僕の能力と強化案と
僕たちは頷き合い、お互いの仕事に取り掛かる為
席を立つ。
「では康紀様、こちらへどうぞ」
アステスさんに案内されて、屋敷の中庭に出る。
とても綺麗に手入れされており、
神聖な感じさえする。
「侯爵からお話があった力というのを、
私に見せていただけますか?」
僕はその答えに窮した。
正直感情的なのがほぼだ。
今この場で発動できるかどうか。
それに発動したとしてこの綺麗な中庭を
傷つけはしないだろうかと考えてしまう。
「何か問題が」
「えっと、やってみます」
真顔でアステスさんに問われ、
また余計な事を考える前にそう答えた。
「怠惰の結界」
僕は深呼吸した後、右手を突出し
体の中に力を入れお腹から声を出した。
目の前の庭と屋敷の境目の辺り、
二十メートル位先の範囲の円を思い描く。
「……これは……」
地面の色が消えていく。
アステスさんは直ぐに膝をついてしまう。
僕はそれを見て直ぐに体の中に力を入れるのを止める。
半分の距離まで広がった力は、
僕の足元まで戻ってきた。
「だ、大丈夫ですか!?」
僕も膝をつきアステスさんの顔を除く。
目を丸くし動揺しているようだが、
僕の視線を感じて一度目を閉じ息を吐いた。
「申し訳ありません……まさか……」
少しだけ微笑んで絞り出した言葉に、
何処か怒気のようなものを感じる。
首を横に振り立ち上がろうとした。
が、直ぐにバランスを崩してしまったので、
僕は直ぐにアステスさんの肩を抱きかかえて支える。
「あ、失礼しました!」
僕は直ぐに両掌だけを残し体を離した。
「いえ、こちらこそ申し訳ございません……」
何か黒いオーラを放っているような気さえした。
「アステース! ダメだよ、彼は凄いから! 僕が彼に傍に居る事を許可したのは冗談じゃないんだよ!」
侯爵が斜め右上のガラス窓を開けて叫んだ。
花柄のスーツを着ているのには今は触れないでおこう。
「……なるほど。伊達や酔狂ではないと……」
侯爵はアステスさんの言葉に対し、
手を大きく広げて笑顔で天を見上げた。
……あの花柄のスーツは一張羅なのかな……。
「宜しい。申し訳ありません康紀様。私めの失態です」
「いえ、僕もこれがなんだか分からなくて」
「で、ありましょう。私たちは愚か侯爵もこの力の具体的な事は分かりますまい。星の力、と我々は呼んでおりますが、具体的な事はその力が強力であることしか分かりません。よってその力については使い慣れて頂く他ありません」
「そ、そうですか……」
何か分かる事があるかなぁと思ったんだけど、
そうなら仕方ない。慣れるよう練習して行こう。
「ただ分かる事が一つだけありました」
「な、なんでしょう」
「それはつまり体力です」
「た、体力ですか」
「明らかに康紀様には体力が足りないようにお見受けいたします。ジャン様のように動き回るためには、そこをクリアにしなくては」
確かにアステスさんの言う通りだ。
元々引き籠りニートだったから、
絶対的にないものだ。
ジャンさんが単独で動いたのも、
そんな僕が居ては足手まといになるからだろう。
「自己否定することはありません。現状を正しく冷静に分析に把握し認めて受け入れてください。それこそが解決のカギになる」
「ようは体力をつけるしかないって事ですね」
「はい。正直中々大変です。元々鍛えられる人というのは、鍛えることを受け入れられる人です。そうでない人もいるのです。腕立て伏せを一年やれと言われて出来ますか?」
「ちょっと自信が無いですね」
「貴方の好きな事を一年間やれと言われたら?」
「ゲームなら余裕でできます」
「そういう事です」
僕はなるほど、と思ってしまった。
体育会系との違いだろう。
彼らも鍛えるのは大変だろうが、
それでもずっと鍛えることを続けられている。
そういう素養があると言う事だ。
反面彼らはゲームを一年間やり続ける
というのは難しいと思う。
「ですがゲームをしつつも鍛えると言う事を出来る方もいます」
「考え方を変えると言う事ですか」
「もっと言うと、自分の形で徐々に進めていき、自分のペースでどんな状況でも鍛えるという癖を頭でも付け一年間必ずやり遂げるという事を課すと言う事です」
「それをすると僕は剣で最強になれますか?」
「無理です。ですがマシにはなれますし、あの力の消耗を抑えられもします」
「気の長い話になりますね……」
「仕方ありません。一朝一夕ではどうにもなりませんから。ただし康紀様の表向きの力は普通の住人を凌駕しています。エネルギー切れを頻繁に起こしても一撃が重い。そう解釈していただければ」
僕は燃費の悪い戦車らしい。
そうなるとどうあっても体を鍛えないと、
この世界では生きていけないのは間違いないらしい。
……まぁ元の世界でも日本以外なら
死んでたかもしれないほどひ弱だったしなぁ。
「徐々にやっていきましょう」
「そうしましょう。では一時間に一回腕立て伏せ腹筋背筋スクワット、そして朝昼晩に三十分は低速ランニングを」
「おぉ……」
僕は侯爵のマネをして天を仰いだ。




