野営地にて
「おぉ、皆待っていてくれたのか」
ジャンさんは暫くして野営地から戻ってきた。
紅茶を一気飲みした後、退去組について話してくれた。
やはり話したい事があったようで、
中々話をしてもらえなくてジャンさんに
苦労をかけてしまった。
「まぁどうにもしようがない文句だからな。それでも言うだけで大分違う」
「そういう事だよ。はっきりいって聞いたところでどうにもならないし、こっちもどうしようもない。だが聞いただけで少しでも相手が気持ち良く言う事を聞いてくれるなら安い物さ」
「軍の役職は大体そんなもんだ。歩兵には小隊長が、小隊長には中隊長が、という風に繋がっていく。強い部隊っていうのは繋がりが強い。下の不平不満をある程度解消している大将の軍は一倍程度なら巻き返せる」
僕はそれを忘れないように
頭の中で反復した。
「聞き流すだけでもいいんだ。聞いたと言う事実があれば良い。それに一々対応したり同調しない事。最終的に勝つ為には不平不満を吐き出させつつ抑え込み、進むしかない」
「君にとっては掛け替えの無い中隊長がジャンくんであり、小隊長が親分くん、という訳だ。君の失態に対し二人はそうは思っても君の側について立ってくれている。仮にこの二人が居なかったらどうなると思う?」
親分さんが僕に付かず、
他のボブゴブリンたちを抑えてくれなければ、
ジャンさんがフォローをしてくれなければ、
ほぼゼロに近い状態で始める事になる。
何も無いよりも親分たちが居てくれた方が
確実に他の人たちも仲間になってくれやすくなるだろう。
親分たちと出会い縁が出来た事は
もっと有難いと思っておかないといけない。
「ありがとうございます」
「あいつらにも康紀がこれからだと言っておいた。多少溜飲は下げてくれただろう。兎にも角にもこれから巻き返して行こう。俺も偵察をある程度終えたし、本格的に準備に入るとしよう」
「ジャンくん得意の軍隊式というものを見せてくれるのかな?」
「さぁね。まぁ俺は俺の得意なものをやるだけさ」
「期待しているよ」
エルフのところへ偵察に行くのは後日にし、
僕は次の日から親分たちと交流を始める。
鍛錬や勉強を除いた時間を当てる事にした。
初日は勿論ぎこちないものの、
居住環境を改善しようと木を切り倒し、
斧で割ってその刃を使って皮を取って角を落とし
丸太のようにしていく。
その様子を見て皆真似をしていった。
フェンとヴィトも一緒に来てくれて
見守ってくれている。
簡単な設計図を書いて、
先ずは一つ小屋を建ててみる。
そこから家族の人数とかに合わせて
広さを調整していく。
後僕はボブゴブリンの焼き物を見てみたいので、
窯を作る事にした。
見よう見まねで作るから改良しないといけないけど。
小屋を建てる過程で出た石を、
ハンマーを借りてきて長方形に近い形に
加工して次々に溜めていく。
野営地にはあまり石はごろごろしていないので、
荒れ地まで行って取ってきたりした。
粘土質の土を取りに森の奥まで行ったりもする。
「よしよし、ここの土は良さそうだ」
小さな崖があり、そこを降りて断面を見ると、
丁度真ん中辺りに粘土質の土があった。
ここから必要な分を取って行こう。
「おい貴様……何をしている?」
僕は声の方を振り返ると、
銀の長い髪に浅黒い肌切れ長の目に
すらっと通った鼻筋の美人が居た。
背も高くほっそりしている。
腰には細長い剣があった。
「あ、すいませんちょっと粘土質の土を探してて」
「人間がこの森に何の用だ」
「粘土質の土を」
「それは聞いた。人間の生息区域はもっと荒れ地に近いはずだ」
「ああ」
「ああ、じゃない」
スラリと細身の剣を抜いて
フェンシングのように構えた。
「良いんですか? 剣なんて抜いて」
「なんだと?」
「こちらと敵対するっていう事ですか?」
「……ここは我々の領域だが」
「ここは侯爵の直轄では?」
「貴様あの男の下人か何かか?」
「質問に質問で……はまぁいいか。侯爵には良くして頂いてます」
「なるほど最近うろちょろしている人間とは貴様の事か」
「どうもこんにちは。久遠康紀と言います」
「……良いだろう。私はダークエルフのヴェル。この近くの村の女戦士だ。一つ手合せ願いたい」
「どうもヴェルさん。手合せしたらお願い聞いてもらえますか?」
「事と次第による」
「じゃあ仲良くなってください」
「良かろう」
不敵に笑うヴェルさんに対して、
僕は侯爵から貰った剣を抜く。
「いつでもどうぞ」
その言葉にヴェルさんは真っ直ぐ
僕の眉間を突いてきた。
それを避けて下段構えの剣を斬り上げる。
侯爵の剣はエルフを想定していたのか、
この速度は毎日見ている速度だ。
太刀筋も似たような感じだし、
そう考えると侯爵の元々の太刀筋じゃないのかもしれない。




