帰ってきたね……」
僕の顔を見た侯爵は目を丸くして口を半開きにした後、
満面の笑みでそう言った。何故。
「もう二度と行きたくないです」
「アステスくんはどうかな」
「短期集中ならあそこです」
……きっぱり言い切るアステスさん。鬼。
「うんうん何事も短期集中するなら一か所に突っ込む方が良いよね。○グメタ狩りしかりス○爆発しかり」
「……侯爵は何を言ってるんですか」
「ずるするならそれなりのリスクがあるってことさ。心を無にして何時間も何日も。そうすればあっという間にカンストさ」
「カンストかぁ……」
僕はカンストという言葉に思いを馳せる。
ムッキムキになった僕はその強力を武器に、
並み居る敵をバッタバッタとなぎ倒し……。
「残念だけど君の想像みたいな筋肉お化けにはなれないよ?」
「え!? そうなんですか!?」
「いや考えてみたまえよ。別人ていうかお化けじゃないか」
「えぇ……って僕の頭の中を覗かないでください!」
僕は頭を抱えて蹲る。
「筋肉にも人其々成長出来る限界がある。それを超えたいなら色々自分以外の物に頼る他無い。私としては生まれ持ったその人の限界を極める、というのが人間らしくて素晴らしいと思うんだけどねぇ」
「はい……」
僕はそうは思いつつも、ムッキムキになれそうもない
という事実を知らされてがっくりしてしまう。
「そんなにあからさまにがっかりされてもねぇ」
「いえ……あ、じゃあ僕もあの洞窟に行くより屋敷での方が自然に限界を」
「ダメです」
えぇ……アステスさんマジなの?
僕は思わず声が出なかった。アステスさんマジスパルタ。
「まぁ程々にねぇ。心折れちゃうからさ。僕だったら絶っっ対に嫌だけど」
「こ、侯爵も嫌なんじゃないですか!」
「当たり前だろ? あんなの邪道以外の何でもないさ。君ねぇゲームだったらあんな酷い目に遭うかい?」
「絶対に遭いません」
「だよねぇ。現実で○神と時の部屋なんていったらね、あんなもんなんだよ? ガチガチに鍛えられた挙句食事までコントロールされて眠りも管理。ひと月後にはあら不思議。崖をよじ登り千里を走っても疲れもしない屈強なファイターの誕生だよ」
「……ああ」
「……君も大分重症だよね。一瞬良いって思っただろ」
「いやまさかそんな」
「君がどうして引き籠ってたのか理解に苦しむね……」
「いやぁだからこそ憧れが……ってあれ、侯爵に離しましたっけその辺の事」
僕の言葉にわざとらしく目を見開き口を開けた後、
コンと舌を弾いた。
「ま、それはさておき鍛錬の事はぼちぼちやって行こう。ただ鍛錬に明け暮れるわけにもいかないんだ」
「まさか本国が攻めてくるんですか?」
「それはまだない。というのも大々的に動けないよう私が餌をまき散らしてきたからね」
侯爵は悪い顔をして微笑む。




