きゃっとふぁいとその二
何とか身を起こした僕は、
木にもたれ掛かりながら二人の戦いを
見ていた。二人とも速さが凄くて
目が追いつかない。
にしてもアステスさんは剣相手に
素手で応戦していてかすり傷一つないのが
本当に凄い。妄りに追わず、さっきいた場所で
ヴェルさんの剣を捌いている。
……時々僕に向けて視線を感じるが、
あれは動きを見とけって事で良いんだよね。
なんか見れば見るほど怖いけど。
「猪口才なメイド!」
ヴェルさんはなんとか足を止めようとしていたが、
そこを逆に狙われて一発二発と拳を受ける。
だけどそれを肩や肘に当てさせて
柔らかい部分を避けるように動かしているのは
流石だった。アステスさんはお構いなしに
冷静に確実に拳を叩きこんでいく。
「そろそろ宜しいでしょうか」
距離を取って向かい合う二人。
ただアステスさんは最初のままだったけど、
ヴェルさんは肩で息をしていた。
そして膝や肩、肘が赤くなっている。
「……くそっ」
「今日は引き分けと致しましょう。私も忙しいもので……」
構えたままアステスさんの視線が僕に向く。
なんだろう鳥肌が……。
「良いだろうそういう事にしてやる。では康紀行くぞ」
「……何をいってるんですか?」
「お前は知らんだろうが康紀と私は”仲良し”になったのだ」
ヴェルさんはニヤリと微笑む。
それを聞いてアステスさんの視線は明らかに怒りを宿している
様に見えて仕方ない無表情だけど。
「私と手合せしたお礼に”仲良し”になりたいと康紀は言った。
私はそれにこたえる事にした」
「ならそれは却下します」
「お前に関係なかろう」
「侯爵より康紀様の保護者を言いつけられておりますので」
「彼の希望を無視するのか?」
「危ない者は認められません」
「お前たちも似たようなものだろう」
「ならもう一戦しますか?」
取り敢えず僕は動けない。多分動いたら殴られる。
そんな気がする。
「……ふん。まぁいい今日の所は引き上げてやる。だが契約は成った。それは忘れない事だ」
「契約する、とは言ってませんね?」
「は、はい……」
はい、以外の答えが残されているのだろうか……。
「康紀、また会おう」
そういってヴェルさんは森の中に消えて行った。
大丈夫だろうか、と普段なら心配していた。
というか少しは心配している。
が、今は少し違う。
「康紀様」
「あー、えっとなんだろう……違うんだ……」
「何がですか?」
「えー、あー、粘土質の土を探して……」
「見つかりましたが?」
「はい」
「それは良かったですね」
凄い威圧感が近付いてくる。
僕は木に抱き着きながら逃げようとしたが、
足だけが地面を掻いている。
「あれ……」
目の前で仁王立ちされたので覚悟を決めて
目を瞑ったものの、何も無いので目を開けると
手を差し出されていた。
「立てますか?」
「あ、ど、どうも」
僕はその手を取って笑顔で立ち上がる。
なんだ何もされないじゃないか杞憂杞憂。
「ってああああ!」
一旦立ち上がったものの一本背負いのような
姿勢になったアステスさんに投げ飛ばされ、
森を舞った。どっかで拾ってくれるかと思いきや、
そのまま木に激突してボトリと落ちた。
「いったい!」
何とか不格好な受け身で地面に落ちて、
暫くじたばたしていたものの、誰も来ない……。
結局誰もこないので僕は自力で屋敷まで帰る。
勘を頼りになんとか辿り着いたものの、
アステスさんは何事も無かったかのように
門の前で待っていた。僕も何事も無かったかのように
振る舞う為に杖代わりにしていた木の枝を捨て、
背骨を真っ直ぐにして屋敷に入る。
……話題に触れたらやられる、そんな気がしました……。
いつも通りのスケジュールをこなし翌日。
昨日の場所へ粘土質の土を取りに行くことにした。
台車を借りて屋敷を出た。
「では参りましょう」
アステスさんが先導をして僕が台車を引いて行く。
何だか相変わらず空気が微妙な気がするのは気のせいだろうか。
「あ」
「あ」
当然のように待ち構えていたヴェルさん。
だ、大丈夫なんだろうか。




