ヒキニート冒険者ギルドへ行く
「よう、元気か?」
ジャンさんの声で目が覚めた。
「おはようございますジャンさん」
「ゆっくり休めたようで何よりだ。早速だが街を案内しよう」
「お願いします」
ジャンさんの案内で僕は街に出る。そこはファンタジーの世界だった。狼が二足歩行で歩いていたり、人の様な容姿で耳が付いている人が居たりと、まさにファンタジー。
着ている物も鎧や布の服など様々で、剣や槍を持っている人も居る。異世界に来た実感がひしひしと湧いてくる。
「取り合えず俺一人じゃ無くなったから、冒険者稼業に手を出してみるかな」
「冒険者稼業ですか?」
「そうだ。この世界には魔物だけじゃなく、洞窟にお宝もある。そう言うのをクリアして稼いだり、依頼を受けて解決したりと色々ある。俺一人じゃ心もとなかったんだが、お前も居るならそれが良い」
「そうっすね。ある程度力も貰えているようなんで」
「そうだな。お前の力が何かは俺には解らない。ただ色々やってみて発動する機会を待つのが懸命だ。その為には経験値を稼がないと」
「ゲームっぽいですね」
「お前日本人だから解り易いだろ?俺もゲームをやってたからな。特に日本のゲームは好きだった」
「どんなゲームやってたんですか?」
「日本でメジャーなのは殆どやった。中でもロールプレイングゲームが好きだ。戦闘中に技をひらめくっていうのにヒントを得て、俺も会得した」
「ホントですか!?」
「ああ、その内見せる。俺の業の深さが出てる技さ」
僕はそれを聞いてそこから突っ込まなかった。ジャンさんの業と言うと、恐らく銃。この世界には銃もあるのだろうか。見たところ携帯している人はいないけど。
「康紀、ここが冒険者稼業をやる上で必要な事を教えてくれる場所だ」
「ここが……。冒険者ギルド?」
「ああ、職業安定所みたいなもんだよ。登録してカード貰って仕事を探す」
ジャンさんと見上げた看板の文字。知らない文字だけど読める。何と言うご都合主義。まぁその御蔭でコミュ障ヒキニートでもジャンさんと知り合えたんだから良しとしよう。
西部劇さながらの建物の中に入ると、アメリカのドラマで見る田舎のコーヒーショップのような内装になっていた。板張りの上にブラウンの木の椅子とテーブル。
カウンターはバーのようになっている。そこにはウェーブの掛かった金髪の女性が、つまらなそうな顔をして頬杖をついていた。
「ジャンさんあの人ガラ悪そうっすね」
「そうか?女性は機嫌が悪い時があるもんさ」
「はぁ……」
「俺に任せておけ。一発で機嫌よくしてやる」
ジャンさんは親指を立てつつ、歯をキラリと光らせウィンクしてみせた。やばい、なんかスゲー不安。
「Noooo!」
何故ここだけ英語。ジャンさんはつかつかとカウンターまで行き、寄りかかりながら女性に話しかけた。次の瞬間外まで吹っ飛ばされた。
この人大丈夫じゃなくね?二枚目っぽかったが三枚目だった。僕も顔に関しては凡人だから残念である。
「ちょっと、何か用?」
うわースゲー態度悪い。明らかに年下っぽいけど、ギルドの登録しないと仕事貰えないなら仕方ない。ここは我慢して下手に出よう。
「あの、すみません。こちらでお仕事貰えるって聞いたんですが」
「アンタあのジャンの連れなの?」
「はぁまぁ同郷のよしみと言いますか」
「連れなの連れじゃないの?」
「連れです……」
「面倒だからさっさと前に立ってくれる?」
僕は恐る恐るカウンターに近付いて、ある程度の所で足を止めた。それから機嫌の悪そうな人は、人差し指を僕に向かって突き出すと、光に包まれる。
「へぇ……アンタ変な人ね。ジャンと同じく」
「ど、どうも」
ええ……ジャンさんと同じって中身の問題だよねきっと。見た目はジャンさんの勝ちだと思うけど。
「取り合えずフツーに登録しておくわ」
「フツーですか」
「そ。まんま登録したらアンタの元に変なのが行くからね。まぁ私の気遣いよ」
「そ、そんなに僕の力は凄いんですか?」
「そうよ。レベル一なのにステータスが馬鹿みたいに高いのよ」
「能力的にはどんなもんでしょう」
「聞かないのが賢明よ。スキルは何も無いけど」
「解りました。有難う御座います」
「はい、これ冒険者証ね。裏面読んどいて頂戴」
「どうも」
渡されたトレーディングカードのような冒険者証の裏面には、決まりごとが書いてあった。
”冒険者同士の争いは禁止。仕事を奪うのも禁止。紛争が起きた場合は冒険者ギルドに申し出る。戦争の際には自分で判断する。”
というものだった。あっさりしていて解り易い。ヒキニートでも理解できるのが有り難い。
「取り合えず武器持ってるんだから、近くの洞窟にでも行って見れば?」
「そうします。ではまた」
「いってらっしゃーい」
何ともやる気の無さ全開だなぁ。僕はそのままギルドを出ると、ジャンさんは女の子に声を掛けていた。懲りないなぁジャンさんは。
「よう、終わったか?」
僕に気付いて駆け寄ってくる。
「ジャンさん女の子は良いんですか?」
「ああ、この辺りには洞窟は多いようだ。お前のレベル上げとスキル発動にはもってこいだろう。仕事も結構回ってきそうだしな」
「それを調べてたんですか!?」
「勿論。だけどそれだけじゃあない。あの子達の店とかも聞いてある。稼いだら行ってみよう。何か有益な情報があるかもしれん」
「凄いっすねジャンさん」
「アメリカ人だからって皆が皆俺みたいじゃない。でも俺は軽口を叩ける。これはこの際有利に運べるだろ?」
「尊敬します。僕は女の子が苦手なので」
「苦手とは勿体ない! お前も容姿が悪い訳じゃないんだから、喋りをどうにかしたらイケるぞ? まぁそこらへんも教授してやるから安心してくれ」
ジャンさんの明るさはこういう状況では有り難い。僕一人なら確実に野垂れ死んでる。
「さぁ洞窟にでも行って、あの子達の店へ行こうぜ!」
「僕はあまり武器の類はないんですが」
「その剣だけで充分だろ?斧とかも持ってるようだけど、そりゃ木こり用みたいだし」
「そうっすね。行きますか!」
「そうそう、その調子で行こうぜ!」
こうして僕とジャンさんは街から出て洞窟へと向かうのだった。




