きゃっとふぁいと
いつもの鍛錬のように、
避けつつ打ち払いつつ
位置を入れ替え相手の先手を奪う。
攻守が入れ替わり、
僕はその剣を叩き落とすべく
剣だけを集中的に狙う。
「甘いな」
「そうでもない」
そう、侯爵は表向きエレガントを旨としているが、
それだけの人じゃない。手も足も出る。
教師としても凄い人だなぁと実感している。
彼女が僕の剣への攻撃を耐えつつも
身を寄せてくっつけようとしているのを避ける。
体を付けられたら最後、転ばされて喉元か
心臓に切っ先が来る。
「……何故だ」
「何故って」
「お前は私の剣を落とそうと思えば落とせるのに何故落とさないのかと聞いている」
「買被りすぎですよ。落とせないんです。所詮その程度の腕前でしかない」
「戯言を……」
「事実そうでしょう? 今もこうして打ち合っている」
正直女性相手に剣を振るう事に抵抗がない訳じゃない。
剣に集中してもどうしても強く振り切れなかった。
暫くしてヴェルさんは剣を収めてくれた。
「ありがとうございます」
「……元々痛めつけて追い返そうとしたのだがな」
「以後気を付けます」
「そう言われると立つ瀬が無い。私が意地の悪い事をしているのをお前は分かっているな」
僕は苦笑いで答える。
彼らの森に対する執着は聞いている。
明確な線引きはされているが、
そこを意固地になる事は無い。
僕にとって大事なのは目の前の
ダークエルフと知り合う事で、
ダークエルフという種族を肌で
感じる事だ。
「間の抜けた顔をしている割には色々と考えているようだな。まぁ良い。約束は約束だ。仲良くしてやる。で、何が知りたい?」
「え」
「知りたい事があるのだろう人間。ある程度なら教えてやる。ただ条件がある」
「な、なんでしょう」
「私もお前が知りたい」
なんか偉い勢いでまた間合いを詰めてきた。
僕は驚いて避ける。が追いかけてきた。
「な、なんですか一体」
「なんですかとはなんだ。男と女だぞ」
「いやいやいや何を言ってるんですか一体」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃないですよちょっと!」
なんとか組み付こうとヴェルさんは詰め寄ってくるが、
潜り抜けて避けた。それでも諦めずヴェルさんは向かってくる。
「こう見えても獲物を逃がした事は無い。村一番のハンターであると自負している」
「いや僕は獲物じゃないですよ!」
「いいや獲物だ。我々も種族の進化が必要だと考えてい……る!」
エルフって細身の割に体力があるなぁと感心してしまった。
僕は自慢にならないが避ける能力が高いらしい。
侯爵にもその頑強さと回避能力があれば他の者より長生き出来る
と言われたことがある。
「やるな!」
「そろそろ諦めてください!」
「冗談!」
これは今日は粘土質の土を持って帰るのは諦めようかと
考えた時に、蔓に足を引っ掛けてしまった。
体勢を立て直して逃げようとしたが、
回り込まれて体をひっくり返されてしまう。
「あいたっ」
「ふうふふぅ~捕まえたぁ」
ニヤリとしてやったりな顔をして
僕に覆いかぶさるヴェルさん。
これは不味い。なんとか
「でぇりゃあっ!」
何処からともなく現れた黒い影。
ヴェルさんの体を引き剥がし放り投げた。
投げ飛ばされたヴェルさんは、
飛んだ先にあった木にを蹴り飛ばし
投げた相手に向かって突っ込んでいく。
その相手は黒いロングスカートに
白いエプロン、黒く長い髪を靡かせて
華麗にそれをかわした。
「ちっ」
「ちっ、ってなんだ性悪メイド!」
「失礼しました泥棒猫。躾が行き届いていないようなので」
「ど、泥棒猫ってなんだ!? 躾って私は猫ではない! 誇り高きダークエルフだぞ!」
「森の中で発情するなど誇り高いとは思えません」
「森の中で生まれ育まれ死んでいく。それが我らだ。外とか中とか関係ない」
「見境なく発情している割には人口が増えないのはなんででしょうね」
「冷静に分析すんな性悪メイド!」
何やら二人は知り合いのようだ。
僕は取り敢えず地面から起き上がろうとしたが、
何故かアステスさんに足でお腹の辺りを踏まれて
起き上がれない。
「あれ」
「少しそのまま休んでいてください」
……有無を言わさない迫力が横顔から
あふれ出ていた。なんだ怖い。
「こら、私の者を踏むんじゃない」
「寝言は寝て行ってください黒猫」
「黒豹だ黒豹! ダークエルフの黒豹ヴェルに対して放り投げるとは喧嘩を売ったと見て良いな性悪メイド!」
「それ以外何が?」
アステスさんは右足を前にだし、
拳を握って右手を突出し腰を少し落として構えた。
マジのようだ。
「……初めて見るな性悪メイドのその感じは。益々その人間に興味がある!」
その言葉にアステスさんは何も答えない。
だけど何か黒い霧のようなものを纏っているように見える。
ヴェルさんは剣を引き抜くとアステスさんに斬りかかった。
「ちょっと二人とも、スト……いったぁ!?」
僕は止めようと起き上がろうとするが、アステスさんに
蹴飛ばされて吹き飛んだ。痛い。




