知恵比べの誘い
「なら善は急げだ。さっさと引き上げるか」
「そうですね」
僕たちは部屋から顔をだし左右上下を確認し、
何も無いと見て急いで外に出ようと入り口まで走る。
「待っていたよ」
光の先で待っていたのは、蜥蜴兵士と黒ローブだった。
流石根城。入り口は無数にあるようだ。
恐らく僕たちの気配に気付いていたか、
警戒中に発見しわざと空にしておびき出したか。
「おっと気軽に動いてくれるなよ? 特に君はダメだ」
黒いローブは僕を指差した。
僕が動いてはダメ? あれを発動させるのに具体的な
動作は無かった筈だ。流れの中で発動したことはあったけど。
「なんでそれを知ってるんだ?」
「さてね。で、君たちは何をしにここへ来たのかな」
「火山の調査だ」
ジャンさんは僕をフォローするように問いかける。
僕が変に問うと、あの黒ローブは気付いてしまうと
思ったんだと思う。それは正しいけど、あの黒ローブは
この間にも考えているはずだ。僕たちの態度から
それが無意味だと分かれば攻撃してくるかもしれない。
それまでに交渉しておかないと……。
「……それは嘘じゃないみたいだ」
「なら問題ないだろう?」
「無許可で勝手に人の家に入ってそれは無い」
正論だ。これにはぐうの音も出ない。
「それなら看板を出しておいてくれ。俺たちは最近ここに来たんでそんなものは知り様が無い」
「あの魔族とボブゴブリンから聞いていただろう? それはない」
「住処だとは聞いてないが」
ジャンさんの言葉に黒ローブは言葉を止めた。
確かにその通りだ。恐らくボブゴブリンたちが逃げてから
ここを根城にした。ただしそれも最近だろう。
活火山になる前は休火山で湿度もそう高く無かった筈だ。
そうなるととても蜥蜴兵士に快適とは言い難い環境だろう。
「良いだろう今度からそうしておこう。で、火山の調査をしてなんとする? したところで火山を止めようもないと思うが」
「それを元に避難計画を立てないとな。前から本国後ろから自然災害じゃ二進も三進もいかない」
「にっちもさっちも?」
「そろばん用語だ。知らんのか?」
「そろばんとはなんだ」
「知らないか? 日本人なら知ってるぞ」
「日本人……」
ジャンさんが僕を見る。日本人ではないが異世界人だ。
この世界の人間なら日本人が何か問うはずだ。
黒ローブは考えた。そして顎に当てかけた手を直ぐ離した。
「……小賢しいな」
「お互い様だ。兎に角俺たちは後ろの安全が欲しいから調査に来た。欲を言えば鉄鉱石も欲しい」
「正直な。鉄鉱石は武器の加工に使うのか?」
「それだけじゃないです。出来れば戦い以外でも影響力を持ちたいな、と」
「戦い以外で?」
「そうです。交易品はこの地域に沢山あります。色々あって出来なかったものも。それを本国を中心に交易網を張り巡らせ、そっちの面からも揺さぶろうかな、と」
「……どうやって?」
あ、興味を持った。
「今本国は戦争をしようとしています。その為に先ずは国内の再統一に動き始めました。庶民は貧しい暮らしを強いられているはず。そこにこそ穴はある」
そう、接収するのは何も人だけじゃない。
戦場で問題となるのは兵糧問題だ。
本国が独自に生産する力はそう高くない。
荒れ地のど真ん中に作ったのも、領地に睨みを利かせる為。
それで何とかなったのはアダガ王だからこそだ。
領地から食料などを収めさせ形を成してきた。
グルヴェイグ先生の授業は役に立つ。
「そいつらも金を持ってないんじゃないのか?」
「ええ。しかし持ってないなら金を得る行為を紹介したり、金に代わるものをあげれば」
僕の言葉を聞き終わらないうちに黒ローブは
笑い始めた。
「なるほど……政治的な行動以外にもこの土地の価値を高める事は出来る。直接首都を攻撃するよりより効果的な方法がある、と」
「ええ。この戦争の動きがこの国を狙うグラディウス国の思惑なら、態々体力を減らす事を中でやるんじゃなく、体力を増す方向で戦えばいい。生産は大変ですが、ここには考えられる人たちがいる。知恵比べが出来る人たちがいる。ここは未開の土地。それ故にまだ見ぬ宝が埋まっているんじゃないかと」
「そうかそうか。面白い事をしようとしている奴がいるかもしれないと思ったが」
「興味ありますか?」
「ある」
僕はその先を黙って待つことにした。
ここで急ぐ必要はないただ黙って待つだけだ。
シュミレーションが好きな人は命のやり取りよりも、
この戦いは燃えるものがある。如何に駆使して死を減らし国を取るか。
知恵を駆使した戦いに胸躍らせる。




